第5話 到着
「どお?快適でしょ?」
爆音のヘリのエンジン音の中で会話する為に着けたヘッドホンからアエラの声が聞こえる。それに対して返すのはハイエン。
「すごいっすよ!速さもさることながら高度も!人が点にしか見えませんよ!」
ハイエンが目をキラキラさせながら窓の外を見ている。
彼らは今高度400mにいる。
アエラが以前から解析を進めていたヘリコプターで飛んでいるからだ。
操縦士はアエラのバディであり、同室の兵士コーン。
技術開発大隊で兵器の試験運用が彼女の任務だ。
アエラは副操縦士として隣に座っている。
チームの様子などつゆ知らず話しかけている。
対するチームはと言うと、ハイエンは子供の様にはしゃぎながらアエラと話す。
ノーマンはいつものように煙草を吸っている。
レインとクラックスは装備の点検。
エデンは黙って外を眺めている。
普段と変わりない五人に対してヴロードは様子がおかしかった。
右手はヘリ内部のベルトを引きちぎらんばかりに握り、左手で彼の大きな重火器を抱えている。
よく見ると少し震えている。
それを横目で見たエデンがヴロードをからかう。
「なんだヴロード。そのガタイでビビってんのか?まるで赤子じゃないか。」
「う、うるせえ!こんな高さから落ちたら死んじまうだろうが!そんな状況で冷静でいられるか!」
怯え切ったヴロードの叫びに対してコーンが答える。
「あんた特殊部隊員だろ?それも大陸随一の。いつもの作戦の方が危険性はあるだろ?それに落ちるなんて。私とアエラを信用してないのかい?」
「信用してない訳じゃねえけどよ…こんな訓練受けてねぇからよ…」
コーンに突っ込まれて尻すぼみになるヴロード。
それを見てコーンがため息をつきながらガムを手渡す。
「これでも噛んでリラックスしな。少しはマシになるだろ。」
「ありがとよ。でも頼むから操縦に集中してくれ。」
ヴロードは懇願しながらガムを頬張る。
そんな様子を見ながらノーマンがひっそりと笑う。
「もう間もなく到着よ。残念ながら国境防衛大隊の駐屯地までだけど。国家間共有地帯にこれを出す訳にはいかないからね」
アエラがそう言うとノーマンは扉を開ける。
すると駐屯地の広いスペースに帝国の兵士が集まっているのが見えた。
「全員準備は出来てるか?着陸したらすぐ降りるぞ。」
ノーマンの問いに全員が歯切れよく返事する。
先程まで弱っていたヴロードも少し慣れたのかいつもの調子に戻っていた。
「着陸まで20秒!お前らが降りたら私たちはすぐに基地に戻る!燃料が不安だからな!忘れ物するなよ!」
コーンが叫ぶ。
着陸準備でコーンもアエラも余裕が無いようだった。
そのままアエラはカウントダウンを始める。
カウントは正確で、0とアエラが言うのとヘリが地面に設置するのは同時だった。
そのまま六人はヘリから降りる。
全員が降りたのを確認するとコーンはヘリを上昇させ、帰路に着いた。
「幸運と勝利を!TU00!無事帰って来いよ!アウト!」
無線でコーンが飛ばしてくる。
あっという間に無線の圏外に出ていったため返事は出来なかった。
「いやー、快適な空の旅でしたね!今度は操縦したいですよ!」
ハイエンが気楽に言う。
「この任務が終わったらコーンに訓練してもらえ。」
クラックスがハイエンの肩を叩きながら言う。
そんなやり取りをしていると、集まっている兵士をかき分け一人の男が近づいて来た。
「TU00だな。私は南方国境防衛大隊のブレイク大佐だ。現地までの足を用意してある。」
ノーマンが握手を返しながら名乗る。
「TU00のノーマンです。協力感謝します。」
二人が会話しながら進んでいく。
五人はそれについて行く。
ついて行った先には車両が二台用意されていた。
「我が隊にある四台の内の二台用意した。任務中は好きに使ってくれ。君達が到着する頃に補給物資と燃料を追加で運ぶ。まだ用意が終わってなくてな。」
至れり尽くせりの対応にノーマンが感謝を伝える。
「感謝します。必ず期待に応えます。皇帝の名の下に。」
そう言ってからノーマンはメンバーに号令する。
「全員乗り込め!すぐ出発するぞ!」
号令を掛けると皆すぐに取り掛かった。
「夜が明けたばかりでまだ情報が少ないが今わかっている情報を伝える。」
ブレイク大佐がノーマンに耳打ちする。
「爆発地点は半径約40mに渡ってクレーターができていた。深さはおよそ5m。クレーターの中央部分に3m四方の縦穴とそれを囲うように金属の壁がある。そこまでしかわかっていない。」
「ありがたい。特殊任務ではどんな情報も貴重ですから。」
「こちらも任務だ。気にするな。最後に皇帝と中将から伝言を預かっている。『任務達成の為にすべての規制を解く。』だそうだ。」
ノーマンはその命令によって今回の任務の重要性を再度理解する。
その重みを持って返答する。
「了解です。」
そう言って車両に乗り込んだ。
駐屯地を出て40分後ノーマン達は現地に到着した。
そこでTU00のメンバーは驚愕した。
爆発の規模は報告で聞いていた。
驚いたのはそのクレーターの状態だった。
通常の爆発によるクレーターであれば周囲が盛り上がり焦げ付く。
しかしチームが目にしたのは異常な光景であった。
精巧な機械で綺麗に地面から球状に抉り取ったようなクレーターであった。
周囲をよく見ると木々も綺麗に抉り取られた様な状態だった。
それを見ながら専門家であるレインとヴロードが見識を述べる。
「軍の情報じゃ無けりゃあ爆発があったとは思えんな。未発見の旧文明の兵器じゃと思うが…。レインはどう思う?」
「同意見だな。そもそも爆発に見えただけで全く違う現象の可能性もあるがな。現状は未発見の旧文明の兵器による爆発として考えるのが妥当だな。」
「爆発範囲外には一切ダメージを残しとらんし、戦略兵器として最高のもんじゃな。まだこんなんが残っとるとは…」
二人の解説を聞いていると一人の兵士が近づいてくる。
「お待ちしておりました。TU00の皆様。こちらへ。」
兵士はチームをテントに案内する。
中には一人の中尉とフードを被った二人組がいた。
ノーマンはそのフードの意味をよく知っている。
ユディーナ教の神父だ。
しかし彼らの持っている物がその異質さを醸し出していた。
銃だ。
ノーマンは二人組から目を逸らすことなく中尉に問いかける。
「彼らが例のエスペーダの翼か?」
「そうです。詳しい話は彼らから直接聞いてください。私は外に居ますので。」
そう言って中尉は出て行った。
テントにいるのはTU00の六人とエスペーダの翼の二人だけとなった。
「初めましてノーマン大尉。噂はかねがね伺っております。」
エスペーダの翼の片方、背が高く人受けしそうな方が手を差し出してくる。
ノーマンは握手を返しながらチームの紹介をする。
「ここにいるメンバーに階級は付けなくていい。俺もノーマンで大丈夫だ。こっちはレイン。狙撃担当だ。そしてエデン。尋問は彼に。このデカいのがヴロード。爆弾とデカい武器専門だ。で、こっちの眼鏡がクラックス。軍医だ。最後がハイエン。情報の解析担当だ。」
「私はロウ。見た目通り神父です。こっちはイーゴル。共にエスペーダの翼として実践経験者です。遺跡調査は齧った程度ですがね。」
白い歯を見せながらロウが自己紹介を済ませる。
互いに挨拶を済ませ、任務に関する打ち合わせを始める。
互いに互いの腹を探りながら。
宗教、軍事、歴史。様々な事象が絡まりながら、TU00とエスペーダの翼の任務が開始される。
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