第一章:今日から私が貴方の守護天使/03

 先に述べた通り、レイラの自宅は郊外にある一軒家だ。

 白い外壁で二階建て、隣にはガレージが併設。周囲に人家は大して無く、あまり他人が好きではない彼女にとってはうってつけの立地だ。

 そんな自宅からレイラは外に出ると、玄関扉を施錠した後で隣のガレージへと赴いていく。

 リモコンを使って電動式のシャッターを開ければ、その向こうに広がるのは広い空間。車数台が余裕で入りそうな、そんな広々としたガレージだ。端の方には整備用の立派なカーリフトまである。

 だが、そんな広い空間の中に停められているのはたったの一台。古い英国製のスポーツカーだけだった。

 …………一九八五年式、アストンマーティン・V8ヴァンテージ。

 シルバーブルーの渋いカラーリングのそれは、まさに英国紳士といった風貌の優雅なクーペだった。

 二ドア四シーター、五速マニュアル・ギアボックス搭載。エンジンは排気量五・三リッターのV8エンジンだ。ウェーバー製の大型キャブレター搭載で、最高出力は約三七〇馬力。トップスピードは時速二七〇キロ近くと、当時基準ならスーパーカーと呼べるぐらいのモンスター・マシーンだ。

 見た目こそ何処となくアメ車チックな……それこそ顔つきはフォード・マスタングによく似ているが、しかし英国車らしいジェントルな雰囲気も漂っている。それは世界で知らぬ者は居ないスパイ、ジェームズ・ボンド……映画007シリーズの十五作目『リビング・デイライツ』で栄光のボンドカーとして抜擢されたことが、何よりもの証といえよう。

 それが、レイラ・フェアフィールドが愛してやまない、彼女の愛機だった。

 レイラはそんなアストンマーティンに乗り込むと、キーを捻ってエンジンを始動させる。レイラが所有する個体はドイツにあったものを輸入した個体だから、英国車ながら生憎と左ハンドル仕様だ。

 始動させたエンジンが十分に暖まるまでの間、暖機運転の時間を暫しの間、レイラは黙って待つ。待ち時間は少々長いが……しかし長いボンネットの下から伝わる振動と、ガレージに反響する重低音、些か時代錯誤にも思えるバリバリとした甘美な音色を聴いていれば、意外にそこまで苦ではない。

 そうして暖機の時間が終わり、エンジンが十分に暖まったことを確認すれば。レイラはサイドブレーキを下ろし、クラッチ・ペダルを踏み込みながらギアを一速に入れ、ゆっくりと愛機アストンマーティンを発進させた。

 公道に繰り出し、向かう先は――――敢えて語るまでもなく、明らかなことだろう。

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