ユルゲン・クリーガーの帰還
大陸歴1661年11月15日・ブラミア帝国・首都アリーグラード
ルツコイ達がプリブレジヌイに到着して三日が経った。
プリブレジヌイは帝国第二の都市。そうは言っても帝国は首都に人口が集中しているため、プリブレジヌイの街の規模は首都の半分程度だ。街の周りは西と南側には麦畑と草原が広がる。東側は湿地帯。北側は草原で半日も進むとテレ・ダ・ズール公国との国境となる。天候さえよければ、四方の見通しは非常に良い。
首都で反乱がおこり、皇帝がここまで逃げてきていることは街の住民にも伝わり、動揺が広がっているようだ。しかし、幸いなことにここでは住民の反乱の兆候はまったくない。
天気の良い午後、ルツコイが街壁の上で、望遠鏡で地平線を眺めている。今のところ街の近くには反乱軍の姿は見えない。
しばらく眺め続けていると騎馬の影が一つ見つけた。その人物が徐々に近づいてくる。望遠鏡で見つめていると、それが副司令官のユルゲン・クリーガーだとわかった。
「クリーガーだ!」
ルツコイは喜びの感情を隠さなかった。
外壁を降り、門を開けさせてクリーガーが到着するのを待った。
ルツコイの話を聞いたペシェハノフ、ベルナツキーも門にやって来た。ほかの重装騎士団、皇帝親衛隊、一般兵たちも大勢集まって来た。
ユルゲンは門のルツコイ達三人の前まで進むと、馬を降りて敬礼した。
「ユルゲン・クリーガー、ただいま到着いたしました」。
「よくたどり着いた」。
ルツコイ達も敬礼した。次の瞬間、兵士たちから歓声があがった。
「まず、休め」。
ルツコイはユルゲンの肩を何度もたたいて喜びを表した。
ユルゲンはまず皇帝イリアに謁見する。皇帝のいる部屋に入ると、ユルゲンは跪いて挨拶した。
「到着が遅くなり申し訳ございません」。
「いや、よく生き延びて来てくれた。とても嬉しく思う」。皇帝はほほ笑んで尋ねた。「怪我はないか?」
「ええ、ありません」。
「それは良かった」。
皇帝との会話も短めにし、この後、ユルゲンは城の空いている部屋に案内され、その日は休むことになった。
次の日の朝、ユルゲン、ルツコイ、ペシェハノフ、ベルナツキーは会議を開いた。
ペシェハノフが現状を知らないユルゲンに対し状況の報告をする。
「現在、戦える兵力は第六旅団の六千名の兵士。および、ルツコイ司令官が率いる重装騎士団が三百名強のみ。数日前には北の国境線沿いにいた第四旅団は兵士の反乱が起こりイェブツシェンコおよび士官数名が死亡したとの情報が入りました。歩哨からの報告によると、約三千の兵力がこちらの敵になる可能性があるとのことです。今のところ、その第四旅団には動きはありませんが、おそらく首都からの反乱軍の到着を待っているものと思われます」。
ペシェハノフは机に広げてある地図を指しながら話を続ける。
「南の国境線にいる第一旅団、第二旅団の状況は伝令を出して現在確認中です。これら状況がわかるのは後十日はかかると思われます。そして、今のところ首都からの反乱軍はまだ近くまで到着していないようです。後は、テレ・ダ・ズール公国へ援軍の依頼を出したところです。その返事がわかるのには、四,五日掛かります」。
「もし、承諾が得られれば心強い」。
ユルゲンは言った。ルツコイは話を継ぐ。
「敵の数にもよるが、方針としては籠城する。烏合の衆の反乱軍にはここを攻め落とすことはできないだろう。機会を見て反撃し、撃破して首都を奪還する」。
四人が今後の方針や戦闘になった際の作戦を練っていると、見張りの兵士が駆け込んできた。
「失礼します」。兵士は敬礼をして伝える。「歩哨が戻り、反乱軍が接近中とことです」。
「ついに来たか」。
ルツコイはそういうと、街壁の上に向かった。残りの三人も後に続いた。
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