第6話・帝国軍第五旅団長 ボリス・ルツコイ
大陸歴1655年3月5日・午前
共和国軍と帝国軍の戦闘が本格的に始まって数時間。
数は劣るが共和国軍が善戦し、一進一退の戦いとなっていた。
その状況は、後方で陣を構えている帝国軍の第五旅団のボリス・ルツコイの耳にも届いていた。
ルツコイは陣の前に立ち、前方で両軍の戦いによって巻き上がる砂埃を見つめて言った。
「共和国軍は意外にしぶといようだな」
ルツコイは、横に控える副旅団長のレオニード・コバルスキーに話しかけた。
「昨夜のソローキンの陣への夜襲の影響で、兵士達がほとんど眠れていなかったようです」
「敵の夜襲が意外に効果があったということか」
ルツコイは少し考えてから、「よし」というと、コバルスキーに向かって言った。
「馬が少し運動不足のようだから、そのあたりまで走らせる」
「は?」
コバルスキーはその言葉に驚くが、ルツコイは笑みを浮かべながら続ける。
「ここの重装騎士団を全員出撃させる。すぐに準備させろ」
「わかりました」
コバルスキーは敬礼をして、命令を伝えに走った。
すぐにルツコイ配下の重装騎士団三百名全員が整列した。ルツコイはそれを確認して先頭に馬を並べ、命令を伝える。
「これから、ソローキンの部隊の東側を大きく回り込み、共和国軍の側面まで移動する」
ルツコイ達は兜のバイザー(目の部分)をおろすと、それを合図にするように馬を前進させた。
重装騎士団は最初は全力で馬を走らせる。ソローキンと共和国軍が戦っている場所を大きく回り込み、共和国軍の側面につく頃には馬の速度を徐々に落とし、共和国軍からもはっきりと確認できる位置で整列し停止した。
共和国軍がルツコイ達に気が付いたようだ。部隊の一部がルツコイ達に対峙するように移動を開始するのが見えた。
しかし、本来の正面でのソローキンの部隊との戦闘があり、それの対応をしつつ陣形を整えていくは、かなり困難なようであった。
敵の陣形を乱す。これは、ルツコイの思惑通りだった。
ルツコイは剣を抜いて叫んだ。
「突撃だ!」
重装騎士団はその号令に合わせて剣を抜いて、突撃を開始した。その数は少ないが、共和国軍を徐々に圧倒する。
共和国軍は早朝から続く戦闘の疲れと、正面と側面の二面から攻撃されたことによって、徐々に押される形となった。ルツコイ達に倒された共和国軍兵士が数多く草原に横たわる。
共和国軍にある程度の被害を与えたことを確認すると、ルツコイは無理をせず早々に退却命令を出した。
こちらの被害は小さく、敵に与えた損害は大きい。これで、ソローキンの旅団の支援となっただろう。
共和国軍はルツコイ達を追撃する余裕もなく、全部隊で正面のソローキンの部隊との戦闘に戻ったが、一度崩れた陣形を立て直すのは難しく、ソローキンの部隊の優勢は一度は揺るがないものになりつつあった。
ルツコイは来た時と同じように戦場を大きく回り込んで、自陣に到着した。そして、兵たちに待機するように命令を出した。
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