第6話・対決

 我々と反乱兵たちは港に到着した。

 戦争前、ここは貿易船の積み込み人や商人などで大変な賑わいだったが、現在は帝国によって船の入出港は禁止されることになり、今は人はいない。海軍の桟橋はさらに進んだ港の一番端にある。我々はさらに進む。ここまでは、順調に進軍している。ルーデルの予定通りだろう。


 しばらく進み、海軍の桟橋までやって来た。

 そこに、ルーデルの話の通り船が四隻停泊していた。船体に掛かれている文字から停泊している船の名前は、 “アーベントイヤー号” 、“エンデクン号” 、“ヘアラウスフォーダンド号” 、“アンゲヴィーゼン号” だ。

“アーベントイヤー号”が一番大きな船、巡洋艦クラスだろう。残りの三隻はやや小さくフリゲート艦のようだ。


 船の船長らしき人物と海軍士官たちが数名桟橋で待ち構えている。ルーデルは彼らの前に歩みより敬礼をした。海軍士官達も敬礼をし返す。すぐにルーデルは一番大きな船 “アーベントイヤー号” に乗り込み、他の兵士達もそれに続く。

 私もあわてて舷梯に向かう。私がルーデルを追って甲板に登ったのを見ると、エーベルは私が依頼した通り、魔術で火を放った。火の玉は舷梯を直撃し、舷梯が火に包まれた。舷梯の上で乗船中の兵士が火に包まれる。

 そのことで桟橋は大騒ぎとなった。エーベルはすぐさま海に飛び込んでその場から逃げ出した。

 舷梯が焼け落ち海面へ落下した。船の外側にも火が移っている。


「何事だ!」

 ルーデルが叫んで甲板の端まで駆け寄った。

 私は甲板上を見渡した。甲板上に居るのはルーデル始め反乱兵三十名ほど。あとは海軍士官と水兵が十数名。

「火を消せ!」

 海軍士官が水兵たちに指示を出す。しかし、それは無駄な命令となる。私も魔術で周りの船体、マスト、帆に次々と火を放った。すぐに船全体に火が回り黒い煙があたりの視界を遮った。


 ルーデルは私を見つけて言った。

「初めからこのつもりだったのか?」

「そうです」。

「裏切り者め」。

「政府の決定に反しているあなた方が裏切り者です」。

「我々は共和国のためにやっている。正義はこちらにある」。

「あなた方のせいで、帝国軍が動いたら住民に被害が及ぶ」。

「国を存続するためには仕方の無い犠牲だ」。

「その考えには賛同できません」。

 ルーデルは剣を抜いて言った。

「話し合いでは無理なようだな」。

 他の兵士達も剣を抜き私を取り囲む。

 私も剣を抜く。


 辺りは炎が大きくなり、煙の量もそれに合わせて増えてきた。

 右側から兵士が一人、切りかかって来たが、私はそれを躱し、逆にその兵士を斬り倒した。

「手を出すな!私がやる」。

 ルーデルはそう言って、ゆっくりと歩み寄ってきた。周りの兵士達は後ろに下がる。

「まさか、お前とやりあうことになるとはな」。

「師が聞いたらどう思うでしょうね」。

「さあな」。

 ルーデルは、そう言うと素早く切り込んできた。

 私はそれ左側にすり抜け躱した。そして、斜め下から剣を振りぬく。ルーデルの斜め後ろから背中を狙う。

 しかし、それを読んでいたのか、ルーデルは体を前に進めて剣を躱した。彼は振り向いて言った。

「兄弟子だった私に勝てると思っているのか?」

 私はそれに答えず、ルーデルの出方を待った。


 ルーデルは駆け出し剣を振り下ろす。

 私は体を再び左側に躱す。それを見越したかのようにルーデルは剣を横に振りぬき、私を狙う。私は自分の剣でそれを遮った。鈍い金属音が響き渡る。

 ルーデルがもう一度剣を振りぬいてきたので、私は素早く後ろに下がりそれを躱し、間合いを取った。

「逃げ足の速さは昔のままだな」。

 ルーデルはそういって、ゆっくりと近づいて来る。力勝負ではルーデルには勝てない。相手の攻撃を躱しながら、隙を狙うしかない。


 炎が徐々に大きくなり、その熱がかなり熱く感じられる。

 甲板上に居た兵士や水兵たちは、炎から逃れるために海に向かって飛び込み始めた。

 黒い煙があたりを包む。早く決着を付けないと、このままでは、こちらも炎に焼かれてしまう。


 私はナイフを出した。煙の間から一瞬ルーデルの姿が見えた。私は素早くナイフを投げつける。ルーデルの短いうめき声が聞こえた。ナイフが彼の喉元に突き刺さっているのが見えた。

 ルーデルは苦しげな表情と叫び声をあげてナイフを抜いた。

 私は素早く駆け寄り、ルーデルのみぞおち辺りに剣を突き刺した。

 ルーデルは叫び声を上げ、後ろへ倒れた。私は剣を引き抜く。


 私は武器として剣以外に投げナイフを所持していた。これまではナイフは常に三本持ち歩いていたが、先日、武装解除された時、一旦武器は武器庫に置いた。そして、先ほど、武器庫に行ったときには、ナイフは一本しか持ち出せなかった。

 私が武器として投げナイフを使うようになったのはここ数年だ。ルーデルはそのことを知らない。おかげで意表を付いて彼を倒すことができた。

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