第3話・鎮圧命令
我々は武器庫に到着し、武器を取る。私は剣とナイフを一本ずつ手に取った。そして、魔術を使うために必要な魔石も取り出した。
魔術を使うには“魔石”の力を利用する。これがないと誰も魔術を使うことができない。魔石の“品質”によって、魔力の大きさに違いが出て来るので、魔術師は常に良い魔石を探す傾向がある。我々、 “深蒼の騎士” もわずかばかりだが魔術を使うため魔石を使う。魔術師であるエーベル・マイヤーもちろん魔石が必要だ。
それぞれが武器と魔石を所持して、再び反乱兵が閉じこもっている修練所に再び向かう。
修練所で動きがあった。
中で閉じこもっていた数名が出てきて、自分達の要求をブロンベルク隊長に話をしているところだった。
ブロンベルク隊長と話をしているのは、姿が見えなかった士官の一人で “深蒼の騎士” でもあった、エーリヒ・イェーリングだ。
「我々は降伏に反対です。我々だけでも帝国軍と最後まで戦います」。
「何を言っている。政府の決定は降伏だ。ここで戦ったら住民に被害が及ばないようにした決断が無駄になる」。
「政府の決定は承服できません」。
「それに、今、帝国と戦っても勝てるわけがない。街の外に控える彼らの兵力は知っているだろう。無駄死にしたいのか?」
「勝ち負けではありません。 “深蒼の騎士” 、そして共和国軍人としての誇りの問題です」。
「政府の決定に反することは、その誇りを傷つけることになるぞ」。
「それは歴史が判断します」。
「いま、武器を捨てれば、政府には寛大な処置をお願いする。だから、降伏するんだ」。
「我々は降伏などしません!他の都市でも我々に付く仲間がおります」。
イェーリングはそう言い捨てると、振り返り修練所の方へ戻って行った。大きな扉の外側から声を掛け中の仲間に扉を開けさせ、中に入っていった。
ブロンベルク隊長はため息をついた。
そして、武器を持って再び集まってきた士官たちに言う。
「やむを得ん。武力で鎮圧する」。
ブロンベルク隊長は少し考えた後、指示を出した。
「修練所の東西と北側の扉に火を付けろ。あぶり出された者達が南側から出て来るだろう、それを取り囲んで討つ」。
我々は指示のあった通り、火をつけるため東、西、北のそれぞれ扉の前に数名の深蒼の騎士達が並んだ。残りの兵士は南側の扉の前に部隊を展開した。
ブロンベルク隊長に掛け声と同時に火炎魔術で火を放つ。
幾つもの火の玉が扉と壁を焦がしていく。
「火を放ち続けろ」。
ブロンベルク隊長は再び指示を出した。
扉に火が点き、暫くして燃え落ちたあとも中に向かって、火の玉を打ち続ける。
しばらくして、ブロンベルク隊長が停止の号令をかけ、我々は一旦、魔術を使うのを止めた。
屋根にも火が付き、黒い煙がもうもうと立ち込める修練所の中は大混乱となっているようだ。中はうかがい知ることは出来ないが、大勢の叫び声が聞こえる。
しばらくすると、火が点いていない南側の扉から煙と火に追われて出て来る反乱兵が出てきた。その兵士達を待ち構えていた部隊が討ち始める。
修練所の外側にも黒い煙が立ち込めて視界が悪くなっている。そのせいで、私の位置から修練所の南側で行われている戦いの状況を正確に見極めることは難しかった。
はっきり見通せない状況で、同じ共和国軍の制服を着た者同士だと、味方を斬ってしまう可能性が出てきた。
これには隊長も想定外だったのだろう。修練所の外も混乱状態となった。
引き続き、次々と中から反乱兵が出て来るが、煙を利用して上手く城内に逃げ込んだものがいるようだ。そのことが兵士から報告が入ると、隊長は狼狽して命令を出した。
「城門の衛兵に誰も外に出すなと伝えよ!」
複数の兵士達がその命令を伝えるべく、城内に散っていった。
城門は六か所ある。そのどこかから脱出するものがいるかもしれない。
修練所の屋根が完全に焼け落ちた。火を消すために、魔術を使える者が水操魔術で水を放ち消火にあたる。しばらくすると完全に鎮火された。
我々は修練所の中の様子を見る。
中には煙に巻かれ、焼け焦げた屋根の下敷きになっている遺体が数十名あった。
修練場の外で切られたもの数十名、城内に逃げ込んだものが数十名、そうすると反乱に参加していたのは百名程度か。
我々が修練所の焼け跡を見ているとブロンベルクが声を掛けた。
「ここの処理は後でもよい。城内に逃げ込んだものを見つけ出すのを優先せよ」。
「了解」。
我々は城内へ捜索に向かう。
私の後ろをエーベル・マイヤーが続く。彼がぼやく。
「城内に逃げ込んだ者を探すのはちょっと骨だね。しかも我々は、もう軍の組織として機能していない。指揮命令系統がバラバラだ。皆が勝手に捜索をしている、これでは効率が悪い」。
「仕方ない。まだ、ブロンベルク隊長が居るだけましだ」。
私は疑問に思ったことを口にした。
「しかし、たったあれだけの人数で修練所に閉じこもって何とかなると思ったのだろうか?」
「感情のみに突き動かされた、無謀な奴らだったのさ」。
「ならいいんだが」。
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