捜査16日目~副司令官エリザベータ・スミルノワ
マイヤーはオストハーフェンシュタットの駐留軍の司令部がある城の門までやって来た。
衛兵に緊急の要件で、司令官が上級士官に会いたいと伝える。
しばらく待たされた後、やって来たのは茶色い髪を肩の長さにそろえ、細い目で緑色の瞳をした冷徹な印象の人物だ。
マイヤーは敬礼する。彼女は無表情で敬礼した。マイヤーは自己紹介をする。
「私はズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊の副隊長のエーベル・マイヤーと言います」。
「私はオストハーフェンシュタットの駐留軍の副司令官のエリザベータ・スミルノワと言います。それで、ご用件は?」
「ズーデハーフェンシュタットで連続殺人がありまして、その犯人と思われるものを追っています」。
「ヴェールテ家の殺人事件については、先日、ルツコイ司令官からの文章で知っています。その犯人がこちらに?」。
「そうです、犯人と思われるスザンネ・ヴェールテと屋敷にいた執事が逃走中です。他にも一緒に男が五名ほどいるようです。おそらく雇われた用心棒と思われます」。
「用心棒? 武器をもっていたのですか?」
「はい」。
「武器所有禁止令があるので、賞金稼ぎの類はもういないはずでは?」
「しかし、私の部下の話だと武器を持っていたと」。
「そうすると、違法に武器を持っているテロリスト、闇社会の者、もしくは、軍の兵士ですね」。
「軍の兵士?」
「ズーデハーフェンシュタットの汚職の件も耳に入っています。軍の兵士が買収されていたということと、一部の兵士が失踪しているという話から、彼らが金で雇われて用心棒まがいのことをやっている可能性もあるでしょう。ここのイワノフ司令官は、こちらでの汚職の調査の陣頭指揮を執っていて少々忙しいので、この件は私で対応します。ヴェールテ家の者達を捕えるのを手伝えばいいですね?」
「はい、お願いします」。
それを聞くとスミルノワは城の中に戻る。マイヤーは同行されることを許されたので城の中を彼女に付いて行く。彼女は複数の部下に指示を出す。通りで監視をする兵士たちにスザンネ・ヴェールテと執事の特徴を伝え、もし見つけたら捕えるように言う。
この指令が街中に広まるのは少々時間がかかり、今日一杯かかるという。夜は外出禁止令があるから移動できない。そうなると、街中の移動が可能なのは今日の日中までだろう。
マイヤーはスミルノワに礼を言い、クラクスとタウゼントシュタインの事を伝える。
「私の部下たちが、駅馬車の待合場所に向かっています。船が無い今、当初の目的地にダーガリンダ王国へ逃走するなら駅馬車を使って、国境の町ミュンディュンブルクまで移動し、そこから入国をするでしょう。今、駅馬車を使えるのは軍関係者のみだが、賄賂を使えば買収も可能でしょう。彼女たちはずっとそうやって来たので、そうする可能性が高いです」。
マイヤーは一呼吸おいて話を続ける。
「私もクラクス達に合流したいのですが、よろしいでしょうか?」
「いいでしょう、ここの馬を使っても構いません」。
「ありがとうございます」。
「用心棒がいるなら三人では心許ないでしょう。軍から何人か同行させます。私も一緒に行きましょう」。
「助かります」。
マイヤー、スミルノワ、彼女の部下の兵士達十名が城を出発して、駅馬車の待合所に向かう。三十分ばかり進み、駅馬車の待合所までもう少しのところまで来た。
待合所の前ではクラクスとタウゼントシュタインが途方に暮れていた。二人はマイヤーの姿を見つけると声を上げた。
「副隊長、こちらです!」
クラクスはマイヤーと一緒の兵士たちに向かって敬礼した。クラクスはスミルノワを紹介する。
「こちらは、オストハーフェンシュタットのスミルノワ副司令官。捜査に協力してくれる」。
スミルノワも敬礼してから、質問をする。
「で、待合所でスザンネ達の手掛かりは?」
「駅馬車の業者の者や待機している馭者達にも聞きましたが、だれも彼女たちを見ていないと」。
「そうですか。すると隠れられそうな場所は…」。スミルノワは少し考えてから再び口を開いた。「ヴェールテ家はここにも会社を持っていましたよね?」
「ヴェールテ貿易ですね」。
「そこの会社か、もしくは…、貿易会社なら港近くの倉庫なども利用しているでしょう。そのあたりを探ってみましょう」。
マイヤー達は同意した。
貿易会社は港にあると聞いたことがある。一行はまず港へ向かう。
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