捜査14日目~報告

 ズーデハーフェンシュタット駐留の帝国軍第五旅団の旅団長ボリス・ルツコイは自分の執務室で、部下で副旅団長のレオニード・コバルスキーから軍の内部の調査の途中経過を聞いていた。

 ヴェールテ家のから金をもらっていたものは、現状で三十名ばかりわかっているという。これの数はさらに増えそうだという。多くが一般の兵士でヴェールテ家の付近の通りを監視に当たっている者がほとんどだった。ヴェールテ家に出入りする人物がいても報告がされないということだ。また、兵士で現状、数名の行方が分からなくなっているという。


 ヴェールテ家がモルデンにいたころ、やはり金を使って一部隊丸ごと百名近い兵士を買収し街を脱出していた。これは、連続殺人の前に亡くなっているスザンネの夫、ブルクハルトが主導してやったものだ。今回の件は別の男が金を渡していたそうだ。ヴェールテ家の者で男性は長男ハーラルト、次男エストゥス、三男マルティンだが、長男、次男は殺害された。すると残るはマルティンだが、金を渡してきた人物は白髪の老人だったという。

 そうなると、ヴェールテ家の関係者で老人と言えば執事だ。

 まさか本当に執事が犯人なのか。

 先日のマイヤーの報告からは執事が行方不明になっているという。そうなると、執事は逃亡を図ったとも考えられる。

 ルツコイは行方が分からなくなっている兵士数名の行方を追うようにコバルスキーに指示を出した。


 コバルスキーの報告がほぼ終わろうとするとき、執務室の扉をノックする音が聞こえた。

 入ってきたのはマイヤーとタウゼントシュタインだった。ルツコイは敬礼をする二人を見て目を見開いた。

「絶妙なタイミングだな。ちょうど君たちと話をしたいと思っていたところだ」。

「司令官の方から?」

「うむ。副司令官が軍の内部でヴェールテ家の者から賄賂をもらっていた者を特定している。かなりの人数が金をもらっているようだ」。

「そうでしたか」。

「これを機会にまずは第五旅団全体で汚職状況を調べ上げて、関係者を処分しようと思っている」。ルツコイは自分の旅団内の汚職状況が思いのほか酷いので、顔をしかめて話す。「それで、賄賂を渡していた人物だが、白髪の老人だということだ」。

「白髪の老人?」

「おそらく執事だ」。

「やはりそうですか。執事を始め妻のスザンネなども姿をくらませております」。

「待ってください」。タウゼントシュタインが話に割って入った。「白髪の老人と言えば、顧問弁護士のハルトマンもそうです」。

 マイヤーはハッとなった。確かにそういわれればそうだ。

「顧問弁護士?」

 ルツコイは尋ねた。

「そうです。遺言状に従って財産分与をする予定ですが、長男たちが財産の配分に不満で訴えると言っていたそうで、そのゴタゴタが終わるまで弁護士が財産を預かっているそうです。ですので、ヴェールテ家の人たちは現状、大金を動かすことはできません」。

「まさか顧問弁護士が連続殺人と汚職に関わっていると」。

「あくまでも可能性です」。


 マイヤーが身を乗り出して言った。

「確認します。早速、顧問弁護士に会って来ます」。

「待て、待て」。

 ルツコイはあわてて出ていこうとするマイヤーを制した。

「君らも何か話があったのではないのか?」

「ああ、そうでした」。

 マイヤーはルツコイに向き直った。

「実は、ヴェールテ家の奥さんや執事たちが貨物船でズーデハーフェンシュタットから逃走したそうです。彼らを追跡するために海軍の船をお借りできないかと」。

「いいだろう」。ルツコイは即答した。「執事も容疑のかかっている者だ。汚職の実態も把握しなければならなし、それにヴェールテ家の者と言えども許可なく都市間の移動は許されない」。


 ルツコイは姿勢を正し、副司令官コバルスキーに命じる。

「君は、引き続き失踪兵士の捜索と内部の調査を」。

 次に、ルツコイは立ち上がってマイヤー達のほうを向く。

「今から私は、海軍の司令官ベススメルトヌイフに会いに行く。船を一隻借りることができるように命じておく。君らが顧問弁護士に会った後、夕方までには話がついているようにしておくから、直接向かってくれてもよい」。

「ありがとうございます、感謝いたします」。

 マイヤーとタウゼントシュタインは敬礼して執務室を後にした。続いてコバルスキーも執務室を出ていった。ルツコイも剣を持って身なりを整え、港の海軍の兵舎に向かい出発した。

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