捜査14日目

捜査14日目~失踪

 翌日、マイヤーとタウゼントシュタインは朝一番で再びヴェールテ家の屋敷に向かった。

 今日も昨日同様に門扉に鎖がかけられ、誰かがいる気配がない。マルティンも新聞社に出勤したのか不在のようだ。


 次に、マイヤーとタウゼントシュタインは警察本部に向かう。ヴェールテ家の屋敷がもぬけの殻のようだと伝えるためだ。

 警部は会議中で、しばらく待てば戻るという話なので、待たせてもらう。

 しばらく待つと警部が戻ってきた。

「警部、ヴェールテ家の屋敷がもぬけの殻に」。

「それは本当ですか? どこかに出かけているのでは?」

「昨日の午後から不在のようで、マルティンさんにお願いして屋敷に入れてもらいました。スザンネ、執事、召使いの部屋を調べましたが全員居ませんでした」。

「失踪ですか?」

「おそらくはそうでしょう。ルツコイ司令官にお願いして、兵士たちに目撃したものがいないか確認をしてもらっています。軍の方も兵士が複数買収されていたようで、何やら騒々しいことになっています」

「そうですか。わかりました、こちらでも司令官と連絡を取り合って捜索してみます」。

「そういえ、内務局の長官の件はどうですか?」

「内務局の長官の行方は、ようとしてわからないままです。軍から来た情報では、長官がヴェールテ家の屋敷に入っていたのを見たという兵士がいたそうです。しかし、それを最後に足取りがわかりません」。

「昨日、屋敷の中を見た時、他に誰かがいる気配はありませんでした」。

「屋敷の中をくまなく探したわけではないのでしょう?」

「はい。我々はスザンネ、執事、召使いの部屋を見ただけです。我々が去ったあとマルティンさんがもう少し調べてみると言っていましたが、それからは会っていませんので」。

「わかりました。マルティンさんの許可を取って屋敷の中を警察の方で調べます」。

「お願いいたします」。


 マイヤーとタウゼントシュタインは警察本部を出た。

 するとそこに傭兵部隊の指揮を任せているプロブストが慌てた様子で馬で走ってきた。

「副隊長。すぐに見つかって良かったです」。

「どうした?」

「クラクスが行方不明です」。

「なんだって? 詳しく話してくれ」

「今朝、兵舎で彼の姿が見えないと、他の隊員が教えてくれました。訓練にも顔を出していないので調べたところ、彼の武器も一緒に無くなっていました。おそらくは夜明け前に出て行ったものと思われます」。

「早朝は城から出るのは無理でしょう」。

 そうなのだ。朝まで城門は閉まっていて、衛兵が夜通し監視をしている。開門している時間も衛兵が立っているので、知られずに出ることは不可能だ。


 スザンネ達が失踪した上に今度は部下のクラクスが失踪だと? 次々に起こる出来事に、頭の整理がついていかない。

「なんてことだ」。マイヤーは頭を抱えて唸る。何とか考えを絞り出してプロブストに伝えた。「まずルツコイ司令官にもこのことを伝えてくれ。そして、傭兵部隊から二十名選抜してクラクスの行方を追ってくれ」。

「わかりました」。

 プロブストは立ち去ろうとした。しかし、マイヤーは呼び止めた。

「待ってくれ。やはり、ルツコイ司令官には私から話す。我々も兵舎に言ってクラクスの持ち物を見てみよう」。


 マイヤー、タウゼントシュタイン、プロブストの三人は城の傭兵部隊の隊員達が使っている大部屋に向かう。

 クラクスが使っているベッドの下、机の引き出しを開けてみる。そして、あたりも探ってみる。剣はなかったが、ほとんどの私物が残っていた。ということは、長期間留守にするつもりなのはないのだろうか。残念な事に彼がどこに行ったかの手掛かりは見つからなかった。

 今回のヴェールテ家の事件に関係するのだろうか? 任務から外されたことが不満で? もし、ヴェールテ家の事件に関係あるとすると、犯人を捜そうと思っているのだろうか? いや、ヴェールテ家の人々に対して恨みを持っていると言っていた。彼が犯人なのか? それで逃亡を?

 マイヤーはまた頭を抱えた。


 マイヤーは考えをなんとかまとめるとプロブストに言った。

「クラクスのことは任せてくれ。君は部隊のほうをお願いする」。

「わかりました」。

 プロブストは敬礼をし、大部屋を後にした。それを見送ってマイヤーはタウゼントシュタインに助けを求めるように尋ねた。

「どう思う?」

「城門の衛兵に尋ねてみてはどうでしょうか?」

「そうだ。そうしてみよう」。

 城門は六つあるが、まずは通常出入りで使っている城門へマイヤーとタウゼントシュタインは急いで向かう。


 マイヤーとタウゼントシュタインは城門で立っている衛兵に敬礼した。

「聞きたいことがあります」。

「今日、傭兵部隊のオットー・クラクスというものが通りませんでしたか?」

「いつも一緒に行動されている方ですね? 彼なら今朝、お二人が出た後にすぐ出ましたよ」。

「なんだって?」

 マイヤーは驚いた。

「いつも一緒でしたので、今日も任務で出たのかと」。

 衛兵は言った。

 ということは、早朝、大部屋を出て城のどこかに隠れていた。我々が出発したのを見て、その後を素知らぬ顔で出たということか。ここ毎日、マイヤーとクラクスは二人で連れ立って城を出ていたので衛兵も油断したのだろう。

 それにしてもどこに向かったのか?


「彼が出たのは今朝。ヴェールテ家の人たちが失踪したことを知らないはずです」。

 確かにそうだ、クラクスは昨日の朝、捜査から外された。それ以降の動きは彼には話していない。

「もし、ヴェールテ家に恨みがあって復讐をしようとするのであれば、まずは屋敷に向かうでしょう。しかし、屋敷には誰も居ない。すると、我々と同様、彼らの行方を捜そうとするでしょう」。

 タウゼントシュタインは少し考えてから言った。

「移動禁止のため、スザンネ達は街からは出ることができません。街のどこかに潜伏しているか。もしくは」。

 そこまで言うと少し言い淀んだ。マイヤーはその様子を見て尋ねた。

「どうした?」

「もしくは、船で他の街へ」。

「船?」

「ヴェールテ家はヴェールテ貿易を経営しています。貨物船で街を出て別の街へ行ったということも考えられます」。

 その可能性はある。クリーガー隊長がヴェールテ貿易の貨物船に便乗させてもらったのはつい五日ほど前の事だ。ヴェールテ家の者であれば、船に乗るのは簡単なことだろう。

「よし、ヴェールテ貿易に向かおう」。

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