捜査12日目

捜査12日目~汚職

 マイヤーとクラクスは今日もまず警察本部に向かう。昨日のマルティンとの話の内容を伝えるためだ。

 警察長官の部屋に通され、マイヤー、クラクス、ミリューコフ長官、アーレンス警部の四人で話し合う。

 マイヤーはマルティンが兄弟殺しの犯人である可能性は極めて少ないと見解を示し、彼が政府内の汚職を調べていてそれを告発することができないでいると報告した。

 マイヤーの話を一通り聞き終えると、帝国出身のミリューコフ長官は口を開いた。

「共和国の汚職が結構ひどいということは私の耳も入っている。共和国は旧貴族がその財力を使って政府内に影響を及ぼしているそうだね。自分たちのいいように法律などを変えたりしていたようだ」。

「ヴェールテ家は帝国軍の中にも手を出しているそうです」。

「そうなのか」。

「おそらく、他の旧貴族も同様のことをやっているでしょう」。

「何らかの方法で汚職を一掃できればよいのだが」。

 警部はそういうと唸って首を傾げた。

 マイヤーが長官に尋ねる

「ところで、帝国には汚職はないのですか?」

「ないことはないが、共和国ほどひどくない。なぜなら、帝国は皇帝を中心に貴族階級が支配しているから、貴族があえて金を使って国を動かす必要がない。一般の国民も共和国の旧貴族のような大金持ちがほとんどいないから、賄賂を贈ることがあってもそれは些細な額だ。特に大きな問題になるようなことが無ければ取り締まることもしていない。しかし、共和国では旧貴族達が大金を使って政府を操作していた。共和国は確か無血革命で国王と貴族制を廃止したと思うが、これでは革命前と大きく変わらないのでは?」。

 なるほど帝国の事情は分かった。しかし、マイヤーは帝国のような専制君主制が共和制に勝っているとは思わなかった。共和国について帝国の人間にとやかく言われるのは癪に障る。

 マイヤーは感情を抑える様にうつむいた。


 警部が言う。

「今のこの街の一番の権力者は帝国軍のルツコイ司令官だろう? 彼に汚職について話して協力を仰げないだろうか?」

「それは妙案ですね」。

 クラクスがいう。

「しかし、マルティンは、ヴェールテ家は帝国軍まで賄賂を贈っているといっていたね。司令官も買収されているとしたら?」

 ミューリコフ長官は静かに話した。もしそうだとすると、司令官に話をしても無駄ということになるが。

「司令官は大丈夫だろうと思います」。マイヤーは言う。「もし、彼が汚職に染まっていると考えると、この事件の捜査を我々に続けさせるでしょうか? 私は、彼は汚職とは関係ないだろうと考えます」。

「なるほど、そうかもしれん」。

 長官は納得したようだ。

 マイヤーは敬礼をして話した。

「では、早速、我々は城に戻ってルツコイ司令官に話をしてみます」。

「これは大事件になってきたな」。

 警部はそういって気合を入れる様に手を打った。

「よろしく頼む」。

 そういうと、長官は頭を抱えて、背もたれに体重をかけた。

 クラクスも敬礼をして、マイヤーと一緒に部屋を出た。

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