捜査2日目~相続弁護士
教えられた弁護士事務所もヴェールテ家の屋敷からそう遠くないところにあった。
マイヤーとクラクスは馬を駆って向かう。しばらく進むと、 “ハルトマン弁護士事務所” と掲げられた扉の前に到着した。二人は馬を適当な柱に繋げた。
マイヤーは弁護士事務所の扉をノックして開ける。中の大きな執務机の向こう側に目的に人物が居た。痩せて、面長で少々頭が禿げ上がった五十歳ぐらいの男性だ。
「ようこそ」。
男性は二人の服装を見て言った。
「軍人の方が何の御用で? まさか、ご依頼ですか?」
「実は」。マイヤーは話を切り出した。「我々はハーラルトさんの殺人事件について捜査しております」。
「なぜ、軍の方が?」
「ハーラルトさんの死に軍の機密がかかわっている可能性があります」。
マイヤーはいつもの嘘をついた。
「なんですと!?」
ハルトマンは驚いて見せた。
「また、ハーラルトさんの父のブルクハルトさんの死因も他殺の可能性があり、そちらも調査をしております」。
「ああ…、そうなのですね」。ハルトマンは驚きを隠せないようで、少々動揺しているようだった。
「まずはお座りください」。
ハルトマンは椅子を指した。マイヤーとクラクスは椅子に座ると、すぐにマイヤーが話し始める。
「ヴェールテ家の相続でトラブルがありませんか?」
「実はそうなんです。ブルクハルトさんは心臓を患っていたので、遺言書をあらかじめ用意しておりました。その遺言書の内容にいろいろ問題がありまして」。
「問題?」
「屋敷と現金、貴金属の大半を奥さんに残すとあったのです。一方、長男のハーラルトさんにはズーデハーフェンシュタットの会社を、長女のクリスティアーネさんにはオストハーフェンシュタットの会社を、エストゥスさんとマルティンさんには、ほとんど何も分配しないとありました」。
「会社の価値はどれほどのものなのですか?」
「会社は貨物船を八隻を所有しており、全部で二百名程度の従業員を抱えております。それを、ハーラルトさんはとクリスティアーネさんでほぼ半分ずつ分配します。判定は難しいですが、奥さんに分配される遺産の額に比べると、かなり少ないと思います」。
「なるほど。きょうだいは、さぞかし不満でしょう」。
「そうなんです。さらに、奥さんですが、彼女は後妻でしてね。しかも、結婚したのが二か月前だったんです」。
「結婚して、たった一か月で旦那さんが亡くなったと」。
「そうです。そう言うこともあって、息子さんたちは “遺産目当ての結婚だった” と言って反発して、ハーラルトさんとエストゥスさんは遺言書の無効の訴えの裁判を起こす準備をしております。クリスティアーネさんとマルティンさんだけは、それに加わっていないですが」。
「その遺言書は法的に正当なものなんですか?」
「弁護士の私が預かっておる物ですよ。間違いなく正当なものです」。
「失礼しました」。
弁護士が少々不満そうに言ったので、マイヤーは謝罪した。
「ところで、なぜクリスティアーネさんとマルティンさんは裁判に関与しないのですか」。
「クリスティアーネさんは遺言書にある配分で満足しているようです。そして、マルティンさんは、そもそも遺産に興味が無いそうです。彼はもともと、ほかの家族とも距離を置いているようですから」。
ということは、もし遺産目当ての殺人であれば、クリスティアーネとマルティンは外してもいいだろう。
マイヤーとクラクスは弁護士事務所での聞き込みを終え、一旦城に戻ることにした。
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