捜査1日目~クリーガーの提案

 マイヤーとクラクスはヴェールテ家の屋敷から城へ戻った。時間は、既に夕方遅くなっていた。城ではルツコイにも報告をし今日の任務を終えた。

 その後、マイヤーは自分の部屋に戻った。制服を脱ぎ、楽な服装に着替えてくつろいでいると、扉をノックする音が聞こえた。外の人物に入るように伝えると、入ってきたのは傭兵部隊の隊長ユルゲン・クリーガーだった。

「やあ。今日はどうだった」。

 開口一番、彼は部隊の様子を聞いてきた。この人は仕事の虫だから、休み中も部隊のことが気になって仕方なかったのだろう。

 マイヤーは彼の挨拶に笑って答える。

「やあ、隊長殿。今日、ルツコイに呼び出されて、殺人事件の捜査をお願いされたよ」。

「殺人事件?」

 クリーガーは驚いて尋ね返した。

「ヴェールテ家の者が毒殺されて、その犯人探しを。途中、警察に圧力がかかったそうで、お鉢が回ってきました」。

「共和国時代、たまに賞金稼ぎにやらせていたような内容が、今度は、こちらに回って来たということか」。

「そうですね。賞金稼ぎが居なくなったので、頼むところがなく、仕方なくでしょう」。


 マイヤーは今日あったこと、警察本部やヴェールテ家の屋敷に行った内容を事細かく話した。

 クリーガーは少し考えてから言った。

「被害者の父親が亡くなったと言ったね。ヴェールテ家ほどであれば相続が大変だろうね」。

「相続?」

「遺産だよ」。

「そうか! 遺産目当ての殺人か。そうなると、親族が怪しいですね」。

「まあ、可能性の一つだね。相続でトラブルがなかったどうかも調べるのもいいかもしれない。それに、ヴェールテ家の次男は副市長だろう、今はどれぐらいの権限があるのかは分からないが、場合によっては内務局や警察に圧力をかけることも可能だろう」。

「そうなると、副市長が一番怪しいな」。

 クリーガーは再度、少し考えてから言う。

「その父親が病死というのも、再度調べた方が良いかもしれんな」。

「他殺の可能性があると?」

「まあ、可能性だが。遺産目当てで殺されたのかもしれん」。

「なるほど、明日、ちょっと調べてみることにしよう」。


 クリーガーはマイヤーの様子を見て、ちょっと笑って言った。

「なんか楽しそうだな」。

「最初は適当にやって、 “わかりませんでした”、で済まそうと思ったのだが、ちょっとやってみると、 “捜査ごっこ” も面白くなってききたよ」。

「おいおい、部隊のほうもちゃんと見てくれよ」。

「了解。隊長殿」。

 そうだった、部隊もみないと。明日、別の者に指揮をお願いするか。


 すっかり忘れていた部隊のことはごまかすように、マイヤーは話題を変えた。

「そういえば、今日はどうしていたんだい?」

「休みと言っても、やることが無くて、寝ているか本を読んでいたよ」。

「何の本を?」

「兵法書だよ」。

「勉強熱心だねえ」。

「そうでもないよ」。

「ところで、飲むだろう?」

 マイヤーはエールをカップに注いで、クリーガーに渡した。

「ありがとう」。

 クリーガーは手に取ったカップを飲み干した。

 二人はしばらくエールを飲みながら談笑した。

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