【百合】クール美人の後輩♀に凡人の私が貞操を狙われる話

昨日のメロン(きのメロ)

一着目







_ここは清廉学園、歴史研究部。


部室としてあてがわれたボロ教室の中心に、ひっそりと佇むソファがある。そこが、彼女達の定位置だ。


向かって左に座るのが、一年生の赤月 小夜(あかつき さよ)。スッキリと整った顔立ちが印象的な、スラリとした長身の少女だ。


その隣に座っているのが、二年生の阿尾 眞昼(あお まひる)。小夜に比べて幼い顔立ちの、小柄な少女である。


歴史研究部は、ハッキリ言って人気がない。二人以外は全員幽霊部員で、実質部員は彼女達だけである。

その活動も、放課後にお菓子を食べながらダラダラするという形骸的なものだが。


「眞昼先輩」


小夜が、ローテーブルに広げたポテチに手を伸ばしながら眞昼の名前を呼ぶ。

小夜は常にポーカーフェイス気味のため、周囲からは物静かな高嶺の花だと思われている。


「んー?」


眞昼は、スマホで最近お気に入りのイケメン俳優のSNSの投稿を流し見しながら返事をする。

彼女は、この後「お腹すきました」とか「明日の数学の課題やってません」とか、いつもの平凡な会話が続くと思っていた。


思っていたのである。


「好きです」

「んー…って、は?」

「だから、好きです」

「いやポテチ食いながら言われてもさ」


至って真面目な顔をして「好きです」と繰り返す小夜に、眞昼は動揺を隠せない。

とりあえず落ち着こうと、机に置いてあったコーラに眞昼は口を付けた。


「だから、シましょう」

「何を?」

「【自主規制】」

「ぶっ…馬鹿じゃないの!?」


小夜の突然の爆弾発言に、眞昼は口に含んでいたコーラを吹き出す。


「愛し合う二人が密室の中_これはもう、そういうことでしょう!」

「アホか愛し合ってねーわ頭冷やせアホ」

「アホって2回言いましたね」

「うるせーわ!」

「とにかく!」


突然立ち上がった小夜の勢いに押され、眞昼がのけぞった。


「私は…先輩を脱がします!」

「はぁ!?」


小夜がビシッと眞昼を指差し、宣言した。


_こうして、二人の珍妙な日々が始まることになったのであった。


■■■


私の名前は、阿尾眞昼。ごくごく普通で平凡な、ただの女子高生である。

しいて言えば、身長150センチに加えて幼顔なため、未だに小学生と間違えられることがある位だろうか。後10センチ、いや5センチでいいからくれよ。世の中は不公平である。


私は、なんの変哲もない、ふっつーーーの高校生活を送っていたはずだった。


…昨日までは。


そう、同じ歴史研究部の後輩_赤月小夜に、告白されるその時までは。



小夜に告白された翌日の昼休み。私は幼馴染で同級生の由貴と教室でご飯を食べていた。


「もーーーどうしよおおおーーー」

「なーに、どうしたの」


机に突っ伏した私に、由貴が声をかける。


「実は、昨日さぁ…」


…由貴に昨日の出来事を話すと、由貴はブハッと吹き出した。


「何それウケる」

「笑い事じゃないんだってばー!」

「でもさ、今までそんな素振り無かったわけ?もう7月だけど。あの子が入部したのって4月でしょ?」

「無かった気がするんだけどなー…」

「てかいきなりヤリましょうとか、サカってんな〜」


コイツ、完全に面白がってやがる。

ジトーっとした目で見つめると、由貴がアッサリとした調子で言った。


「まぁ、別にいーんじゃない?様子見で。本当にヤバかったら部活に行かなきゃいいだけじゃん」

「確かに…」


頷くと、由貴がヒソヒソ話をするように私の耳元に口を近づけた。


「てかさ、あの子女子校にいたら絶対“王子様”になるタイプじゃん。一回くらいだったら…」

「いやいや何言ってんの!?」

「冗談だってー、そんな怒らないでよ」

「ったくもう…」


とんでもないこと言うなぁ、ほんとに。…まぁ、小夜の顔は確かに整ってると思う。

小夜は、その顔立ちと一見クール(何も考えてないだけだ)な雰囲気にスラリとした長身も合間って、女子生徒の間で人気がある。うち共学だけど。


でも、それとこれとは話が別だ!


「面白くなりそーだな〜、進捗聞かせてよね」

「何も進める予定ないから」

「またまたー、ああいう綺麗系の顔タイプの癖に」

「男だったらね!?」

「意外とイケるかもしれないよ?自分が知らないだけで。そもそもアンタ彼氏いたことないじゃん」


痛いところを突かれ、ぐっと詰まる。


「うっ…うるさいうるさい!私が好きなのはっ…」

「好きなのは?」

「…美形…」

「じゃあいいじゃん。アンタ面食いだし大丈夫でしょ」

「テキトーなこと言わないでよぉ〜…」

「まーほら、話ならいつでも聞くから」


再び机の上に突っ伏した私を哀れに思ったのか、由貴が慰めの言葉をかけてくれた。


「ガチで貞操の危機を感じたら逃げればいいのよ。股間蹴れば女だって1発KOよ」

「そ、そーだよね」

「うんうん」

「よ、よしっ!ありがと由貴!今日も部活行くわ!」

「がんばれー」


拳を固めた私に、由貴がヒラヒラと片手を振った。

なんかテキトーにあしらわれたような気がしなくもないけど、まぁいいだろう。


そうだ。小夜とは4月から今まで三ヶ月の間、放課後は毎日一緒にあの教室でダラダラ喋ってきたんだ。自分的には、結構打ち解けたと思ってる。っていうか正直、由貴以外のクラスメイトより断然小夜の方が仲が良いと思う。


だから私は、あの子が悪い人間じゃないことを知ってる。無理矢理襲ってくることは無いと信じる。っていうか、今は小夜を信じるしかない。


_行くか、部活。



_そして、放課後。

部室のドアの前で、私は息を吸い込んだ。心臓がドキドキと跳ねている。一年生は二年生より先に授業が終わっているはずだから、いつも通りであれば小夜はもう部室にいるはずだ。


私は意を決して、ドアを開いた。


「やっほー小夜、遅れてごめn_」

「さぁ先輩、泳ぎましょう」

「なななにやってんの!?」


ドアを開いて最初に目に飛び込んできたのは_水着の小夜と、ビニールプールだった。子ども用のやつ。狭くて物の多い部室だから、ギッチギチだ。


「何って…プール遊びに決まってるじゃないですか」

「いやいやおかしいでしょ!なんで私怪訝な顔されてんの!?」


え?何どういうこと?最近の女子高生の間では教室でビニールプールすることが流行ってんの?ワッツハプニング!?


「まぁまぁ先輩…落ち着いてくださいよ」

「この状況で落ち着ける奴いねーよ」


だから何で私が異端者扱いなんだよ。今気づいたけどビニールプールの中に水鉄砲あんじゃん。エンジョイする気満々じゃん。

小夜が、かけてもいない眼鏡をクイッと上げる動作をする。何か腹立つ。


「夏といえばプールですよね」

「ま、まぁ…」

「プールといえば水着ですよね」

「そうだね…」

「水着ってことは_制服を脱ぎますよね。つまりそういうことです!」

「グッ☆じゃねーよ!アホか!!」


得意げに親指を立てる小夜。理解できん。なんだコイツ。宇宙人か。


「眞昼先輩…後輩の“先輩に楽しんでもらおう”という努力を無下にするんですか?」

「いやお前さっき「水着なら制服を脱ぐ!」って堂々と言ったろーが!」


ヤレヤレ…みたいな動作すんじゃねーわ。

もう本当何なのこの子。私の口調が悪くなるのも致し方ないよねコレ。


「仕方ないですね…こうなれば強行突破です」

「な…何すんのよ」

「先輩。今日は体育ありましたよね?今ジャージ持ってるの知ってますよ」

「怖っっ、何で私の授業把握してんの!?」

「由貴先輩に聞きました」


アイツ…!情報漏洩じゃねーか!

ごめーん、悪気は無かった〜とか言ってテヘペロみたいな顔をする由貴が目に浮かぶ。


「それに着替えてください」

「ここで!?無理無理!」

「トイレですよ、何言ってるんですか。変な人ですね」


いや私の反応絶対間違ってない!自意識過剰な女みたいな扱いされるの心外すぎるんだけど!


「いいから早く着替えてきてください」

「えっちょ…」


小夜にグイグイと後ろに肩を押され、部室からポイッとほっぽり出される。


「えええー…」


一人、廊下で呟いた。

コレ、着替えなきゃいけない流れ?


帰ろうかな、と一瞬考えたけれど_

_まぁいいか。正直プールで水遊びとか久しぶりすぎてちょっと楽しみだし。


トイレでジャージに着替え、私はもう一度部室のドアを開ける。


「着替えてきたよー…」

「…先輩って、ジャージだとマジで小学生ですね」

「うっ、うるせー!」


開口一番言うセリフがそれかい!


「じゃあ、開始しましょうか」

「何を?」

「“決闘”ですよ_眞昼先輩」


小夜が水鉄砲をピストルみたいに持ちながら、上に掲げた。


「は?」

「第一回!清廉高校歴史研究部水鉄砲バトル!勝つのは誰か!」


何!?突然の開幕宣言!

待って後ろに『第一回 水鉄砲バトル決勝戦』って書いた横断幕あるんだけど。気合の入れ方やばくない!?ってか結局水鉄砲したかっただけじゃん!


「は?ちょっ、ま…」

「スターーッット!」

「ぎゃーーー!」


容赦無く小夜から水鉄砲の攻撃を受ける。

_やばい、このままじゃ死ぬ!※死にません

命の危険を感じた私は、ビニールプールに浮いていた水鉄砲を手に取った。


「オラオラァ!くらえっ!」

「うっ…やりますね眞昼先輩」

「おりゃー!もっとくらえー!」

「うわっ!?…くっ!」


私が小夜に連続射撃を食らわせると、小夜も負けじと水鉄砲を撃ちこんでくる。


…その後は、ビッショビショになりながら水鉄砲の撃ち合いを楽しんでしまった。ソファの裏に隠れて銃弾を避け、スライディングしながら撃ち込むというアクション映画さながらの白熱具合だった。


_そして疲れてふと我に返り、教室の惨状に絶望し…「何故あの時あんなに盛り上がってしまったのか」という一種の賢者タイムを迎えながら、無言で二人で部室を片付けた。


片付け終わった後は、二人でまたいつも通りのバカな会話をしながら帰路に着き_

_とりあえず、その日一日は無事に(?)終了した。


さぁ、明日部室の扉を開いたら…一体何が待っているんだろう?



◆◆◆◆

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