僕だけを憶えている君と、君だけを忘れてしまった僕。
閑谷
第1話 ある日の放課後。或いは僕の記憶について。
――あの時のことは、正直言ってはっきりと憶えているワケじゃない。
高校の中間考査を終えて、僕はいつもの様にバスに乗っていた。
定期考査がある日は昼に下校になるため、確かその日も一時位にはバスに乗っていた筈だ。
まだ六月だというのに気温は三十度を超えていて、テレビは真夏日だ何だと騒いでいたっけ。
とにかく、バスの弱い冷房ですら天国に思えてしまうくらいには暑かったのは間違いない。
平日の昼という時間の所為か、バスに乗っていた客は僕一人で、僕はのんびりといつもの風景を眺めていた。
まだ蝉の声もしないような、静かな日だった。
ゆっくりと景色は変化し、自宅のアパートが近付いてくるのが分かる。
――それは、大きな商店街の交差点に差し掛かった時だった。
ビーッ!ビーッ!
けたたましいクラクションの音がした。
音のした方を見ると、僕が座っている座席に向かって、右の道から白い軽トラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。
嘘だろ。
そう思った次の瞬間、バンッ!という大きな音と何かが潰れるような音がして、僕の体は左前に落ちた。
割れるように痛む頭に顔を顰めながら、僕はバスの座席を見上げていた。
「――■■■?!――■■■――?」
そう言えば、何かを探していたような、叫んでいたような気もする。
――バスって、ひっくり返ったりするんだな。
なんて、そんなことを思って・・・
僕は、意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます