5【第四話 終】

〈個人ブログ「現代の都市伝説を追え」――【或る作家の死】項より(後半)〉




 最後に亡くなったのは、S氏の奥様であるМさんだった、と言われています。言われています、と曖昧な言い方になってしまったのは、多くの都市伝説や怪談話などと同様、この話の明確な終わりをどこに置くか、の判断が難しいからです。もしかしたらМさんの死以降も、私たちが知らない、気付いていないだけで、彼の作品のモデルとなり、現実で死を遂げた人間はいるかもしれません。ただ、すくなくとも週刊誌などで報じられたのは、Мさんの死まで、です。なので今回は、彼女の死とともに、この件は終着した、という前提をもとに記事を書いています。


 最後の被害者であるМさんの死因は自殺でした。


 お湯の張った浴槽の中、包丁で首を切ったそうです。遺書もなく自ら死を選んだその理由もはっきりとしない彼女に対して、被害者、の表現が適切かどうかは悩むところですが、彼女の死に呪いが関わっているのならば、ということで被害者と置くことにしました。ただ、もし仮に週刊誌が報じた内容に苦しんで死を選んだのだとしても、被害者に変わりはない、と言えるかもしれません。自分のことではないのに思わず殺意を覚えてしまうほどに、あの時はひどい記事が多かったですから。


 前述したように彼女は、絶筆となり死後出版されたS氏の最後の著作、そのヒロインのモデル、と言われています。


 彼の最後の作品、最後のモデル、その人物の死によってこの呪いが終わりを迎える、というのは、あまりにも出来過ぎた話に思えなくもないですが、もう事件からそれなりに経っていますし、敢えて不謹慎を承知で言わせてもらえば、半年の間に六人も、彼も含めれば、ひとりの人間の周囲で七人もの人間が亡くなる、という騒動自体がどこか物語めいていて、その結末が腑に落ちるように感じてしまうのも事実です。


 この出来事によって、過去にベストセラーもあるとはいえ、小説好きなら知っている、くらいの知名度だったS氏は、一躍時の人となり、生前では考えられないほど、多くのひとに名前を憶えられてしまったわけです。この事実には、個人的にすこし寂しさを覚えてしまいます。


 こんなふうな形で知られることに、件の作家は草葉の陰で素直に喜べるのだろうか、と。


 そして事が終われば、こんな大きな出来事であっても関係者以外は簡単に忘れてしまいます。かく言う筆者だって、こんな活動をしていなければ、いまも記憶に残っていたか怪しいものです。


 先日、ふと立ち寄った書店で彼の著作が一冊もないことに気付いて、そんなことを考えてしまいました。

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