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〈個人ブログ「現代の都市伝説を追え」――【或る作家の死】項より(前半)〉
それは作家の呪いか。
今回紹介する現代の都市伝説は、つい最近話題になったばかりなので、作家の実名も込みで多くのひとが知っている話だと思います。とはいえ、事態が収束してからまだ日が浅く、実際に死者も多く出ているような出来事なので、関係者に配慮して、名前はすべてイニシャルにしました。コメント欄などにも、実名等は書かないでください。
最初に言っておきたいのが、筆者は今回の事件の関係者ではありません。知らない方のために添えておくと、筆者は某オカルト情報誌の元編集者で、いまは不可解な死を遂げた姉の死の真相を追う、ただの一般人でしかなく、事件当時に週刊誌で飛び交っていた情報以上に特別な知識は、一切持っていないです。
そんな半端な知識で何故書こうと思ったか、と言えば、私とこの事件がどこか遠くで繋がっているような印象を抱いたからです。特にそれが何なのかは分からず、ただの予感に過ぎないのですが……。今回この出来事を扱った動機はこれに尽きます。
ベストセラーになった著作もある作家のS氏の死が、事のはじまりでした。
S氏の死については、不審な点はひとつもなく、膵臓癌だった、と言われています。ステージが進んでいても、あまり外見的な変化はすくなく周囲にはぎりぎりまで隠していて、奥様のМさんにもいずれ治る病気だ、と伝えていたそうです。余談ですが絶筆になったS氏の最後の著作は自伝的な要素も色濃い恋愛小説で、本人の口からそう明かされているわけではないものの、ヒロインのモデルは奥様のМさんだと解説されている評論家も多いです。
愛妻家の一面もかいま見れて、すこし羨ましくもなりますね。
……と、話を戻します。
このS氏のすべての著作にはちょっとした共通点があり、それは作中の登場人物のうちの最低ひとりは彼の周囲の誰かがモデルになっている、というものです。そんなの決してめずらしい話ではないのでは、と思う方もいるでしょう。確かに作家が見知った誰かを材にとることはよくある話なのかもしれませんが、それでも作品になる過程で大きく脚色が加えられたりするものです。私小説なら話は変わってくるかもしれませんが、特にS氏はどちらかと言えば、基本的にエンタメ系のひとでしたから。
なのに……、
S氏は知っているひとが読めば明らかに、あのひとだ、と分かるような登場人物を配し続けて、現代の出版業界において抗議の多い作家の代表格として有名だったそうです。仕事仲間としては関わるのに勇気が要りそうな作家ですね。それでも彼の作品が途絶えなかったのは、彼の作品の面白さ、応援する熱烈な愛読者の多さ……、それ以外にはないでしょう。
その中でも、その要素を過剰に注ぎ込んだのが、彼のデビュー作だと言われていて、その作品の中にはそれ以降の作品を一切認めない、という向きもあるそうです。基本的にエンタメ系と前述しましたが、このデビュー作に関しては、エンタメ性はかなり稀薄です。
S氏の死んだ、三ヶ月後でした。ビルの清掃員をしているS氏の兄が不可解な転落事故で命を落としたのです。事故死として結論付いたものの、その死には不審な点が多かった、と言われています。最初にこの事故を記事したのは、前に筆者が勤めていた出版社が刊行していた、すこし下世話なところがある某週刊誌だった、と記憶しています。
恨み続けた作家の呪いか。
みたいな見出しだったはずです。S氏の兄は有名なミステリの賞を受賞したS氏の七作目の著作に登場するタレントとして成功した主人公の兄のモデルとなった人物で、ギャンブル好きで借金を抱えていて、頻繁に小金をせびりに来る人物として描かれています。内容は倒叙形式のミステリで、このキャラクターは物語の中で主人公によって殺害されてしまいます。
作品で兄を殺した作家の呪いは、現実にも浸食するのか。記事は、そんな内容でした。
次が、その一ヶ月後、S氏の大学生時代の元恋人で、女優をしていた女性の死です。自宅で亡くなっている姿が発見され、心臓発作だと言われています。彼女をモデルとした登場人物が出てくるのは、S氏の最高傑作との呼び声も高いデビュー作で、この作品は現実と虚構の区別が付かなくなったS氏自身を思わせる主人公が、周囲の人間を殺して回る、という内容になっています。
主人公の凶行の被害者として彼女は登場して、筆者はまだ実際にそのデビュー作を読めてはいないのですが、内容を調べる限り、主人公を手ひどく振ったことが原因で殺害されるそうです。ちなみにこの女優ですが、福井県に拠点を置いた新興宗教を騙った詐欺団体が破滅していく顛末を綴った【ある宗教団体の終局】の項とも関わりがあって、彼女はこの団体が制作していた勧誘ドラマの主演女優だったそうです。
彼と関連する、このふたつの死は、たまたまでしょうか?
もちろん偶然という可能性はありますが、ここまで近い間に死が立て続くと関連付けたくなるのも、人の性、と煽情的に書く彼らの気持ちも分からなくはありません。先述した雑誌も含めて、一部の週刊誌がこれでもか、と執拗にこの話題を取り上げ続けたのを覚えています。……ただ、それらの記事の内容の正しさについてここで語る気はありません。
ただ、S氏の死から半年以内に、彼の著作のモデルであり、なおかつ作中で死を遂げている人物……このふたつに該当する人物が、六人も死んでいる、ということだけは確かです。
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