虚愛
星夜 かなで
今だけの恋人
「おーい、駅まで一緒に帰ろう」
帰り道、自転車を押した彼が、後ろから声をかけてきた。
「……うん」
夕焼けに照らされたその笑顔に、私は頷き返す。
「やった」と無邪気に笑う彼を見て、私はなんだか申し訳ない気持ちになった。
多分、私たちは一生一緒にいるわけじゃない。
どんなに長くても、せいぜい高校を卒業するまでの関係だろう。
君はそのうち、私よりもいい人を見つけて、きっとその人と幸せになる。
私にしているのと同じように、陽だまりのような笑顔を向けて、ぎゅっと強く抱きしめて、優しいキスを落とすのだろう。
多分私も、そのうち他の誰かと付き合って、出かける時には手を繋いで歩き、帰りにはその人の肩に身を委ねて眠る。
今一緒に歩いている私たちは、いつか別々の道を歩むことになる。
それは別に悲しいことじゃない。
辛いとも思わない。
……きっと、そういうものだから。
別れたいのかと言われれば、そんなわけがなかった。
彼のことが好きなのかと聞かれれば、好きだとすぐに答えられる。
……多分、君もそう。
だけど時々、客観的に私を見ている私が言うのだ。
私たちは、終わりに向かって歩いてる、好きになりすぎてはいけない、と。
きっといつか大人になって、こんなことを考えていたことすら忘れてしまう。
そんな私の隣に、多分君はいない。
今の私には、それはものすごく怖いことのように思える。
だけど未来の私からすれば、古い思い出になってしまうのだろう。
「ん、どうしたの? 思い詰めた顔して……なんかあった?」
優しくて察しのいい彼が私の顔を覗き込んだ。
「ううん、なんでもないよ」
「本当に? まぁ、言いたくないなら無理には聞かないけどさ、悩んでるなら力になりたいんだ」
「本当に大丈夫、ありがとね」
私が笑うと、彼も「そっか」と笑った。
「……ずっと、一緒にいられたらいいな」
そんな彼を見て、気づいたらそう口にしていた。きっと叶わない未来の姿を、彼となら想像できるような気がしてしまったから。
「なっ!? へへっ……じゃあ、ずっと一緒にいようか」
彼は一瞬慌てたように顔を赤らめ、それから誤魔化すように照れ笑いをして、最後には大人っぽく微笑んだ。
「……うん」
赤く照れている夕日の元で、私たちは果たされない約束をした。
駅はもうすぐそこだった。
いつか振り返ることになる古い思い出を、少しでもいいものにできるように……。
「もう少しだけ、一緒に歩いていこうか」
「わかった! 駅の中まで送るよ!」
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