09

「あなたですね、河井美穂先生」

 美穂は指差され、犯人と名指しされたのに、動揺するような素振りも見せず、口を開く。

「どうして、そう思う?」

 美穂の表情は読み取れない。否定も肯定もせず、ただ、そう聞いた。

「張り紙が貼られた時に、みんな騒ぎました、自殺じゃなくて、殺されたの? って」

 佳乃は思い返した。確かに、みんな殺されたかも、という思いに、動揺していた。

「なのに、先生はなんて言いました? 毒リンゴって何だろうって、誰もが、殺された、というワードに、反応していたのに……殺された、というワードは、先生にとって、何の意味も持たなかった、そう感じました」

「それって……自分が殺したから、殺されたのなんて、わかってるとか、そういう事ですか?」

 弓月が、怯えた様子で、そう夜慧に聞いた。

「殺してたら、そんなもの貼るのは、行動としておかしいわよ、隠したいはずなのに、わざわざ……それに毒リンゴの意味も、自分でわかるでしょう」

 あぁ、そうかと、弓月が体の強張りをほどく。

「じゃあ、殺したのは、先生じゃなくて、別にいるの?」

 佳乃が、不安そうにそう問うと、夜慧は顔を横に振る。

「殺されていない……ある意味、殺されたのかしら」

 なんだか、嬉しそうに勿体ぶる夜慧。優越感に浸ってやがるな、そう佳乃は、口に出しそうになって、寸前で堪えた。そのかわり、急かすように「夜慧」と一言飛ばす。

「ふふふ……じゃあ、死の真相について、これは確証がないわ、証拠も、今さら見つからない、先生もそうですよね? そうかもしれない、と思って張り紙をした」

「……そう、私の頭では、限界があったから、学校一の……いや、そこら辺の大人や、警察より賢い夜慧の教室に、あんな張り紙をしたんだ、何か確証か、証拠を見つけてくれると、淡い期待をして」

 美穂は、自分が張り紙をした、と自白した。少し生徒会室がざわつく。

「ごめん、こんな騒動を起こして」

 みんなに向かって美穂は、頭を下げてそう言った。

「まぁ、頭をあげてください」

 そう優しく言うと、美穂の肩に夜慧が手を置く。その言葉に反応して、美穂は頭をあげた。

「今度、その事に対してのお仕置きを、念入りにするので、それでチャラです」

「んあ?! す、するの?」

 恐る恐る美穂が言うと、夜慧が頬を染め、恍惚こうこつとして「はい」と。何する気だ変態、そう佳乃は、口に出しそうになって、寸前で堪えた。美穂は、何をされるのか怖くて聞けず、頭を抱えて唸る。

「さぁ話を戻しましょう……死の真相について」

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