02

「白雪姫って自殺じゃなかったの?」

「殺されたってヤバくない」

 ヒソヒソとそんな声が聞こえ、佳乃は不安に思う。殺されたという、穏やかではない話と、こんな張り紙をする人間が、この学校を出入りしているという事実に。

「夜慧、このままだとヤバイかも」

「えぇ、そうね」

 夜慧の表情が険しくなっていた。夜慧なら何とかしてくれる、そんな安堵感が佳乃の中に広がってくる。

「私への注目が奪われているわ」

 おや、と佳乃は自分の耳を疑った。夜慧が小声で言ったその言葉は、生徒を心配する言葉というより、自分の注目度が落ちる事への心配。佳乃の中に俄然、不安が広がる。

「この件は一旦、生徒会が預かります! 今日のところは、普段通りの生活を続けて」

 夜慧がよく通る声でそう告げた。



 白雪姫と呼ばれていた生徒は、この学校では一人しかいない。安藤来夏あんどうらいか、生前は高校二年生。容姿端麗、成績優秀、さらには運動神経が、絶望的悪かった。何でもできそうなイメージから、かけ離れて運動がダメだったせいで、そのギャップが可愛いと、よりファンを増やしたらしい。でもそれだけなら、白雪姫などと呼ばれなかった。彼女はハーフだったのだ。西洋風の顔立ちに、まだ踏み荒らされてない、新雪のような銀髪。それがあって白雪姫と呼ばれた。

 そんな彼女が、学校の最上階の窓から、転落して死亡した。警察の判断は自殺。人から好かれ、容姿にも恵まれ、どんな将来も選べる頭脳があった順風満帆な彼女が、自殺するのは不自然と誰もが思った。しかし、殺されるほどのトラブルを抱えるような人間でもなく、事故の痕跡も警察は発見できなかった。彼女の死は釈然としないものだった。



「これは由々しき事態よ!」

 生徒会室に役員全員を召集した夜慧が、そう宣言した。役員たちは、その言葉に重く頷く。何があったかは、全員がすでに聞き及んでいるようだ。ただ、みんなが思ってる由々しき事態と、夜慧の思う由々しき事態にズレがある事は、佳乃だけが理解していた。

「私の注目度が! 人気が奪われたわ! 張り紙一枚で!」

 ほらね。佳乃はそう思いながら、役員の顔を見渡す。それぞれが驚いたり、呆れたり、頭を抱えたりしている。そんな状況に夜慧は見向きもせず、話を続けた。

「私への挑戦……いや、これは反逆よ! 謀反よ!」

 熱がこもった声をあげながら夜慧は、机に音を立てて手を置くと、役員全員の顔を見て言い放つ。

「これをやった奴を捕まえるわ……野郎なら死刑! 女の子なら念入りにお仕置きよ!」

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