saloon. (moonsalto)

春嵐

01

 綺麗な月だった。流れ星も、少しだけ流れている。この街の良いところであり、自分がここに留まる理由。


「おい」


 後ろから蹴飛ばされる。サルーンの用心棒。


「どけ」


 蹴飛ばされる勢いを背中で殺し、椅子スツールを回転させて振り向く。


「席は早い者勝ちだろ」


「そこがいい」


 立っている用心棒。その隣にいる女が、後ろに回り。膝。かっくん。


「行くわよ」


 用心棒が引きずられるようにいなくなった。女のほうが、勘が鋭い。

 女の、命日だった。

 月に、グラスを向ける。


「乾杯」


 ちいさなひとこと。夜に融けて、消える。


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