1話30分で仕上げるロボット物
ハムカツ
第01話『なんてこった。相手はハイエルフか!』
「あーくそ、こんな依頼を受けるんじゃなかったぜ」
狭い操縦席の中で悪態をつく。辺境の村を守るだけの簡単な仕事にしちゃ随分と報酬が良いと思っていたがこんな裏があったとは思わなかった。
「こっちは量産性位しか取り柄のないゴブリンタイプだぞ?」
基本性能の差が大きすぎる。そもそもサイズからして倍は差があるのだ。
同じヒューマシーンではあるものの。俺が駆るゴブリンタイプは6メルテ。対して敵の駆るエルフタイプは9メルテを超える。
手足の長さが違う、そもそもパワーも違う。速度も当然相手の方がずっと速い。
それよりなにより、根本的な問題として――
『カスタムされているようだが、ゴブリンタイプか…… 剣を抜くまでもない!』
振りかざした手に、魔力が収束し。そして俺に向かって放たれる!
「畜生! やっぱり装備していやがったか!」
収束魔力砲。エルフタイプの装備する必殺兵器。ヒューマシーン同士の戦闘において同格が相手の場合。遠距離武器は決め手にならない。
魔術は距離の累乗に反比例して効果が増大する。つまり近ければ近いほど効果が強くなる。
つまり、魔力で自分を強化して殴るってのがスマートなやり方だ。
余程力に差が無い限りは。
「このぉっ!」
左腕を覆ったマントをはためかせ、俺は愛機のゴブリンをジャンプさせる。それ相応にチューンしているので。反応も悪くないし、装甲だってそれなりだ。
だが、流石にハイ・エルフタイプの魔力砲を受ければヤバい。
強化した正面装甲なら弾ける可能性はあるが、試してみるのは流石に嫌だ。
ゴブリンの頭の横を、強力な魔力の奔流が通り過ぎたのを感じる。魔導センサーなんてものにも頼らなくても分かる迫力。本当に嫌になってしまう。
「さて、こっちの武器はっと」
一応、それなりの装備は整えている。
効果がありそうなのは白兵戦用のハードナッター。軽作業にも応用出来て何より入手もしやすい便利な奴だが。流石に格上のハイエルフタイプを相手にするにはちょっと辛い。
頭部に内蔵された対人用の火砲は、センサーを狙えれば無駄ではない程度。
余程近距離に近寄れなければ意味は無い。
そしてあと一つは――
「奥の手って奴は切りたくないんだがなぁ……」
だが、そうも言っていられない。生きるか死ぬかの大勝負。ここで負ければ恐らく俺に依頼してきた女の子は死ぬだろう。
俺を歓迎してくれた村の連中も、すまないと言った村長も。この大した特産物もない辺境の平和な村が、あの高慢な白いハイエルフタイプを駆るヒューマシーン乗りに蹂躙されるのだ。
(大方、貴族がお遊びでって辺りか?)
大っぴらに人を殺すのは許されない。だが中央から離れた辺境の街でヒューマシーンを使った人間狩りを楽しむ連中がいるなんて話は珍しくもない。
「じゃあ、本気のゲームって奴を教えてやる」
そう、他人の命を一方的に奪うなんて話。遊びとしても趣味が悪い。
この世界で最高のゲームは、ヒューマシーンを駆り。己の命を賭けて全力を尽くして戦う事だ。
それをこの目の前に立つ駄エルフ乗りに叩き込んでやると心に誓った。
◇
どうやら村の連中は、ゴブリン乗りの傭兵を雇ったらしい。
まぁ、人間狩りの余興としては悪くないと見逃した。貴族なのだから平民の命など遊びで消費しても問題はない。なのに最近は法や平等などという言葉で随分と窮屈になっている。
そんな中でも、3度繰り返したら。ただ人間を狩る行為に飽きは来る。
だからちょっとした余興のつもりだったのだ。
「くそ! それなのに、何故だ!」
多少見てくれはよく改造されていた。装甲はそれなりに上品な深紅の色合いに塗り直され。装甲は多少厚くはなっているし。センサー系統もある程度入れ替えられているのだろう。鋭い目をしている。
だが、それにしても速い。
左肩を隠すマントをはためかせ、草原を文字通りに駆け巡る。
「魔力砲を10発は放ったのだぞ!」
こちらの攻撃が読まれている。そうだとしか思えない。
「ええい、ゴブリン程度にと思ったが!」
操縦桿を捻り、愛機であるハイエルフに剣を構えさせる。
王都で作られた最新式の魔導機構剣。たとえドラグーンタイプであっても真っ二つに切り裂けるという触れ込みで。あのゴブリンタイプには勿体ない代物だ。
「この剣を受ける栄誉を与えてやる!」
もしかすると、ゴブリンタイプとはいえ。名がある傭兵の可能性はある。
それこそ二つ名持ちであれば、相応の名誉が得られる可能性も考えられた。
「ええい、そうに決まっている! 死ねぇ!」
魔導機構剣を振るう、エルフタイプの性能はスムーズに巨大な刃を振るって――
「な、なにぃ!」
それすら、赤いゴブリンタイプはひらりとかわす。いや、こちらの間合いの内側に踏み込んでくる。
「だが、しかし!」
間合いの内側に入れば、剣を振るう事は難しい。
だが、近接距離でも魔力収束砲を放つことは出来る。
「これで、終わりだぁ!」
剣でとどめを刺せなかったのは悔しいが、それだけの強敵だったのだと思おう。
撃鉄を押し込み、ハイエルフタイプの頭部に仕込まれた砲身から閃光が走る。
「ふっ! この距離ならば……」
だが、しかし。赤いゴブリンは倒れていない。
胸部装甲に直撃を受けながら、黄色の瞳が揺れた。まるで嗤うように。
ずるりと、マントで隠されていた左腕から何かが伸びる。
「そ、それは。その腕は――っ!」
ゴブリンタイプには合わない、白く鋭い巨大な腕。
それはまさに死そのものだった。
「まさか、貴様は――!」
そう、ゴブリンタイプを駆る傭兵にも。二つ名持ちは存在する。
「
その腕は伝説の機体から受け継いだとも。最新の魔導技術の結晶だとも言われているが詳しい事は分からない。
ただ一つ、確かな事は。その腕を振るわれたものは皆死んだという事実だけ。
そして、俺の視界の中で。白い腕が――
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