第17話 三人の集会 4
こうして一応の形で完結した実験の後も、集会の頻度は減らしたものの3人の関係はその後も変わらずに続いている。
対外的には、持ち寄った知識や経験、力を共有していると思われたことで、今では周辺の同族や権力者にとって神話の巨人や怪物のように恐れられ、彼女たちが大切にするものに手をだす愚か者はいいなくなっていた。
もちろん彼女達はこの状況をおおいに利用した。相手を脅し、すかし、なだめて承諾させる。これほどまでに楽が出来たことなど今まで無かったからだ。
国を建てたわけでも組織として暗躍していたわけでもないが、目に見えない国境は勝手に拡がっていき、やがてある遠地で剣呑な噂にぶつかる事になる。
例の実験の後、オネイロは生き返った娘にマイヤという名前を与えて、そのまま側に置いていた。
そもそもオネイロは娘を拉致してきたわけではない。残酷な環境にいた娘を探して、残酷な選択を迫った。
このままここで惨たる人生を終えるか、自分の元に来て実験台として自身を差し出すのか?あなたに運があれば私の様に『力』を得ることが出来るかもしれない………ただ同じように死なねばならないのならば、どれ程小さな望みであっても選択の余地はないのでは?と……
だからマイヤは感謝出来るかどうかは別としても、オネイロに恨み言を言える立場ではないと、言えるかもしれないが……
「オネイロ様には感謝しています。夢のような人生と名前を与えてくださったのですから…」
「そう思ってくれているなら私も気が安らぎますよ」
「このご恩をお返しする為に少しでもオネイロ様のお役に立てるよう努力いたします」
初めは愛想が無いと言うよりは感情が無いように感じたが、最近はマイヤの心の機微がわかるようになってきた。
「私への礼は生前の献身で既に支払われています。あなたもじきに1人で生きて行けるようになるでしょう。それからは、好きに生きて良いのですよ?」
「出て行け、とおっしゃるのですか?」
「好きに生きなさい、と言ったのです。私達は何にも束縛されずに生きて行く『力』を持っていることを忘れてはいけません。逆に束縛されれば、その命さえ奪われるかも知れないのです」
「まだ……先の事は考えられません」
マイヤは頭を下げるとオネイロの部屋を出て行った。
400年前では、まだ小国間の小競り合いが多く、様々な民族や組織、果ては宗教や思想までが入り乱れて、常に何らかの火種が各地域でくすぶっている状態が続いていた。
3人の集会も、思いがけず周辺から脅威のひとつとして認識され、そのまま、『3人の集会』などと呼ばれて恐れられていた。
事実、目障りと思われた輩共にはからかう程度の脅しで黙らせるのだが、意外と名の知れた有力者や指導者である事も多かったようで、従属するか尻尾をまいた彼らが他人に話して聞かせるときには、自尊心も手伝って自然と大袈裟に語られているようだった。
そんな風に、少し煩わしくもこちらの噂が遠方の地に届くようになると、あちらの噂もこちらに届くようになる。たまに売り込みか、様子見の知ったかぶりが訪ねてくるからだ。
有益な情報は稀で、殆どは耳に入れる価値も無さそうな話なのだが、その中に気になる話があった。
最近ある村に聖女が現れて、人々に災いをもたらす女を狩っていると言う。
聖女は人々に神を説いて廻り、災いの女を『魔女』と称して、自分の信奉者を増やしていると言うのだ。
魔女と言うのはおそらく自分達を指している、彼の地で同属狩りが行われている。3人は直観的に理解した。
確かに自分達は人などかえりみないし、欲望のままに力を奮う者がほとんどなのだから、災いと呼ばれても仕方がないだろう。人と折り合いをつけながら暮らしていた3人は意外と稀なのだ。
もしこの情報が確かならば、今後の成り行きによっては警戒すべき状況になるだろう、関連する情報ならば買うつもりがあるとその者に告げると、そいつはにやりと笑った。
自称商人と語るその男は月に一度ほど顔を見せるようになったが、毎回この不快な男は不快な話を持ってきた。
聖女とやらはその地の魔女を何人か葬り、信者は日を追うごとに増えているらしい。
どうやら教会も彼女と関係を持っていたらしく、巷ではいずれ教会の中心的な人物になると噂されていると言う。
そして、聖女を直接見る事が出来たと言ったその男が話した聖女の容姿は、3人、いや、ケールに大変な衝撃を与えた。
聖女の年頃や容姿、なにより左腕が少し不自由だったと言う特徴が、あの時ケールの家から逃げおおせた娘と酷似していたからだった。
突然に過去のツケを目の前に突き付けられたケールの顔は、屈辱感で溢れた。
ケールの顔色を見て、オネイロが情報屋に問いただす。
「その聖女は何と名乗っているのですか?」
「信者からはたしか、カタストレ……そうだっ、カタストレ・カコー様と呼ばれておりましたな」
オネイロは眉をひそめた。
「『悪を滅ぼす』ですか…」
どこで古い言葉を覚えたのか、その名前には自分たちに対するメッセージが込められていると思える。
すると突然ケールが立ち上がった。
「悪いけど、先に失礼するわ」
止めるべきだと思ったオネイロは、反射的にケールの名を呼んだ。
「ケールっ!」
「ここまで堂々と喧嘩を売られてはね。たまには衝動に身を任せても良いでしょう?」
「まだあの娘と決まったわけではないでしょう?」
オイジュがたしなめる。
「誰でも同じことよ。でもあの娘であれば最高ねっ」
ケールは2人の制止も聞かず、その場を後にした。
「オネイロ、どうしますか?」
「そうね、とりあえず…」
オネイロが情報屋を見る。今の話を聞かれた時点で男の運命は決まった。
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