僕と妹と王女様のダウンビート
スリムあおみち
第1話 浜矢家の人々
妹が某国際バイオリンコンクールで一位を獲得した。そのお祝いで今日は家族パーティー。僕もバイト先のコンビニを休んで実家に足を運んだ。喜ばしいとは感じたが我が身と比べると気が重い。
父の浜矢太郎はオペラ歌手。母の真由美はピアニスト。四歳年下の妹のレイミは前述したようにバイオリニスト。僕はといえばラッパー。念を押しておくがトランペットは吹かない。ネットで「DQN」「痛い」と叩かれ苦しんでるJ-Rap関東レペゼンMCイチヤこと浜矢一矢25歳。詳しい人なら知っている程度の知名度。そして日本じゃHipHopのイメージはまだ悪くなかなかテレビに出れない。
J-Rap業界でそれ一本で食えているアーティストは少ない。クラシック音楽だって儲けているのは一部だが父母は世界レベル。妹も将来世界レベルになるだろう。楽器は言葉の壁が無いから成功しやすいと言えば言い訳。父はイタリア語で歌っているから。
「手遅れにならないうちに声楽に戻らないか」
赤ワインが入ったグラス片手に父が俺の肩に手を回した。十五歳までは確かに声楽を習っていたが、父の後を追いかける人生が嫌で止めてしまった。
「お前、自分の顔鏡で見てみろ。顔の骨格が私そっくりだろう?」
「知ってる」
うつむいて返事。父譲りの骨格は声の良さに繋がっていることは自覚している。「MCイチヤの父はオペラ歌手の浜矢太郎」であることは業界の一部の者しか知らないし、それは僕のあまり触れられたくないことだ。裕福な音楽家の家系に育ったからHipHopでもそれなりに成功したとも言われたくない。
「イチヤ、半端なこと止めて堅気になりなさいよ」
母の絡み酒が始まった。
「恥ずかしくてうちの子ですってよそで言えないでしょ」
いつものことだから聞き流す。
「パパもママもやめてあげてえ」
むっとした顔で今日のパーティーの主役、妹のレイミが母と俺の間に割って入った。だが傍にいる女の子はどこの中学生だ?
「あたしの後輩に実はお兄ちゃんは、って話したら会いたいっていうから連れて来たんだよ」
「手鏡ミラといいます。はじめまして」
ロングドレスを身にまとったツインテールの女の子が僕に向かってペコリと頭を下げた。チラリと見えた胸の谷間にドキリとしたとは口が裂けても言えない。
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