売れ残りのピカピカ洗剤

田村サブロウ

掌編小説

見切り品、という言葉をご存知だろうか?


通常の価格より値段を下げて売られる、売れ残りの商品のことだ。


たいていの見切り品には、店内の商品入れ替えや在庫処分といった裏事情が関わったりするのだが、それは置いておく。


帰りがけにコンビニに寄った大学生のハラダは、その見切り品の中から面白いものを見つけた。


「……食器用洗剤、か。確かうちにある残り、少なかったな」


食器用洗剤の容器には『どんな油汚れもピカピカになります』という触れ込みがあった。


その話は誇張だろうが、それ以上にハラダを惹きつけたのは値段だ。100円と安い。


自炊によって普段の食事を取るハラダにとって、皿洗いの必需品となる洗剤を安く買えるのは好都合。タイミングも渡りに船だ。


というわけで、ハラダは洗剤を持ってコンビニのレジに直行。即、買った。




数日後。ハラダが自炊で晩ごはんを食べた後。


後片付けの皿洗いで、ついにハラダは購入した100円洗剤を使うこととなった。


「……ついに、って。たかが皿洗いに大げさな」


内心でハラダはわずかに苦笑する。


水道から流した水と少量の洗剤をスポンジに染み込ませて洗うだけの面倒な作業に、わくわくする要素なんて見つかるはずもなし。


それに洗剤なんて、大概どこの会社のものを買っても似たりよったり。学生のハラダとしては安く買えさえすれば、質なんてどうでも――


「ん?」


皿を食器入れに置いたとき、ハラダは妙なことに気づいた。


洗いたての皿がピカピカした輝きを放っていたのだ。


『どんな油汚れもピカピカになります』――食器用洗剤の触れ込みを思い出し、ハラダは納得。なるほど、文字通りにピカピカしている。


まさか本当に光りだすとは思わなかったが、まぁ汚れさえ取れれば別に不便は――


「って、あれ!? ヌルついてる!?」


洗ったばかりの皿のピカピカした部分に触れて、ハラダは気づいた。


油汚れが取れていない。輝きこそしてるが、汚れ自体は残っている。


「どういうことだ……あっ!!」


脳髄に走ったある思考が、ハラダに衝撃をもたらした。


この100円洗剤の『どんな油汚れもピカピカになります』という触れ込み。その本当の意味をハラダは理解したのだ。


油汚れが光の輝きによって目立つようになる。それだけ。


油汚れが、なんて一言も言っていない。


「ふざけんな! 洗剤ですらないじゃないか! 検査薬か!」


憤慨するハラダの声は、誰にも届かず部屋の空気に消えていった。


この出来事をさかいに、ハラダは安易に見切り品に手を出すのは避けるようになる。

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売れ残りのピカピカ洗剤 田村サブロウ @Shuchan_KKYM

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