第1188話「ジャイアントの住む霊峰」


「結果的に言うと、エルリウの実験でモアの魂は分霊祭壇で7つに引き裂かれた。6ヶ所のユイの魂と同じ場所に封じられたモアの魂が6つあり、残りの一つは霊峰に持って行かれた」



「霊峰ってジャイアント族が徘徊する地だよな?何故そんな所に!?」


 ボーがその説明をエルノックに聞くと答えは簡単だった。



「月の聖獣絡みの他あるまい?」



「月の聖獣?」



 エルノックは軽く頷くと『マーナガルムの消える時期、霊峰より次元の扉が開くのだよ……』と言って説明を始める。


 霊峰から月への魔力の道筋は一番近く、霊峰のその周囲に月の聖獣の扉ができると言う。



 地上で消えた聖獣は新たな門を通じて自分の宿主を見つける。



 そう説明したエルノックはユキを指差し、『彼女がその実例だ』と言う。



「ユキ……オメェ九尾は私にこう言ったの……『赤い月が上がる日に霊峰に来い』とね……そしたら白虎と共に九尾が待っていたわ」



「だから俺は今でさえ白虎が使えるのか?」



「ええ……黙ってて御免なさい。これは『私からは言えない言葉』だったのよ。契約はそういうものなの」



「今は喋っちまって平気なのかよ?」



 エルノックは『私が許可したから平気だ』と言う。



 エルノックは鳥の賢者ともあり、観察者になった後は全てを見通せる力を持つそうだ。


 しかし直接的には気に世界に関与できない。


 だからユキやエルフを使って遠回しに何かをする。



 今回の一件は九尾を使い伝言をさせた。


 ユキに九尾を再度与えたのは、紛れもなくエルノックである。


「それで?エルノックアタシらに何をさせようとしてるんだ?目的があるから手を貸してるんだろう?」



「アヤセ様だ………あの方からこれを預かった『スマホ』とか言うらしいな……使い方がわからなんが、私がアヤセ様からお預かりして以来、風化も劣化もしない以上は異世界の物で間違いないだろう」

 

 僕はエルノックから預かり、ソーラーバッテリーを繋いで充電をする。



『ザ・ザー………』


 そこに移っていたのは別れた時よりかなり若返った20代前半の女性だった。



 『皆さんお元気ですか?この世界を見て回って、今までの自分に酷く反省しています。もしコレを見る機会があったら是非私を探して頂きたいのです……』


 そう始まった一方的な記録は反省と謝罪の後、霊峰に来て欲しいと言う内容だった。


 自分は多分もう先がないと知っての記録なのだろう。


 既に体に各所に変質が起き、崩壊寸前の様が見て取れる。



「霊峰にはおそらく私たちが帰る方法があります。私は元老院エルノックと言う方と知り合い、その後いくつかエルフの試練なる物を使い可能性を繋げてきました。ですが魂に変質を与えたのが運の尽きで……私はおそらく元の世界には帰れません。だからコレを見たあなた達が帰る手段を見つけて私の運命を書き換えてください。」



 最後に『宜しくお願いします』と言うと、ボロボロと崩れ去るアヤセ………


 本当に最後の最後に力を振り絞っていたのだろう………



「アヤセ様は………こうして去られたのですね……最後の時が見られただけでも我は…………」



 エルノックは目頭を親指と人差し指でつまむと涙を堪えていた。



「じゃあ……僕らは霊峰へ行く理由が3つはあるんですね?」



「アヤセって奴の遺言である何かを探す事と、アヤセを救う計画を立てる事。そしてモアの魂を元に戻す鍵がそこにあるって事でいいんだよな?」



 僕がそういうと、マモンはニヤリと笑い霊峰に行く気を見せる。


 どうやらジャイアント族は因縁の相手らしく『今度こそ根絶やしにする』と言っているのだ。



 しかし残念な事ながら霊峰に行く道はドワーフ王国を通るため近道である場所には問題がある。


 ゼフィランサスの一件で帝国国境と王国国境のいざこざが解消しておらず通れないのだ。


 僕はその事を説明する………



「僕たち悪魔族は問題ないですが帝国と王国問題は解決していない……あそこは普通には通れない。できれば人員は多い方がいいんだけど………」



「何でだよ?少ない方が動きやすいだろう?」



 僕はチャタラーのその質問に対して自分なりの返答を返す。


 まず通り抜ける場所はドワーフの王国を通過せねばならない……まずそこには問題が山積している。



 以前起きたドッペルゲンガーの悪魔問題であるドワーフ王国問題だ。


 ドワーフの姫達は王国を救うために既にジェムズマインからドワーフ王国に向けて旅立ったと聞いたし、その上そこに行く経路には帝国とトロルキングダムがあるのだ。


 彼女達ドワーフにおける秘密の通路がなければ決して辿り着きはしないだろう。



「ひとまず作戦会議はローズガーデンに戻ってからにしましょう?じゃないと纏まる物も纏まらないわよ?」


 そう言われて僕は周りを見ると、エルフ市民も何故か話に参入する始末だった。



「とりあえずはまずスゥの戴冠式をしてからだな………」


「スゥの戴冠式?何でまた急に………」



 そう言葉を交わすもその相手には非常に驚かされる。


 相手はローズガーデンに居るはずのエクシア達だったのだ。



「エ!?エクシアさん!?……何故此処に?………」




「ローズガーデンが襲われた。でも全滅させて連れてきたんだよ。っていうか泣いてせがまれた。お前と共に旅立ったモアに用事があるとかでな!」




 今度はモアがその言葉に『私に!?』と驚きの表情を見せている。


 しかしその会話に割り込むように姿を見せる一団の姿に、モアはうんざりした顔をする。



「マーナガルムの姫さま!!我々は『真月の教団』と申します。月の神獣を祀る教団であり、貴女様を護衛する特務騎士団でございます!」



「はぁ?始祖を護衛するって……お前らモアより弱いのに守れんのかよ?」



「そうね………大方始祖になる前に派遣されたのでしょう……一度教団に戻り指示を仰いだ方がいいわよ?」




『相手は貴方達の敵になった始祖のモア。それでも護衛をするつもり?』ユキは始祖になったモアを見るとそういう。


 当然だが守る相手を間違えているからだ。



 マーナガルムを宿した月の巫女は、既に罠に嵌りヴァンパイアの始祖になった。



 しかしそれでも尚、モアの救済に価値を持つ教団員と来れば、独断で動いていて間違いはないからだ。



「………ユ………ユユ………ユキさま!?に…………ボ………ボボボボ………ボーさま!?」



「ヤバイのに見つかったわね……何故此処に連れてきたのよエクシア………」



 その言葉にエクシアは『仕方ねぇだろう?モアの居場所を教えろって教団はウルセェんだって!』と言う。



「何故………月の聖獣保持者が………というより九尾さまに白虎さまの気配が………未だにお二人から……」



「だからなんだってんだよ!?聖獣の持ち主が聖獣を使えない訳ないだろうが!」



 そう言ったボーは『始祖になったとてライカンスロープじゃなくなる訳じゃねぇし………』と面倒臭そうにその話をはぐらかす。



「とりあえずはアタイのいう通りにして貰いたいんだけどね?エルフ国を正常にしないと戦争する羽目になるんだよ!王国とエルフ族は!」



「「「「「「戦争!?」」」」」」



 僕はエルノックに何故そんな事になっているのか聞く…………


 するとエルフォイアーが宣戦布告を王国に対して行った事を示唆した。

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