第933話「自白剤?いいえ……それはお肉です!!」
「ところで……お付きの人がまだ来ませんが……このまま此処に居ても平気なんですか?」
「え?そう言えばそうね……コクゴウは大丈夫かしら………はぐはぐ……早く来ないとお肉無くなっちゃうのに……」
どうやら自分から墓穴を掘ったのだが、彼女は気が付いてないのかもしれない。
それに肉の問題でも無いだろう……
「コクゴウさんて言う方なんですね?ちなみに言い辛いんですけど……そのコクゴウさんがメイドを庇うとは思えないんですけど……」
「!?……んがっくっく…………ゴホゴホ……」
あまりに驚いたのか、危うく肉を喉に詰まらせそうになったようだ。
「み……みず!水をください…………」
そう言われた支配人は、急いで水を持ってくる……
「ゲホゲホ………はぁびっくりした………まさか肉が喉に引っかかるなんて……こんな事は初めてですわ………」
「大丈夫ですか?なんかスイマセン……そんなに驚かせるつもりは無かったんですけどね……」
「いえいえ……元々すぐにバレる嘘でしたし」
そう言ったエクサルファは『私の独断では話せないんです……。申し訳ありませんが、今はメイドという事で聞き流していただけませんでしょうか?』などと言う……
そんな言い訳を聞いたのは初めてだが、変に隠すよりはよほど好感が持てる。
だからこそ僕は質問の真意を伝える……
彼女の命に関わる大切な事だけに、自分自身で身を守る為には彼女自身がそれを知っておく必要がある。
「すいません……別に僕は貴女の秘密を暴きたい訳では無いんです」
そう言った後に僕は『今日襲ってきた奴等は、街に居るゴロツキの様な程度の低い奴らじゃ無いんです。一度撃退しても根本を解決して無ければまた狙われますよ?』と話す……
そして彼等を雇った黒幕に心当たりがないかを聞く………彼女を寺院に送り届けるにしても敵が分からなければ困るからだ。
すると、予測してない方向から声がした………
「その質問には私が答えよう………」
「!?」
「すまない勝手に店に入ってしまい……ラムセスには世話になった。彼も連れて来たかったのだが、彼には騎士団の役目としてシュート騎士団長を呼びに行く役目があったのでな……」
「コクゴウ!無事でしたか……私の我儘で申し訳ありません………父の状況を考えれば……爺やの言う通りにするべきでした………」
「そんな事はございません………私の力が至らぬばかりに」
エクサルファ姫にそう言った手練れの剣士コクゴウは、僕に向き直ると頭を下げた。
そして襲って来た一団は、彼女を生かしておくことが出来ないその関係者だと言った。
だがその詳細までは聞き出せなかった……理由は簡単で、詳細を知れば間違いなくその一団に始末されるからだ。
ビラッツ達をこの件には巻き込めない以上諦めるのが得策だし、そもそも僕に得は何もない。
「遅くなって申し訳ない……。敵対関係にある者を全て始末するのに手間取ってしまったのだ……これは礼だ。受け取ってくれ」
そう言ってコクゴウと呼ばれた剣士が出して来たのは、帝国エンブレムが刺繍された金貨袋だった。
「先程言った通り……全ては話せぬ……だがそれを見て、おぬしは私が言いたい事を理解してくれると信じておる」
「口で言わなくても、もうそれしか無いですよね?金貨300枚……ありがたく受け取っておきます」
僕は袋の刺繍をみてそう言うと、金貨袋の中身を三等分に分ける。
そして支配人のホンドロップと、調理長のチビートに渡す。
「「こんなにもらえませんよ!!」」
当然金貨100枚を突然渡されれば、二人の反応はそんな物だ……
だから僕は『その言葉は意味がわかって言ってますか?』と言いつつ、袋の刺繍を見せる。
二人は僕の言葉にようやく考えが追い付いた様で、すぐに口をつぐんだ。
「支配人と料理長………お世話になりました………見て理解できた様ですね?そういう事です……」
エクサルファはそう言うと、二人へニコリと笑う。
「お肉は本当に美味しゅうございました……また食べに来れる日を願って今は帰ろうと思います……」
エクサルファがそう言ったとほぼ同時に、騎士数名が入店して来た。
その数名の一人は見知った顔であり、横にいる騎士はグラップと同じ装備だ。
どうやらラムセスが連れてきた、シュートと言う騎士団長である事は間違いがない様だ。
「コクゴウ様!シュート騎士団長をお連れしました!!」
コクゴウは『うむ……』と短く頷くとシュートに話を始めた。
「シュート騎士団長……我が居ながら、この失態……申し訳ない」
「…………それより……敵は?」
シュート騎士団長は僕を睨みつけると、コクゴウに短く質問をした。
「うん?……私が始末する前に殲滅されていたんだがな?全て装備以外は跡形も無かったが……片付けたのはお前達では無いのか?」
「馬鹿を言うな……ラムセスが来なければ、何処にいるかも分からなかったんだぞ?敵に構っている場合じゃ無いだろう!?」
それを聞いた僕は『あ………スラ………本格的に敵を全て殲滅したのか……』と言う顔をする……
「ふん………その顔……やってのけたのはお前か!仲間が居るのか?」
僕はその言葉にスラの説明をしようとするが、思ってもない援軍が全ての説明をしてくれた……
「シュートさんそれをやったのは、スラちゃんです!全部敵を殲滅したのでもう安全って教えてくれました!」
そう言ったエクサルファ姫の肩には、ピンポン玉サイズのスライムが載っていた。
「ほら!これがスラちゃんです!この子はとても凄いんですよ?スライムなのに水魔法が使えて、人族の言葉が話せるんです!」
エクサルファはそう言って、肩に乗ったミニスラを手に乗せてコロコロ転がし始める……
唐突にスライムの存在をカミングアウトしたエクサルファの手から、シュートはすぐにスラをはたき落とす。
「スライム!?何処から紛れ込んだ!?……ひ………エクサルファ姫殿下!!なりません!スライムは魔物ですぞ?……何故手で持とうなど………」
シュートはミニスラをすぐに踏み潰そうと試みるが、落とされたはずのスラは軟体を細く天井まで伸ばしあっという間に避難していた。
「ど………どこへ行った!?スライムが……居ないだと?今確実にはたき落とした筈だ!!叩いた感触がまだ手にあるのに……」
「スラならもう天井にいますよ?僕の使役している魔物なので害はないですから……そもそも敵を殲滅したのはスラですよ?」
僕がそう言うと、シュートは天井を見上げる……
しかし問題はシュートの言動だ。
あれだけ皆が誤魔化していたのに、あまりに驚いたのか口に出してしまった。
「シュート騎士団長!折角誤魔化していたのにダメじゃ無い!私が姫だと言ったら誤魔化していた意味がなくなるわ!」
「!?………も………申し訳ございません…………つい驚きのあまり………言葉に……」
しかしコクゴウはそれどころでは無い様で、僕に質問をする………
「今の話は本当か?そのスライムが敵を全て殲滅したと?」
「だって……装備以外何も無いんですよね?それって間違いなく………もう存在しませんよ?この世には……」
「!!………スライムによる溶解捕食か!………成程……だが何故装備は溶かさなかったんだ?」
その言葉を聞いたスライムは、天井から落ちて来て『ぷるるん』と跳ねると……器用に僕の頭に乗り、念話でその理由を伝えた。
「どうやら装備は売れば金になるので……溶かさなかった様ですね……そう言ってます」
スラは僕に念話でそう告げたが、装備を放置した理由は持ってくるのが面倒だった様だ。
わざわざその事を説明する必要性も無いので、割愛させてもらった……
しかし、街中に散乱している装備を集めて回るには些か面倒なので、僕は証拠品としてプレゼントする事を思いついた……
「その装備は証拠品として、騎士団に献上します。黒幕の炙り出しに使えると良いのですが……」
「うむ………なかなか殊勝だな……。冒険者にしておくには勿体無い………我が騎士団に来ないか?坊主……」
「実は……グラップさんにもヴァイスさんにも同じこと言われてます………」
「!!おぬし………宮殿に招かれた冒険者か!…………まさか……あのヒロか?」
どうやら点と点が線でつながった様で、シュートの表情が一変した……
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