第926話「クロースの後悔……最低な一日」


 ルッティは眉を吊り上げている……


 余計な事を言いすぎるクロースに対して、怒り心頭なのだろう……



「お前はまたそうやって……だか………」



 ルッティが話している最中だったが、僕は言葉を割り込ませる……



「手紙は燃やしました!」



「「………へ?……」」



「「………も……燃やした!?」」



「何故だ!?この馬鹿もんが!!」



「馬鹿はお前だ!……」



『ガン!ゴン!!ガゴン!!!』



「が?………いぎゃぁ!?」



「お前は今から口を開くな……絶対だ!!お前のせいで交渉が不利になる……そんな事も分からんのか?この馬鹿者が!!」



 そう言ったルッティは、一度冷静になる為に深呼吸をする。


 そして考えを見透かした様に僕を見て言葉を発した。



「燃やした理由………それは……金か?」



「ご名答です!……だって……手紙を見た人間が増えれば……それだけ情報の価値が無くなるでしょう?」



「………ガハハハハハ………ああ!そうだ!その通りだ!お前……気に入った……その徹底ぶりは、心底気に入ったぞ!!」



「手紙の情報で金貨400枚!!おまけは無しです!」



「内容だけに金貨400枚!?なりません!情報が正しいとは限りません……ルッティさ……」



『ドゴン!!!』



『ゴロゴロ…………ゴロン』



 僕はルッティの代わりにクロースを蹴り飛ばし、そして僕は威圧的に言葉を発する……



「中身が何かも知らずに馬鹿を言うな!!おいルッティさんとやら……何を作れるか知ってるなら400枚は安いもんだろう?それとも全て纏めて他所に回しますか?今や帝国の敵である王国なら、貴方よりきっと高く出しますよ?」



 暴力は不味いが、こうすれば話は早いだろう。


 要らない会話は結果的に端折れる……必要な暴力などありはしないが、後で傷薬でもぶっかけてチャラにしよう。



 それを聞いたルッティは『まぁ酒でも飲みながら話そうか……』と言うので、僕は『酒は飲まないんですよ。下戸でして………』と言う。


 するとルッティは笑い始めて『じゃあ何か飲み物と食い物を買ってこさせよう……そしてゆっくり商談を……』といった……


 僕は若干むくれた顔をして見せて、椅子に腰掛けイラついた口調で話をする。


 当然その態度の全ては芝居だ………



「なら買い出しは職員のペトロさんにお願いして、僕達は話を続けましょう……アイツに薬を盛られたら堪らないから。それで良いですよね?僕は串焼き5本と果実ジュースを!勿論ルッティさんの奢りで!」



「くっくっく……ヒロさんと言いましたか?アナタ……徹底してますね?クロース!そこで寝てないで今すぐ支払いをしてきなさい!私はエールと串焼き肉を5本。皆さんの分も同じ量の肉を。それと飲み物は個人で選ばせて、支払いは貴方が責任を持ってして来なさい!」



「は……はい!!い………今すぐ!!」



「じゃあルッティさん!商談といきましょう……手紙の情報は金貨400枚、引っ掛け鞄のオリジナルは金貨1000枚で、素材情報はおまけとして………金貨100枚でキリ良く金貨1500枚でどうでしょう?」



「……………良いでしょう………ですが!素材情報はレモップルの皮以外の情報でお願いします。いいですね?」



 僕はクロースが買ってきたばかりの肉を頬張りながら、机を『トントン』と指で叩く。


 言葉より『お金を机に置きましょう』という合図だ。



「貴方が目的の物を手に入れたら、僕は机の上の金貨を貰う。此方の確認者も同伴でクロースさんが取りに行くで如何ですか?同伴者は……ここのギルマスに行ってもらう……で……どうでしょう?」



「ははははは!!………若い割に非常にやりにくい人ですね!ですが……良いでしょう。目的の品が手に入るなら、此方は御の字です!」



 僕は『ギルマスは確認のためだけなので!クロースさんが全ての操作をしてください。ギルド回収されたら……僕の収入が全部なくなるんで!』と言うと、アーリスは短く『仕方ないね!でも……これ以上面倒な事はゴメンだよ!』と言う。


 当然打ち合わせどおりなのは言うまでもない。



 それから僕は、無地の羊皮紙に開封方法を書いて、引っ掛け鞄と共に机に置く。



 するとルッティはマジックバックから金貨袋を3つ出す……金貨袋は一つ500枚入りだと簡易鑑定ですぐに分かった。



「金貨の確認は……されないんですか?」



「袋の大きさで分かります。僕はこれでも一応は冒険者ですよ?」



「はっはっは。成程!どんなに若くても冒険者……という意味ですね?ちなみにこのアイテムは……どこで入手を?」



「コールドレインの街にあるダンジョン。第15層の隠し安全部屋の遺体です……」



 僕はそう言ったが完全に出鱈目だ……


 表情へ出ない様に、ぶっきらぼうに言い切った後にすぐに肉を頬張る。



「………うむ!素晴らしい!!遺体と日記の発見者は……やはり貴方か!?ならば全て納得だ!!」



 そう言ったルッティは、金貨袋を僕へ向けて押し出し、代わりに羊皮紙を手に取って内容を読む……



「……フローゲルの石像?石碑付きの………何処だ?」



 ルッティは僕をチラっと見る……



 『何故帝国の此処に居を構えてて知らないのか……』とそう思うが、致し方ないだろう……



 言わないのは逆に時間の無駄になる。



「はぁ……仕方ないな……完全にオマケですよ?金を手に入れる為には仕方ないので!……旧魔道院跡に朽ちたのがあるでしょう?」



 そう言うとルッティは『パンパン』と手を叩く。



「成程!!盲点だ……アレが崩れたから我々は銅像を2か所に建設した!……まさかそれが目隠しになったとは……」



 そう言ってからルッティは、クロースに取りに向かう様に指示をする。


 当然アーリスギルドマスターに確認同伴を頼み、羊皮紙とパウロの引っ掛け鞄を持たせてだ。



 ◆◇



「うぇぇぇぇ………ゴホゴホ………ああああ………」



「ど!?どうしたのだ?なんだ?何があった!?設計図は……あったのか?なかったのか?……どっちだ……クロース!」



「ど……毒の罠です………ステータスが猛毒に………こ……これを……既に解毒済みの設計図です………」



 そう言ったクロースは『解毒薬1本で治らなかったので……私は薬師ギルドに行ってきます………ああああ……うえぇぇぇ………ゴホゴホ………』と言いながら、ヨロヨロとした足取りで出て行く。



「わ………罠だと?あ………危なかった……もし自分で取っていたら………私がああなっていた!?……」



「ですね!僕もお金に変えてよかった………ダンジョンでも無いのに、地上で猛毒は勘弁です!」



 僕は自分で仕掛けたが、ルッティに疑われない様に銭ゲバを演じる。


 塗るタイプの猛毒薬だったが……見た限り非常に効きがいい様だ。



 当然だが設計図は偽物で、魔導師ギルドにあった廃棄品の薄汚れた羊皮紙に書き込んだ物だ。


 王国の魔導士学院で見た、何に使うかわからないマジックアイテムの図面情報が、まさか此処で役に立つとは思いもしなかった。



 それにしても……罠の効果が強すぎた。


 状態異常になってしまったクロースを、若干哀れにも感じる……



「ああ……お互い命拾いしたな……まさかフローゲルは魔導師が手に入れる事を予測して?」



「いや多分それは違いますね……『封印を破りし者に災いを』と殴り書きがあったから……それでしょう……」



 ルッティは『なんだと?』と身を乗り出す。



「仕方ないでしょう?殴り書きが罠とは思いませんでしたし!それも裏面だし!」



「いや……そうではない……構わん……漸く私は魔導院念願の物を手に入れたからな。後はハイドホラーの涙か………」



 ルッティはハイドホラーの涙の取得の心当たりは?と僕に聞き始める。


 当然嘘っぱちの素材であるので、そんな物は何処にも存在してないが……



「知ってたら情報料を貰ってますよ。それか自分で作ってます」



「ガハハハハ!確かにそうだな……おいヒロ……君はハイドホラーとは戦えるのか?」



「ええ!倒せますよ?って言うか……もう金貨を貰っても?」



 僕がそう言うとルッティは『ああ!すまん……すまん!それは君の金だ。納めたまえ』と言う。


 そして金貨を手元に引き寄せた時、ルッティが行動に出た。



「なぁヒロ……相談なんだが……俺と組まないか?」



「………組む……とは?」



「なに簡単な話だ……。知っての通り、この設計図があればマジックバッグが作り放題なんだ。……だから金のなる木である事は間違いない」



「そうでしょうね……それで?さっき僕はハイドホラーの涙が問題だと言いましたよね?」



「知ってるんだろう?取得の方法を?……だがお前はそれをしない理由がある……」



 そう言ったルッティは『帝国に懐柔されずとも、私は販路がどうにでもなるんだぞ?』と僕にだけ聞こえるようにコソッと言う。



「………成程……コネと言う奴ですね?僕とすれば、技術を得ても意味が無いと思ってました。帝国に反抗すれば販路は潰されるし、そもそも拷問部屋送りで死にかねない………」



 僕はそう言った後に『でも……ルッティさんと居れば、それが無いと?』と聞き直す。



 するとルッティは『ああ!そうだ』と自慢げにそう言った。



「因みに聞きますが……何故ですか?協会程度では、帝国の皇帝陛下からの圧力には耐えられないですよね?」



 そう言った僕の言葉にルッティは『若いのに良く考えてるな?だが……陛下は石化の呪いで余命僅かだ。先は無い……何故なら秘薬の在庫が帝国にもう無いからだ。そして俺には反皇帝派の侯爵家に知り合いがいる……』と言った。

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