第925話「作戦開始!」
僕は朽ちた石像の裏の収納が閉じるまで待つ……
「よし閉まった……あとは計画を実行するだけだ……」
僕は急いで魔導師ギルドまで戻る。
いい加減痺れを切らしている頃だろう。
「み……皆さん……戻りました!ぜぇぜぇ………どうですか?そろそろ彼等はキレそうですか?」
僕がそういうと魔導師ギルドの職員が駆け寄ってくる。
「今お茶を持って行ったんですが……かなり激怒してます……」
「じゃあ職員の方は、引っ掛け鞄を持った持ち主の僕が宮殿へ向かったと言ってください」
「は……はい……分かりました」
「そしてサイキさんは、ミクシーフローゲルの日記が見つかったと話を!その情報が宮殿にいるアユニが知っていると、カウンターで職員と話してください」
「は……はい……話すだけで良いんですか?」
「はい……アユニには先程もう指示を出してますから。凄く大事になる予定なので……お楽しみに!」
◆◇
こうして、欲に目が眩んだ帝都魔導師協会担当者のお仕置きタイムが始まった。
職員はアーリスとキーテラに僕が引っ掛け鞄を持って、宮殿に帰ったと知らせた……
当然アーリスもそれに合わせて芝居をする必要がある。
「ペトロ!?何ですって?帰った?……持ったまま?あの馬鹿が?………特務主任ルッティ様申し訳ないです。しっかり伝えてあったのですが……何分冒険者なので……キーテラ!貴女も謝罪を!」
「何だと?これだけ待たせて……アレは冒険者個人の所有物だっただと?誰だ?持ち主の名前を言え!!」
「ルッティ様申し訳ありません……で……ですが……我々ギルド職員が取り上げることが叶わないのはご存知ですよね?それこそギルドだけでなく、帝都の協会様にもご迷惑が及ぶので………」
「それを早くいってくれていれば!此処で話さずとも済んだではないか!!金で解決できただろう?バカタレ!!それで何処へ行ったと?」
「現在の宿泊先は宮殿にございます……ルッティ様………冒険者達は隣町から来たとか………」
「む?ああ!あの薬の件で来た奴らか!!どおりで探し求めた物を持っているわけだ!……成程………こうしてはおれん……帝国協会権限を使い、宮殿まで面会に行くぞ!ついて来い主任博士クロース!」
「は!特務博士ルッティ様……何処までもお供します!」
そう言って、二人は慌てて執務室から出ていく……
彼等が急ぎ階段を駆け下り、ギルドカウンターを通りかかった時に僕はサイキと職員に指示を出す。
「そ……そう言えばミクシーフローゲルの日記が見つかったんですって!コールドレインから来たとか言う冒険者が詳細知ってるんだって!帝都ってフローゲル家のお膝元じゃない?ギルドが知ってないのは不味くないの?」
「へぇ………サイキさんは物知りですね。でも……その話本当なんですか?」
「なんか色々と書いてあったみたいよ?素材の話とか………」
「!?フローゲル一族の日記だと!?……そ……そこの娘!!ちょっと今の話を詳しく聞かせろ!クロース。情報料の金貨をすぐに渡すのだ!!」
「は!はい……おい娘!金貨5枚だ!今すぐ話せ!」
その言葉を聞いて、僕はちょっと意地悪をする……
やるなら徹底的が良い筈だからだ。
「お嬢ちゃん……フローゲル家の秘密なら、他に売ったほうが金になるよ!金貨15枚は硬いって話だから……5枚は辞めときな……」
「く!?……クロース!バカな枚数を言うな!すまん娘……20枚と言うべきところをコイツが間違えたのだ!!」
「え?20枚も貰えるんですか?……でも……もう……一声!!」
「く……仕方ない!だが良い情報なんだろうな?」
「誰が情報を持っているかも……名前もしっかり知ってますよ?あと素材名も……」
「おい!30枚だ……これ以上は無理だぞ……ですよね?ルッティ様?」
「………………」
ルッティはクロークの言葉に答えない……
絶対に逃せない情報なのだから、枚数制限など愚の骨頂だ。
ルッティは『誰かに取られたからでは遅い』と心の底から理解している。
しかし僕がこっそり合図を出したので、サイキはそのまま話を続ける……
「毎度あり!じゃあ………冒険者は女性で、アユニという名前らしいです。素材は完熟レモップルの皮を使うとか……使い方までは分かりませんよ?」
「名前はアユニという女性で、素材が完熟レモップルだな?分かった!行くぞ。クロース!!こうしてはおれん……誰かに先を越されたら私の出世に響いてしまう!!」
「やりましたね!急ぎ参りましょう!!ルッティ様!」
そう言って二人は慌てて飛び出していった…………
◆◇
「多分もう少ししたらドネガン公爵様が此処に来ます……。そして帝都魔導師協会の方もそろそろ戻って来る筈です……此処からが面白くなりますよ……」
僕がそう言い終わると同じ位に、ドネガン公爵がドアを開けて入って来た。
「がはははは!『奴等』をとっちめるとかで……騎士団長ヴァイスが我が屋敷に来たぞ?それで……財宝の礼が欲しいとな?それも此処にいて、ヒロ……お前に話を合わせるだけで良いと?構わんぞ?安いもんだ!」
来るなりそう話した彼に、ギルド職員がドネガン公爵に挨拶に行く……
「面倒な事はせんで良い!……今は彼に財宝の借りを返しに来ただけだ!」
「ドネガン公爵様……少し奥に居てもらえますか?入り口付近だと侯爵様が居ると気が付かれるかもなので……」
「お前は……ひどい奴だな……良くこんな事を思いつく!」
あまり目立たない場所で、しばらく僕はドネガン公爵へ作戦を話す。
それから少しして勢いよくギルドのドアが開いた……ようやくこの作戦のターゲットのおかえりの様だ。
ドネガン公爵はそれを見て、そそくさと更に奥へ身を隠した。
「ぜぇぜぇ……おい職員……ヒ……ヒロとか言う奴はいるか?此処にまだ居る筈だと聞いたぞ?………」
「はい?僕がヒロですけど?……あれ?……貴方達……さっきの方じゃないですか?」
「あああ!お前さっきの金貨15枚野郎!!……『ガン』………いてぇ……」
『この!!……バ……バカタレ!!………言葉を選ばんか!』
「え!?あ!!申し訳ありません、ヒロ殿!!悪気は無いんです……ははははは………」
「す……すまんヒロ殿……連れが馬鹿で困っておるんだ私もな!だが……どおりで情報通なわけだな……その何だ……パウロの引っ掛け鞄を手に入れたとか……なんとか………」
「ああ!オリジナル鞄ですか?」
「オリジナル!?そうなのか?やはり……オリジナルなのか?ちょっと見せて貰えぬだろうか?」
僕は『よし釣れた!』と心で叫びつつ『良いですよ?でもあげませんよ?』と言葉で明確に言う。
◆◇
「む!?……」
「どうですか?……特務博士様……」
「むむむ………」
「おい……お前……今なら金貨50枚で買ってやる!特務博士のルッティ様が偽物と答える前に高く売りたいなら、今すぐ私に売るべきだぞ?」
僕はクロースの言葉に反論しようとすると……クロークの頭にルッティの拳骨が飛ぶ。
『ゴン!!!』
「馬鹿者!これは本物だ!私が言葉を発する前に、お前が物を申すな!!」
「な?ほ……本物?……パ……パウロのオリジナルでございますか?」
「そうだ!……だが……手紙が無い!あるのは傷薬のみだ………」
「おい!お前……この中にあった手紙が……『べチン!ゴツン!!』………ぎゃ!?…………」
クロースはどうやら学ばないタイプの人間なのだろう……何度も叩かれる。
僕は面倒になり嘘をつく……手紙の存在を明かす必要はない。
あの手紙はサイキの懐にあるべき物だ……
どうせ見て文句を言うだけなら、必要な情報を金で買って貰うだけだ。
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