第920話「帝都来訪記念!?魔導師フローゲルの像」


 そして水珠が当たった壁は『バガン!!………ドシャ…………ガラガラ………』と音を立てて崩壊する。



 本来は弾け飛ぶ水珠は威力が衰えず、まだまだ進んでいく……



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!壁ガァァァァ!ギルド修繕費のローン完済がまだなのにぃ………ひぃぃぃぃぃ!!やめてけろぉ…………」



 壁の崩壊と共に、キーテラの女性らしさも一瞬で崩壊した様だ。


 絶叫している顔はまるで、怨みを宿したゴーストの様でもある。



「嘘でしょう!?やばい……やばいー!!ちょっと……キーテラ……あの魔法弾は?消滅した?」



「あああ!!アーリス・ギルドマスター!!隣の壁を破壊してます……あそこは……マジックワンドの管理倉庫です!!」



「ええええ!?ウチの……ウチの一番高額な収入源!!」



「「消して!ヒロ魔法を消して!今すぐ魔法を!!」」



 アーリスとキーテラの声が見事に被った瞬間だ。


 そしてルールは非常に大事だと、実感した瞬間でもあるだろう。



『相変わらず馬鹿な事をやってるわね……全く……精霊魔法を最高威力でぶっ放すなんてどうかしてるんじゃ無い?それも障壁しかかけてない壁に?馬鹿にも程があるわ』



 そう念話で僕に話しかけた水っ子は、水球の中心に現れる。


 すると、あっという間に高威力の魔法弾をその身体に飲み込んでいく。



『今回は特別よ?こんなのが街の中で破裂したらこの周辺全部が吹き飛んでしまう。折角増えてきた水の信奉者が……一気にいなくなっちゃうもん!』


 そう言った水っ子は『馬鹿なことはこれっきりよ?もうやめなさい!』と言って姿を消す。


 事情を知らない人からすれば、突如魔法が綺麗さっぱり消えた様にしか見えない筈だ……



「えがった……マジックワンド無事でえがった……」



「あああ……でも修繕費のローンが払えない……」



 キーテラとアーリスは、がっくしと肩を落としている。


 僕はコソコソっとノームにお願いして壁の修繕を頼む。



 しかし状況を納得出来ない二人は、唐突言い合いの喧嘩を始めた……



「だから言ったじゃない!ルールは守る様にって!」



「ギルマスだって楽しがってたじゃ無いですか!いつか5層の半分でも破れる冒険者が来る筈だって!」



「ええ!言ったわ!でもローンがあるのに強行したのはキーテラでしょ!」



「先にあのヤバイ人連れてきたのは、何処の誰ですか?アーリスでしょう!」



「あ……あの……壁は直しましたので……もう喧嘩は……」



「「原因である貴方は黙ってて!!…………え?」」



 二人は仲が良いのか悪いのか……見事に同じ反応をする……



「え?直した?あ……穴が……壁の穴が……ない!?」



「きゃぁぁぁぁぁ!!嘘でしょう?一瞬で?凄い!!魔導師ギルドの救世主様!」



 僕の言葉を聞いたアーリスは驚き、壁に突進していく。



 そしてキーテラは、壁を見てから僕に抱きついてきた。


 涙と鼻水が酷いので避けたかったが、真後ろにはノームがまだ居たので避けられない……


 今日一日最悪な状況だ。



 ◆◇



「ギルマス……もうルールを破るのはやめましょう!」


「そうね!キーテラ貴女の言う通り。壊れてから後悔は絶対駄目よね!」



 調子のいい二人は、壁の修繕費が無料で済んだので機嫌がいい。


 仲直りも早く、さっきの喧嘩が嘘の様だ。



「あ……鼻水すいません………」



「ああ……キーテラさん平気ですよ………ところで……向こうは良いんですか?皆待ってるんじゃ?」



 盛大な破壊音は当然だが、皆を呼ぶ形になった。


 しかしその轟音とは裏腹に、破壊された箇所はどこにも無い。


 唯一の目撃者はノーマルとして参加していた女の子のマッフルだったが、小さい子の言葉を信じる人は少ない。



 何故なら彼女は『小さいおじさんを見た』と話し始めたからだ。


 当然それはノームの族長に間違いは無い。


 しかし認識をずらす事が出来る精霊は、人間には認識など出来ないのだ。



「真っ青でギュルギュルいう水の球が壁にぶつかってボーン!ってなってガラガラってなったの!」



「分かった分かった!マッフル……それでそのお爺さんは何処へ行ったんだ?」



「壁の穴塞いで、マッフルにバイバイして消えちゃった!」



「そうかー消えちゃったかー。じゃあまた会えると良いな!マッフルはここに毎日来てるんだか……また会えるんじゃねぇか?」



「会えるかな?ちっさいおじさん……ちっさいおじさんに魔法教えて貰って……マッフルお家作りたい!」



「お家かー!良いなー。ちっさいおじさんなら作る家も小さくて済むもんな?マッフルも小さいから……いいんじゃねぇか?」



 ボウは適当にマッフルの言葉を流すが、僕の内心はヒヤヒヤだ。


 誰かから精霊ノームの話でも出たら、それこそ問題だ。


  僕は注意を逸らすために、他の話題を提供する……当然それは皆が今待ち望んで今日イチ欲しい物だ。



「えっと……魔導師ギルドの認定はまだかかりますよね?」



「はい?ああ、ヒロさんちょっと待ってくださいね!確認しようにも、アーリスさんがご家族と何やら話し込んでいまして……もしご予定があるなら、後ほど取りに来ても平気ですよ?」



 行きたい場所があっても、先程ラムセスがグラップの使いで騎士団宿舎にお使いに出されてしまったので、薬草屋の場所が分からない……


 どうしようか悩んでいたが、キーテラが思わぬ話をして来た………


 それはフローゲルの話だった。



「ヒロさん、帝都は初めてと言う話ですよね?ならば是非フローゲル像を見ていくべきですよ!待ってる間に行って来たら如何ですか?」



「フローゲル像?……もしかして……魔導士フローゲルの像の話ですか?」



「ええ!そうです。フローゲルと言えば帝都で有名ですからね!特に息子さんが作られた引っ掛け鞄は有名で、現存数は5個しか無いですからね!」



「キーテラさんは……パウロの引っ掛け鞄をご存知なんですね?」



「それは知ってますよ!魔導師の中でも意見は別れますが……私は賛成派ですね!帝都の為に頑張った、素晴らしい一族です!」



 そう言ったキーテラは『……あれ?ヒロさん……その腰のポーチ……パウロの引っ掛け鞄にそっくり……』と僕のポーチを見て言い始めた……



「はい……そうなんです。パウロの引っ掛け鞄ですよ?」



「………………」



「………………」



「…………え?」



「はい?パウロの引っ掛け鞄ですけど……何か?」



「………え?……6個目?現存する鞄の6個目?大発見の遺物が……ヒロさんの所有物?」



 僕は残りの5個の話を知らないので、知らない旨を説明する……


 その上で、僕の持ち物が6個目であればそうだと言った。



 するとキーテラは2、3歩後ずさったかと思うと、ギルドカウンター裏の荷物に足を取られて見事にすっ転ぶ。


『ドンガラガッシャーン』



「ひぃ……いたぁぁい………」



「ちょっと!キーテラ何をしてるの?折角纏めた荷物を、ぶち撒けないでよ……」



「ああ……ニーラ御免なさい……ちょっと動揺してしまって……。ちゃんと片しておくから……」



 そう言ったキーテラは、すぐにカウンターから飛び出てくる。



「お願いします!本物を見せてください!どんな構造なのか……興味が……」



「じゃ……じゃあこうしましょう、フローゲルの像のある場所を、案内地図として書いてもらえますか?見て来てる間、キーテラさんに鞄を渡すので……」


 そう言った瞬間キーテラは『今すぐ書きます!!』と言ってギルドカウンターによじ登る。


 横着にも程があるが、目線に困るので正直やめてほしい。



「こ……これ!……ここにフローゲルの像があります!」



「有難う御座います。じゃあこれベルトにかけるポーチ型なので、ベルトごと渡しますね。中には傷薬が入ってますので、邪魔なら取り出してください」



 キーテラは『あじゃましゅるー』と言うと、ベルトを自分のウエストに巻き付け、若干狂った様に狂喜乱舞した……

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