第921話「手がかりを求めて」
腰にベルトを巻きつけ、鞄の蓋をぱかぱかしながら踊るキーテラは、まるでどっかの部族の人の様だ。
「おほぉ…………夢にまで見たパウロの引っ掛け鞄………きゃぁぁ!凄い!まるでパウロの造った『オリジナル』みたいだわ!この焼印………え?……はぁ!?……焼印?………ひぃ!?……これって…ほ……ほ……本物?……え?ヒロさん?……これ……」
僕は『しぃ!』っと指を口に当てて黙らせる仕草をする。
「んぐっくっく…………」
「じゃあ!フローゲルの像まで観光に行って来ます」
「んぐっく!んぐっく!」
何故か突然話さなくなったキーテラは、激しく首を縦に振りいってらっしゃいと意思表示をする。
ベルトを腰に巻いた彼女は見るからに挙動不審で、完全にやばい女の子に早変わりした。
◆◇
『ふぅ……キーテラさんの様子から察すると……なるべく早く戻ったほうがよさそうだな』
僕は入り口の扉付近でそう心で呟くと、魔導師ギルドの扉を勢いよく開けて外に出る。
するとギルドに来た時とは打って変わって、大衆に埋め尽くされていた。
どうやら国民にかなり人気のある誰かが、周辺まで来るのかも知れない。
もし予想通りだとすれば、非常に不味い可能性がある。
すると群衆の熱気がぐっと上がり、そこら中で叫び声が上がる。
「きゃぁぁぁ!舞巫女のミミ様!」
「火の精霊使いのカナミ様も居るぞ!!」
「スゲェ!噂とうとう帝都に来てくれたんだ!あのファイアフォックスメンバーも一緒だぞ。唯一のプラチナギルドだ!」
「僕は大きくなったら、絶対にファイアフォックスに入団する!」
「お前なんかがあそこに入れるかよ。入団試験は貴族になるより大変だって話だぞ?」
周囲の反応を見て僕は『ミミ達が来たって事は……冒険者ギルドに向かうって事かな?』と……行く先の予想を立てる。
僕は帝都で、ミミやシャイン達に見つかる訳にはいかない。
王国貴族である事が知られれば、間違い無く自分の命を危険に晒すからだ。
急いでフローゲルの像に向かうべく、キーテラが書いた地図を確認する。
しかし確認をする間も無く、突然僕は話しかけられた……
僕の横に居た女性が僕に向かって話しかけてきたが、話し方の違和感が凄まじい……
「精霊使い?まったく聞いて呆れるねぇ」
そう言った後『自分の精霊を連れ歩かず精霊使いとは……片腹痛い。何故未だに契約している火の精霊を助けに行かんのか……。嘆かわしいねぇ……アンタもそう思わないかい?』という。
見た目が凄く若いのに、老婆が使う様な言葉遣いなので、僕はついつい凝視してしまう。
僕はついつい『ギョッ』とした目をしてしまうが、女性は念押しなのか『お主もそう思わんか?』と賛同を求めて来る……
そして女性の言葉はそこで終わらず、まだ続いた……
「精霊が死ぬには、その魂を燃焼させる状況にならんとその精霊の存在は消えん」
そう言った女性は更に『古き王国一つを巻き込んだ暴走だったにせよ、存在が消滅せん限りその精霊核は生きているんだよ。魂の絆が切れた事を『死』と捉えておる時点では、精霊使いとは本来まだ名乗れんのだけどねぇ……』などと言う……
聞いた限り僕に言っている様だが、その真意がわからない。
その言葉は間違いなく精霊を知っている者の言葉だが、そもそもファイアフォックスの精霊使いは数える程度しか知らない。
それも群衆が言葉に出している人物である『カナミ』と言う女性では無いのだ……
「すいません……ファイアフォックスの火の精霊使いの方に関する事は……エクシアさん以外はあまり知らなくて……」
「ほぉ?成程ねぇ……じゃが……お主の精霊達は違うみたいだよ?」
女性はそう言った後『むむ……そうか……成程……お主記憶が。ふむ……あそこに行ったのか……如何なる理由があるにせよ……難儀な少年だね!』などと言い始める……
女性の言葉に僕はさらに驚かされる……彼女は『僕の精霊』と言ったのだから驚かない訳がない。
その上、僕からなにかを感じ取ったのか意味深なことまで言う始末だ。
僕はその話をしようとするも、突然起きた悲鳴に邪魔をされた。
「きゃぁぁぁ!!」
「がぁ?いてぇ……え?……さ……刺された!?ミミ様……た……助けて!」
「いてぇ……ぐが?……なんだテメエ等!!」
女性との会話中に上がった悲鳴は、どうやらミミ達を狙った刺客が原因の様だ。
それに対処する様に、ルーム達の指示が飛び交う。
「おいお前等!刺客がきやがったぞ。騎士団共は素早く周囲を封鎖してミミとシャインの安全を確保しろ!特にシャインの姉御……ヒロ兄みたいに突っ走るなよ?」
「ルーム殿了解しました!!第一護衛騎士団は護衛隊長ルーム殿の指示にて行動!第二護衛騎士団はバウ殿に指示を仰げ!緊急散開急げ!」
「王国騎士団!刺客から聖女ミミ様をお守りしろ!!我等騎士団の力の見せ所だ……聖女様に毛程の傷も負わせるではないぞ」
騎士団がルームの指示で慌ただしく動く……
たった一年と少しで、見違える様に成長した様が見てとれる。
そして敵勢力はどうやら魔物の類いでは無く、悪漢やらゴロツキに加えてアサシンと呼ばれる暗殺部隊を含む混合編成の様だ。
だが周囲が慌ただしくなる中、聞き慣れた声が聞こえる……
ただ聞き覚えこそあるが、僕には誰か分からない。
「ミミ!?ちょっと!!どこ行く気よ……たくさん敵がいるのよ?いい加減にしないと、今日こそお夕食お預けになるわよ?」
「ひぃ!ユイナ姉様の夕飯だけはご勘弁なのですよ!でもカナミちゃん……水精霊が騒いでるんです!!それはもう……むっちゃ大騒ぎなんでし!!」
「だから……あーもう!分かったから。ミミちゃん、敵がいるんだからちょろちょろしないの!!今すぐ片付けるから。はぁ……フランムごめんね手伝って!」
そう言った女性は精霊力を周囲に満たしていく。
『焔の双姫フランムに仕えるサラマンダー!契約に基づき我に力を!!フランム・ジュジェクライス』
彼女が何かを言うと、その女性を中心に円状に炎が広がっていく……
放たれた炎は、市民を焼かずに素通りしている……しかしミミ達を敵としていた輩は違う様だ。
刺客の身体は、突然業火に包まれる……
刺客達は転げ回り消そうと必死にもがくが、僅かな時間で物言わぬ黒い塊になった。
「流石カナミの魔法だな……始末が早え!……おい!騎士団……周囲にまだ敵が居ないか確認しろ!」
「そうだぞ騎士団!帝国領内に入って今回で6回目だ……いい加減しっかり仕事しろ!危なっかしくて外も歩けねぇよ!!」
ルームとバウの檄が飛んで、騎士団が動く……
それを見た僕は『ここに居ると……間違いなく勘が良くなったルームに見つかるな。それは流石にヤバイぞ……』と直感で感じとる。
一先ず今まで話していた女性と、場所を移して会話の続きを………と思った僕は彼女に話しかける。
「お姉さん……少し聞きたい事があるんですが………って……あれ?居ない?……あっれー?……何処に行った?」
やけに精霊に詳しい女性に話しかけたがつもりだが、残念な事に既にそこにはもう居なかった。
◆◇
僕はキーテラに書いて貰った地図を頼りに、フローゲルの像へ急いで向かう……
もちろん騎士団にちょっかい出されない為だ。
そこにあったのは、3メートルはあろう巨大な銅像だった。
しかし知っている銅像と違うのは、あまりにもリアルに造られている点だ。
どう加工したのか、その方法も想像がつかない位作り込まれている。
石の台座の上にあるフローゲル像は複雑な魔法処理がされている様で、時折り髭をさする動作をする。
その所為で銅像が生きている感じさえする。
「あった………石像かと思ったけど銅像なのか……それも瞬きしながら髭を摩ってる………」
つい僕は独り言を呟いてしまう……それ位銅像の動く様は度肝を抜かれるのだ。
僕はフローゲルの像の裏に回る……
手紙の内容には前の石碑に魔法印を押し当てれば、裏側には何かをしまう収納場所があるそうなのだ。
見た限り、石の台座の裏には何ら不思議な場所はない……
僕は前に周り石碑を捜す……しかしそれらしき物は無く、あるのは銅板プレートだけだった。
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