第906話「それぞれの意趣返し」


「それで?納得できないから何かを願い出るつもりだろう?少年……」



「ぼ……僕はディーナさんやスカリーの身に起きた事を黙っていることは出来ません。ですが貴族に何が出来るわけでもなく……」



 そう言った僕は意を決して、クロークを脱いでドネガン公爵の目の前にダンジョンで得た宝箱を出す。



 マジッククロークの存在を二人に教えれば、それなりに危険が及ぶかもしれない……


 特にコセ家からは……


 しかしそうなったらそうなったで、全力で刺客を排除すれば『危険人物』という事くらいは伝わる筈だ。



「な!?ヒロ……何だそれは?マジッククロークだったのか!?」



「マガワーマ伯爵様すいません。これの存在を明かせば要らぬ問題が発生すると思ったので……」



 僕はマガワーマ伯爵に謝罪を簡単に済ませてから、宝箱の蓋を開けてドネガン公爵に中身を見せる。


 そして跪き頭を下げて、嘆願をする……



「できましたら……この財宝で私の願いを叶えて頂けませんでしょうか?ドネガン公爵様……」



「願いを?少年……お前は貴族になりたいと言う事か?」



「違います。例え爵位を得ても、彼等の悪事を裁くことはできません。ですので……公爵様が公正なる裁きを……」



「成程……少年……お主は爵位より裁きを欲すると?……それは貴族の家柄を……という意味でか?」



「もし彼等が『ここまでの悪意を持ってそれを成してない』ならば、そこまでするつもりは無かったです……ですが今となっては……彼等の存在が帝国民にとって、害悪以外の何者でもありません」



 僕の言葉に暫く考え込んだドネガン公爵は、重く口を開く……



「我が裁かずとも、既に父親が裁いておるぞ?お主はもう気がついているんじゃ無いか?……彼等馬鹿息子達の行先を聞かないのは何故だ?」



「ドネガン公爵様……タカリー家当主のした事は、人知れず罪を隠蔽した事に他ないからです」



「ふむ……確かにそうだな。だがトゴルーマが殺害や悪逆非道を指示した形跡は無いのだ。奴は悪辣貴族ではない……お主は勘違いしておるから教えておくがな?」



 その言葉にビックリして顔を上げる……



「くっくっく……その顔は相当ビックリしている様だな?私とて畑のカカシでは無いのだ。情報を得るために、多くの手の者を各地方へ送っている。毎日大変なのだぞ?」



 『私の口から言うには、当人を前にして些か言い難いのだがな……』と、小さな声でそう言ったドネガン公爵は説明を始めた。



「悪辣貴族と言うなら、お主の目の前にいるコセ家の方がその名に相応しい。ちなみにマガワーマ、決して気に病むでないぞ?これは褒め言葉であるからな?」



「な!?悪辣貴族……が褒め言葉ですか?……ですが……流石に公爵様に直接言われれば……」



「くっくっく……だがお前は悪辣貴族に間違いは無い。悪辣貴族にも種類があるからな!」



 僕はその言葉に、王国貴族達を思い出す……


 金に汚い貴族達が多いが、芯が通った貴族も少なくは無い。



「先程見かけたシャーマル・ウィスター侯爵……奴は悪辣貴族の代表たる人物で、人殺しも気にしない要注意人物だ。だが、タカリー家は決して悪辣貴族では無い。陛下の信頼厚い貴族であり、領地を与えられそこを統治する様に直接陛下から仰せつかった、数少ない貴族だ」



「では……何故あんな事を?鬼蜘蛛一家を使い町民を脅す事は……帝国の為にはなりませんよね?」



「うむ……勿論、事情は精査する必要性がある。だが、大方それは妻の判断による問題だろう。何故なら彼奴は最近までその事を知らなかった。だから現状は火消しにてんやわんやなのだ……」



 僕もその事には何となく想像がついていた……


 軽く頷き肯定を示すと、それを見たドネガン公爵は話を続ける。



「彼はシャーマル・ウィスター侯爵と縁を持った時に、今の妻と政略結婚を薦められたのだ。悪辣貴族の一人娘とな!シャーマルは彼を手駒にしたかった。何故なら、皇帝一派のタカリー家を押さえれば、帝都付近の街を一つ抑えられるからだ」



 僕はそのやり取りにかなり疑問に感じた……


 そして横にいたマガワーマ伯爵を見てある事に気がついた。



「まさか……意趣返しって事ですか?」



「くっくっく……気がついたか?反皇帝一派から私がマガワーマを引き抜いた。だから奴等はタカリー家に、シャーマルの息がかかった悪辣貴族の娘を充てがったのだよ……。どうだ?政治が絡んでいることが理解できたか?」



「ですがドネガン公爵様……私は既に皇帝陛下に忠誠を誓いましたぞ?それであればタカリーとて、反皇帝派に寝返ってても不思議では無いのでは?」



 自分が政治の材料である事は既に把握しているマガワーマが、そう質問をドネガンにする……



 するとドネガンは『悪辣貴族たる妻の行動は、トゴルーマの信念を大きく傷付けたのだ。自分の築いた地位と爵位を、何処の馬の骨か分からぬ餓鬼にくれてやる気にはなるまいて……』という。



「では……『公爵様は……随分前から気が付いていた……』と言う事ですか?」



「うん?トゴルーマの事か?だとしたら『是』だ」



 その言葉にマガワーマが『どういう事ですか?気が付いて尚放置してたと?』とボソリと呟く……



「ふむ……放置とは違うな……。これは予測の範疇だが……『正妻に思い知らせる為』と言う事だろう。何故なら……側室となった者は、皇帝一派の貴族から嫁いだのだ」



 ドネガン公爵はそう言うが、当然僕には疑問が残っている……『実子の確認方法』だ。


 遺伝子検査などは化学やその知識がない以上無理だ。



 そこで僕は『何故自分の子では無いと言う事に辿り着いたのか?』と質問をする。



「簡単な話だ……彼の子供には『特殊技能』があると言っただろう?」



「!!……成程……彼奴には『血脈スキル』があると言う事ですな!だからその事実に行き着いたと!」



「うむ……側室が産んだ子が、家系スキルの『狂戦士(凶暴化・攻撃力2倍)』のスキルを発現したそうなのだ」



 どうやらタカリー家当主は、それを鑑定神殿で調べた結果『彼の家系は100%引き継ぐ能力』と教えられた様だ。



 ドネガン公爵は、『トゴルーマの側室は<第二子>を最近産んでいて、その子も狂戦士の能力持ちだ』と言う。


 ちなみに第二子は娘らしい……



 兄妹共に狂戦士など……危険極まりない家系だ。


 だが、まさかそれがきっかけで裏切り行為に気がついたなら、自分の血筋に感謝しかないだろう。



 何はともあれ、タカリー家の問題は妻が関わっているのは間違い無さそうだ。



「しかし罪は罪だ……お主の言い分も間違いでは無い。何故なら、息子の悪逆非道を放置した罪は咎めない親にある。貴族たる者、如何なる愚行でも帝国の品位を下げては決してならん」



 何故か僕ではなく、マガワーマを見てそう言うドネガン公爵だったが、彼の愚息の事を遠回しで言っているのかもしれない。


 しかしマガワーマは、それを自分の事だと気が付かずに『拍手喝采』で応えている。



 ドネガンはなみなみと注がれているエールを『グビリ』と飲むと……溜息を吐きながら声を出す。



「とは言え……何かいい方法はないものか……。王国ともめている現状で、帝都付近の領地に問題を迎える訳には行かんのだがな……。今は領地争いで血を見る時ではない……そうは思わんか?ヒロよ?」



 何故かドネガン公爵は僕を見ている


 だが、運が良いのか悪いのか……料理が持ちこまえれた……


 料理長のお陰で、白羽の矢が僕に撃ち込まれることは無くなった様だ。

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