第900話「師弟関係」


「師匠になったのは、アユニの時とあまり変わらないよ?色々周りに言われてそうな子を面倒見たんだよ。そして僕の知らない内にいつの間にか聖女になってたんだ。だからあんな風にビックリしたんだよ……」



「何となく腑に落ちないですけど……でも説明できない事があるのは理解出来ます。じゃあヒロさんがミミ様のお師匠だって認めるんですね?」



 アユニは目を大きく見開いて僕にそう言う……



 しかし細かい説明をした所で、関係性が変わるわけでもなく、僕の状況は何も変わらない。


 寧ろ火焔窟に話をしたら面倒が増えるだけだ。



「まぁ認めると言うか……バレたから来たんだよね?」



「「まぁ……そうですけど……」」



「それだけを聞きたくてきたの?」



「ミミ様に会わなくて良いのかなって……ねぇ?アサヒちゃん……」



「そうなんです……。理由を話せば、騎士団長は快く引き受けてくれるのはないかと思ったんです……」



「まぁ経緯を話せば、僕に合わせてくれるだろうけど……。でも今はディーナさんの方を優先させないと!彼女には生死がかかった問題で時間がない。それにドドムさんの苦労が水の泡になる」



 事の優先順位を説明したあと、僕は『あと付け加えるなら、ミミは今すぐ死なないし、そもそも連絡を取る方法は王国へ行けば良いだけだから』と言うと二人は『確かにそうですね!』と言う。



「アユニさん……腑に落ちない感じは解消された?」



「解消って言うか……もっと聞きたい事があるんです……。ミミ様の師匠って事は……水精霊様………うっぺ!?………ふわぁ?何で水かける……ほわぁぁぁぁぁ!?」



 突然アユニは頭から水をかけられる。


 そして上を見上げたアユニは、化現した水精霊を見た瞬間、転げ回る。


 その様は上からかけられる水を、必死に避けているようにも思える……



『ちぃ!ちょこまかと避けおってからに!アユニめ!水まみれの洗礼を受けると良いわ!!ってそうじゃ無い!!貴女私の信者になりたいの?ミミみたいに?』



 水っ子は部屋の水入れから化現してアユニに水をぶっかけていたが、唐突に念話でそう尋ねる……


 するとアユニは水精霊の言葉を聞くなり、立ち上がりフライング土下座をぶちかました……



「水精霊様!本日はお日柄もよく!!師匠の事を少しでも疑った自分が馬鹿でした!!」



 そう言ったアユニは、座り口を開けたまま固まっているアサヒを椅子から引きずり降ろす。


 椅子から落とされた衝撃で我に返ったアサヒは、叫ぶように話し始める……



「ふわぁぁぁぁぁ……水の精霊様!ワタスわーアサヒさ言いますー!!精霊様に縁遠い山奥の村さ出てきましたー!!冬は雪深い村の出でー……わっぷ!?……何で雪さ顔面に?何でぇ部屋に雪さあるんだぁ?」



 何故かアサヒは方言で話し始める……


 今までの話し方では無く非常になまっているので、パニックになるとそうなるのかも知れない……



『雪さ懐かしいでしょー?どう?アサヒあなた久々に雪が見たいと心で思ったでしょう?だから、わたちと雪合戦しよー!」



 アサヒはパクパクしながら、雪ん子を指差して固まっている。


 アユニは目をひん剥き水精霊と雪精霊を往復している。



「何でー?水精霊と雪精霊さ、同時にいるんだぁ?おかしいべ?水精霊様さ固まっちまうべー?……アユニこれは夢?」



「ガチガチガチ………ゆ……夢じゃ無い………だっ……だって頭がずぶ濡れで……ふ……太ももまで雪に埋まって……凍死寸前だもの……ガチガチ」



 雪ん子は二人の座っている場所にだけ雪を積もらせ、水っ子は二人の頭から水をかけている……酷い拷問だ……



「そろそろ二人とも揶揄うの辞めてあげなさい!じゃ無いとアユニもアサヒも足の指先が凍傷になっちゃうから……」



『ちぇ……つまんないの……アユニ!アンタ水精霊信仰しなさいよー?じゃ無いと……寝てる間にまた頭から水かけるからね!じゃあねー!』



 そう水っ子が言ったあと、雪ん子は一瞬で雪を掻き消す。



『アサヒー貴女はわたち達、雪の精霊を信仰してね?じゃ無いと寝てる間に氷漬けにするわよー!!じゃーねーばいばーい!」



「はぁ……部屋がびちょびちょだ……。二人をおちょくるのは良いけど、後始末は俺だって忘れてないか?まったく……『乾燥!』……」



 僕は生活魔法の乾燥を使い、部屋中を乾かして証拠を隠滅する。



「し……師匠の凄さを甘く見てた……水精霊様だけじゃ無く……雪の精霊様まで……へっくちぅ………」



「ア……アユニちゃん!!ダンジョンであんな水の範囲魔法を使う時点で、私達の師匠は絶対おかしいって思うべきだったんだよ!!」



 そう言った二人はすぐ様抱き合って『すごぉぉい!!精霊様と話しちゃった!!』と喜んでいる……


 しかしその状況はすぐに一変する。



『コンコン』



「ヒロ様騎士団長の指示で、市内の案内で参りました。騎士見習いのラムセスです。入室してもよろしいでしょうか?」



 突然の騎士見習いの来訪に非常に慌てる……どうやら騎士団長と別れてから、1時間半が既に経過したようだ。



 ◆◇



 僕は騎士見習いを扉の外で待たせ、そしてその間に二人に口止めをする。



「良い?二人とも今日の事は内密に!じゃ無いと………破門です!!」



「「分かりました!口が裂けても絶対言いません!!」」



「アユニは、信仰する水精霊様の名の下に!」



「アサヒは、信仰する雪精霊様の名の下に!!」



 もう既に口を滑らせている二人に不安しかないが、今は彼女達を信用する他ないだろう。



「じゃあ僕は騎士見習いと一緒に街に繰り出します!ちゃんと二人は騎士団長に協力してね?」



「はい!アユニは、騎士団長に協力します!!信仰する水精霊様の名の下に!」



「はい!アサヒは、騎士団長に協力します!!信仰する雪精霊様の名の下に!!」



 僕は二人に『もう口を滑らせてるよ?』と言ってから部屋の外に出る。



 二人はすぐに口を押さえるが、その行為で辞められるなら世話はない……



「すいません。ラムセスさん……お待たせしました!色々パーティーメンバーと話しておく事があって……」



「大丈夫であります!団長からもそう言われてますので!!」



 そう言った見習い騎士のラムセスは『では……薬師素材をお探しと言う事ですので……数量豊富な帝都ギルドから御案内させて頂きます!』と言って案内を始めた。



 朝早く出たが、街から帝都までは遠く到着には8時間もかかる。


 その上サザンクロスのあけた大穴の所為で回り道が必要だった。



 その為、到着したのは16時を過ぎていた。


 そこから1時間半の休憩もとい食事と風呂で18時になり、既に外は暗く帝国の夕暮れからは非常に寒い。



「冷えますし……かなり暗いですね……帝都だから明かりがあるので、今まで居た街よりマシですが……」



「そうですね!帝国の夜は夕暮れから既に寒いです。ヒロ様は小国郡国家の方ですか?彼方はまだ暖かいそうですね?」



 うっかり王国の話をしたが、勝手に他の地域に脳内変換してくれたので非常に助かる。


 僕は騎士見習いのラムセスとの会話で、アシュラムと出会った王国と小国郡国家の国境沿いを思い出した……

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