第887話「ディーナ宛のドドムの手紙」


「モルダー疲れている所に悪いが、マガワーマ騎士団のメンバーも連れてきてくれるか?あ!ちなみに伯爵抜きでな!部外者に知られて困る情報も今はあるからな……」



「うっす!!アンガさんわかりました。じゃあ団長だけで良いですかね?皆さん先に行ってて下さい。後でギルドで落ち合いましょう!」



 僕は帝都へ移動する日をすっかり忘れていた……その為今日はかなりヘビーな一日を送る羽目になりそうだ……


 ◆◇


 僕達はギルドに戻ると、明日の移動に備えてすぐに分配作業を開始した。


 財宝をぶち撒けたマガワーマは、モルダーと騎士団長の話を聞くと、自分の代わりに息子のイコセーゼへ回収を任せた。


 そしてまるで当然の如く騎士団長と共にギルドの会議室まで来た。



 しかし既にそれを見越していたテカロンは、連結した会議室を用意していた。



 大会議室は財宝分配用で、小会議室は手に入れた羊皮紙の精査の為だ……



「なぁヒロ……さっきから熱心に羊皮紙見てるけど何か気になるのか?」



「って言うか………ラック……お前こっちに居て良いのか?」



「そう言ったってよぉ……クレム……話し合いはガルムの方が適任だろう?」



「そうだね……アタシもそう思うわ!そもそもダイバーズのリーダーなんだからね?」



「でもまさか……ヒロさんがモルダーさんに全部任せるなんて……ねぇ?マナカにアサヒもそう思うでしょう?」



「でもモルダーさん梃子でも動かないって有名らしいよ?」



「え?そうなの?マナカ知ってた?」



「あの………すいません気が散るんですけど?何も解読中の此処で話さなくても……」



 僕が必死に羊皮紙を解読しているにも関わらず、暇を持て余した彼らは延々と雑談をする。


 クレムとアンガに至っては、エールまで持ってくる始末だ……



「それで……ヒロさん……何か分かりましたか?」



「アサヒ!それはアタシが答えるよ。まず今ヒロが読み解いたのは『薬師レシピ』だね。薬師スキルが有る奴は、ある程度練習が必要だってさ」



「って事は………薬師スキル持ちはかなり凄い収穫って事ですか?」



「凄いも凄い……なんと『万能薬』のレシピなんだってさ!それでコレがその素材で、なんと!ダンジョンで全部揃うって書いてあるらしい」



 そう言ってレイラは、僕が書き写し中の羊皮紙を皆に見せる……



『万能薬の素材 スワンプ・タートルの甲羅草2本、光草の根1束、ダンジョンスカラベの脚6対、蒸留水200ml、ケイブワームのミンチ肉50g、テンタクルワームの触手4本、ロックバットの皮膜1枚』



「おいおいおい!?それって金のなる木じゃねぇか?……この羊皮紙書き写せば、幾らだって稼げるぜ?」



「あのねレック……問題があるから、この小部屋で話し合いなんだろう?マッタク何を言ってんだか……」



 僕はレックとレイラに話に割り込み大切なことを話す。



「レックさん……これはギルド職員が製造に成功した後に、ギルド情報として掲示する予定ですよ」



「な!?何でだよ?……みすみす金のなる木を棄てるのか?」



「理由の一つに、本当に出来るか分からない点が挙げられます。そして討伐メンバーにギルマスが居たんです。ギルマスが掲示すると言ったら?」



「「「「「「あ!!」」」」」」



「ですが対処法もあります。まず全ギルドで使用を許可する代わりに、レシピ代金を徴収します。その金額は『永続』とする事で全員へ固定収入が入ります」



「わりぃ……全然わからねぇや……もっと分かりやすく説明してくれよ……レイラ……」



「あ……アタシに聞くなよ………ペ……ペム!アンタが説明しなよ!!」



「わ……儂は薬師じゃ無いから……しっかり聞いてなかった……スマン………」



 僕は若干呆れたが、仕方なく羊皮紙に図を書いて細かく説明する……



『1、レシピを各国のギルドで販売し、得た代金をギルド本部で集約する』


『2、その金額を討伐メンバーで当分にする』


『3、ギルド証提示で、その得た個人報酬を引き出す』



「完結ですがこんな仕組みです。ギルドで販売するので販売手数料が発生して少し目減りしますが……その部分の話し合いはギルマスとする必要がありますね………」



「な……なぁ……ヒロ……これって『ずっと貰える』って事か?」



「ギルドで売れる限りずっとですね……ですが絶対複製して売る輩が出るのは目に見えてますし、一度買ったら薬師はレシピを二度と買いません」



「なぁ……レイラにペム……それって得してるのか?」



 レックの質問にペムは……『魔導書と同じじゃな?使わなくなった魔導書を中古で売ったりするのは、常套手段だしな?』という……


 どうやら魔導書も、色々な形で売りに出ている様だ。



「ペムさん……そうですね……ギルドとすれば一人にでも多く流通させたいでしょうし……人の持ち物を利用してでも、利益を得たい輩は必ず居ますので……」



 僕は『ギルドの考えと、販売者の考えは必ずしも一致しませんから……』と言葉を付け足す……



「うむ……そうじゃな!まさか儂等が販売する側に回る日が来るとはな……ギルドの事務員が、魔導書を違法販売する輩にイライラする理由が今は少し分かるぞ……」



 レックは頭から煙が出そうなくらい悩んでいる……


 それを見たペムは『後でゆっくり教えてやるから……今は忘れろ……』と言った。



「まぁレシピの件は任せるぜ!金になるなら何でもいいや……それで?他には何が書いてあるんだ?」



 そうレックは安直に聞くが、それが一番問題だ……



「大きな問題がありますね……階層はどの羊皮紙にも書いてませんが、『ダンジョンが幾つか繋がっている可能性がある』と書かれてました」



「なぁ……クレム……それって珍しいことか?そうでも無いだろう?」



「あのなレック……ダンジョンの繋がり方に問題があるんだ……本来出入り口を通じてしか移動はできないだろう?」



「うん?そうだろうな?……おいおい……まさかダンジョンの中から他のダンジョンへ飛ぶって事か?あの今日使った転移陣みたいなので?」



 それを聞いたレイラは『レック……アンタ聞くだけ無駄だから……黙ってた方がいいよ?馬鹿だってバレちまう……』という……



「今のレックさんの話そのまんまですね……。ドドムさんの書き残した情報では、『転移陣』を使って全く離れた場所のダンジョンに行けるそうです」



 そう言ってから、ドドムの移動経路を話す。



 ドドムは地下10層以降に執着していて、細かくマッピングをしていた。


 遺体の付近に羊皮紙を置いた理由は、まさにディーナへの連絡の為だ。



 書き置きでは、数カ所のダンジョンの存在を示していた。


 その全てが帝国史に書かれているダンジョンであったが、それとは全く別のダンジョンの存在を書いていた。



 その場所が10層から下にあり、数回探索に行ったことが羊皮紙に記してあった。


 魔物の種類からダンジョンの構成まで、全てが異なるその場所はとても危険で、移動できる時間が決まっているらしいのだ。



 だがドドムは、ディーナに心配をかけるまいと、その存在を隠していた。


 そしてドドムは、ディーナに残された時間があまり無い事を理解した為、長期探索の用意をしてから、一か八かそこへ向かった様だった。



 ちなみにドドムはハイドホラーの存在は周知していて、部屋に入る前にハイドホラーがいる日は、絶対に侵入しないと決めていたようだ。



 ハイドホラーは、どうやら部屋の中から扉の外を『見る』事ができていたようだ。


 偶然扉を発見したドドムは、開けた瞬間ハイドホラーに襲い掛かられたが、扉のおかげで命拾いしたと書かれていた。



 ハイドホラーは『扉の外に攻撃ができない』と知らない様で、初見の時はずっと扉の向こう側でドドムに悪態をついていたそうだ。



 結論を言うと、ドドムが戦った事があるのは『ホブゴブリンの群れ』だけで、ハイドホラーとは戦ってない……と言う事だ。



 かなり前に安全部屋を見つけたドドムは、フローゲルの子孫を遺体で見つけた。


 だから帝都の帝国魔導師協会まで行ってきたらしい。



 ドドムは『秘薬と交換で居場所を教える』と言ったそうだが、答えはNOだった様だ。



 NOとされた理由だが、『帝都にはもう秘薬の在庫が無いせいで断られた』と書いてあった。


 そしてメモで……『秘薬とフローゲルの遺体が交換出来るくらい、その遺体の存在には価値がある。ディーナへ連絡する代わりの報酬だ……うまく活用してくれ』と書いてあった。



 ドドムは移動先のダンジョンで死ぬ可能性を既に感じ取っていたのだろう……



 何故なら、『冒険できる食料は最長で20日だ。ディーナそれ以上は俺を待たないでくれ。不甲斐無い亭主ですまない……』とメモが残っていたからだ。


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