第888話「ドドムの選んだ道」


 レイラはドドムの取った行動に不満があるらしく、愚痴を溢す……


「あの馬鹿……アタシ達に言えば………。秘薬の金額を割り勘しないと……って考えたんだね。本当に馬鹿な奴!!」



「くそ……もっと早く知っていれば……。レイラ……お前はその階層に覚えは無いか?」



「覚えがあったら、もうアンタ達に言ってるよ!!」



 アンガとレイラが机を『ダン!』と叩く……


 しかし僕は別の切り口で話をする。


「ドドムさんの探索の他に、僕達にはやる事が増えたんです!イライラする前にこの素材を全部揃えるのが先決でしょう!」



「はぁ?ヒロ一体何を……」



「「「「あ!!」」」」


 僕の言葉に全員が顔を見合わす……どうやら気がついた様だ。


 ディーナを救う方法、それは『万能薬』で事足りる事に……


 ドドムは『秘薬』のことで頭がいっぱいだったのだろう。


 『万能薬』で呪いは解消できる……ドドムは完全にその記憶を排除してしまった。


 しかしディーナでさえ、自分の呪いを万能薬で解呪できると知っている。


 その事が若干腑に落ちないが、本人を見つけて聞く以外方法はないだろう。



「気がつきました?『万能薬』があればディーナさんは救えるんですよ?あとは10階層から下を虱潰しにするだけでしょう?全部解決して万事終了です!」



「ちょっと!ヒロ……アタシにそのレシピ書き写させなさいよ!」



「お……俺も書くぜ!!えっと……テンタクルワームの触手?……マジかよ?1階層で手に入るじゃねぇか……」



「ってか……アサヒにアユニ!!お前たち沢山持ってたよな?」



「「売っちゃった…………」」



「「「何で売るんだよ!!」」」



「あんた達……まさか二人とも……ギルド納品じゃ無くて売ったのかい?」



「いえ……魔導師ギルドに……」



 アユニとアサヒの言葉にペムは『………もう無理じゃ……既に乾涸びて別素材になってるぞ……』と言う……



「ど……どう言う事だい?ペム……」



「儂は魔導師ギルドに住居となる部屋を取ってあるんじゃ。それで2階の踊り場の仕事募集欄にこう書かれていた……『テンタクルワームの触手を乾燥させる職人若干名募集、乾燥の生活スキル必須、1日の宿代金及び食事込み。報酬銀貨5枚』とな……」



「あちゃーーー」


「終わった………」



「で……でも!!またいっぺんに狩り尽くせば……」



 アユニがそう言うが、レックは……



「いや……6階層からも沢山出現するからいい……。どうせお前達は10層に行く前に経験値稼ぎするんだろう?だったら、丁度そこで集められるからいいさ!」



「それで?万能薬は誰が作れるのさ?」



「「「「「「………………」」」」」」



「え!?……あ……ヤベ……アタシ……空気読めなかった!?……」



「僕が薬師スキル持ってるので……チャレンジしてみる予定です。あとは素材を多く集めて、数名で万能薬製薬のチャレンジしたいですね……」



「ヒロ……お前……魔導師なのか?戦士なのか?それとも薬師なのか?何故そんなに沢山スキルを…………!!……お主エルフか?お前……まさか……あのエルフなのか?」



 僕はペムの『あのエルフなのか?』と言う言葉に若干引っ掛かりを覚えるが、すぐの否定をする……



「そうじゃよ……な……まさかエルフが里を出る訳がないよな……1天前の事件以来、エルフと人族の関係は完全に冷めてしまったからな……」



 僕はペムの言葉に動揺が隠せなくなった……『!?………え?……エルフと人間の関係が冷えた!?……どう言う事だ!?……』そう心の中で声にするが、皆にどんな説明をすれば良いのか、言葉に出てこなかった……



「エルフ元老院の『封絶魔法』の話だろう?アタシはあの事を思い出すだけで腹が立つよ!……何が『人間を信用できない』だ!コッチから願い下げさ!」



 レイラは憤慨しながら言葉を荒げる……



「ハーフエルフの奴等を迫害して、眷属縄張りから追い立てて放り出した彼奴らこそ、アタシはエルフの恥晒しじゃ無いかって思うよ!」



「レイラがキレるのもまぁわかるぜ?確かにあれは俺達人間から見ても酷かったな……なぁペム……そう言えば何処に行ったんだ?アイツらハーフエルフは?」



「儂にも分からんな……エルフの肩を持った彼等は、人族との相互条約を強制的に破棄させられたからな……人族の領土には居られまい……」



「それも……その後エルフ族が彼等を見捨てたってんだから……始末が悪いよな……」



「ああ……『人間の因子が混じってるから、ハーフエルフ共はエルフの王国内で住むことは許さない……』だったっけか?思い出すだけで胸糞悪いな……それも一度エルフの領内へ導いてからの裏切りだったもんな……」



 情報を整理するだけで一苦労だが、僕が居ない一年ちょいで問題が大きすぎる……


 ユイとモアそしてスゥの三姫は、それについて何も言わなかったのだろうか………



 僕はそれを聞こうとしたが、テカロン達が分配を終えて部屋に入ってきたので聞く事ができなかった……



 ◆◇



「今分配作業が終わった!完全に3等分だ」



「うむ……まぁ約束の品はヒロから既に受け取っているが、我等騎士団も戦ったのだろう?盾が滅茶苦茶になるくらいに?ならば貰う権利は……」



「おいオッサン!しつけぇよ!さっきからやるって言ってんだ。貰うもの貰ったんだから帰れや!今から別の会議があんだよ!」



 テカロンもモルダーも、額に青筋を立てているので相当苛々している様だ。


 後ろに控えている数名の騎士が仕切りに謝罪をしている。



 戦闘に参加した二人で、表情は既に疲労困憊気味だ……『休ませてやれよ』と言いたいが、報酬の為に側に控えさせているのは既にわかっている。



「なんじゃ?儂は参加してはならんのか?」



「当たり前だろう!!アンタに渡すものはもう済んだ。さっさと帰れ!ヒロの旦那は、朝には帝都に向かわねぇとならねぇんだよ!お貴族様に構ってる余裕はねぇんだ!」



「な!?なんじゃと!?………て……帝都に!?……うむむむむ……騎士団長!すぐに帰り支度をせい!我々も日が昇ったら、帝都に向かう!ヒロ同様、得た宝を皇帝陛下に献上せねば!」



 どうやらマガワーマは、盛大に勘違いをした様だ……



「マガワーマ伯爵様!騎士団長と5名の騎士は少しくらい休ませてあげて下さいね?ダンジョン経験を積んだ人を酷使し過ぎると、後々しっぺ返しが大きいですよ?だから充分に休息を……」



 僕はついウッカリ要らぬ言葉を言ってしまう。


 『一緒に生死を共にした戦友だ……』


 そんな気持ちがあったのだ……



 だが貴族にしてみれば、文句とも取れる言い分なので……『しまった!』と思ったが、伯爵は想定外の解釈をしてくれた。



「………うむ……成程……ダンジョンで数多くの凶悪な魔物を倒し、経験が豊富な騎士団という事だな?……確かに……一理あるな……」



 そう言ったマガワーマは『騎士団6名に命ずる!お前達は今日からダンジョン特務騎士団だ!次の遠征まで充分休息を取るように!』と大きな声で言う……



「え!?……あ!……は……伯爵様!畏まりました!!」



「騎士団長よ、次期騎士団団長の候補を3名作るように!その者達はお前の管理する騎士団とする!そしてお前は今日から騎士団大将と名乗るように!以上……帰るぞ!!」



「は……はい!伯爵様!!……全騎士、伯爵様の警護を開始せよ!」



「「「「騎士団、これより持ち場につきます!」」」」



 騎士団の団員達は、得た財宝をマジックバッグに詰める。


 そして僕達に一人ずつ挨拶をして、慌ただしく会議室を後にした。



 そして最後まで残っていたマガワーマ伯爵は僕をバシバシ叩きながら……



「流石に抜け目がない!お前は得た財宝の使い方が上手いな!!だが……抜け駆けなどさせぬぞ?ではヒロ、帝都で会おうぞ!……ガハハハハハ!!」



 そう言うと、伯爵も出て行った………


 どうやら余計なオマケが、帝都まで付いてくるようだ。

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