第882話「守護者と破壊者」


 ペムの説明では、この手の呪物は呪いが強すぎて、祝福をかけた者に悪影響が出る可能性があると言う。



 そしてペムは『一番いいのは、この場所に再度封印しておく事だ……』とも言った。



 だが、誰かがこの場所を見つけて持ち去った場合、街にまで危険が及ぶ可能性がある。



 たしかにペムが言う通り、この場所を発見するのは、決して楽なことでは無い。


 だが、今まで発見されなかったのが運が良かっただけで、此処が見つかったからには、かなり危険な賭けになる。



「どうしたもんかのぉ………おいペム。持ち帰って魔導師ギルドで処理できんのか?」



「寧ろコレは持って行かない方が良いな……。この呪物を詳細を調べたギルドの大馬鹿もんが、何かをやらかす可能性の方が大きかろう……」



「成程のぉ……。困ったもんじゃ。魔導師ギルドにも、碌でも無い奴がいるとはのう」



「ガルム……『力こそ全て』と言う輩に『危険な呪物』が渡ったら最悪だろう?そんな馬鹿が、此処の階層主の様な化け物になられても、街もギルドも非常に困るんだよ……」



 ペムとガルムの会話の最後に、ギルマスのテカロンが混じった……


 どうやらテカロンが知る街の魔導師ギルドに、思い当たる節があるのだろう。



「ガルム……ともかく今は、ここから無事に出る事を優先しよう。……それに……この手の事に、多分問題なく対処する奴が居そうだしな!」



 そう言ったギルマスの視線に釣られる様に、ガルムの視線は何故か僕に向けられる……



 両者のその視線の意図は、まるで僕に『管理しろ』と目で言っている様だ。



「仕方ない……僕が管理しますよ!!………」



「正直儂は……オヌシが持つ事は、心では危険じゃと思っておる。だが!この呪物をどっかの馬鹿が持つよりは、多少マシかも知れんと思ったんじゃ……」



「ガルム……そもそもヒロには『呪いの効果』を使わずとも、さっき見せつけられた危険な魔法が3つもあるんだ!もはや呪いなんぞ、オマケにしかならんかもしれん」



「それに何時迄も此処に居るわけにもいかない……そもそも……ここは何処なんだ?」



 僕はテカロンとガルム、そしてペムへ返事をする代わりに、そそくさと箱の内部に入り態度で示す……



 テカロンの言う通り、いつまでもこの玄室にいるわけにはいかない。



 僕は恐る恐る、墳墓王の両腕を呪怨のスクロールに包んで、二重底から取り出す。


 すると突然頭に声が響くいた……周囲の様子を見る限り僕だけの様だ。



『玄室より両腕を持ち出す者よ……我は玄室を管理する守護者なり!不死を欲して、全ての部位を揃える事なかれ……。此れなる者、死を超越せし者なり。生命の秩序を乱し、やがて世界に破壊を齎すであろう……』



 置かれた両腕の周囲を見ると、魔法文字がびっしり書かれている。


 僕の脳内へ念話を語りかけているのは、どうやらこの文字が原因の様だ。


 しかし危険なこの両腕を、このまま此処へ放置すれば、此処を発見した誰かがいずれ持ち出してしまうだろう。



 だが僕であれば、貸出中のマジックグローブさえ有れば、危険な呪物を永久封印できる。



 しかし、それを話したくても文字を書いた当事者が居ない……


 仕方ないので、僕は黙って腕を回収する。



『キーーーーーーーーン』



「な!?………何だこの耳鳴りは?ペム……もう平気なんじゃないのか?」



「頭が!!………く………。腕はもう平気じゃが、安置してあった周りに、何か罠があったのかもしれん!」



「くそ!……罠か?……ガルムにペム……すまねぇ!!俺が先に見るべきだった…………」



 レックが二人に謝罪するが、耳鳴りが罠では無い事がすぐに判明する……直接念話が頭へ届いたからだ……



『遺物への接触を確認…………。我らが主人、冥府の主への誘いを発動する……対象者にペルペテュエル・カタコンベ<不滅の地下墓所>内部、玄室転移の魔法刻印を付与する………我等は世界を死に包む者なり!共に歩みし其方に……死の眷属の幸があらん事を!!………』



 僕の両腕にはびっしりとミミズ腫れが浮かぶ………



「うぉぉぉ!?@¥#%€$#¥%!っっ!?」



 僕は言葉にならない絶叫を起こすが、何とか手に持った呪物だけは落とさない様にする……しかしすぐに腕に激痛が走る。



「いてぇ……腕に!?……ああ!!いてぇぇぇ!!……」



「な!何が起きたんじゃ?ヒロ……大丈夫か?」



「腕に……ミミズ腫れがびっしり………あ……あれ?」



「腕にミミズ腫れ?……何処にだ?って言うか……そのミミズ腫れの傷……即座に再生してないか?お前の腕………マジでキショいぞ?」



「「「「「「再生!?」」」」」」」



「再生持ちだったのですか?もはや……人間じゃないですね!流石ワテシの師匠!!」



「ア……アユニ?それ自慢できないわよ?再生持ちよ?魔物のトロルとかプリン族と同じよ?」



「マナカ……そうとも言い切れんぞ?王国に居る『不落の城壁・ロズ』……確か奴はヒロと同じ様に『再生持ち』だった筈じゃ!」



「それならアタシも聞いた事あるよ!『黒狼のベン』彼も再生持ちよ?……確かモルダーの憧れよね?」



「そうっすね!ベンさんもロズさんもハリスコの親父の知り合いなんですよ!国境封鎖のせいで、未だに黒狼のベンさんには会えた事はないんですが……」



 それを聞いた途端僕はモルダーに視線を送る……『絶対の話すな』と前に行っているので大丈夫だろうが、正直怖くて堪らない。



 しかし、アユニは再生話で僕の方へ話を切り替えた……非常に出来る子だ!



「じゃあ……お師匠は……『切っても死なない蜥蜴』ですね?尻尾切っても生えてきますし!蜥蜴って……」



「いや……アユニ……尻尾だけでしょそれ……」



「アサヒの言う通りだし、普通に斬られれば痛いし、刺されれば普通に死ぬから!」



「確かにヒロの言う通りじゃな……今受けたミミズ腫れのダメージは、再生できる量を上回ってダメージ受けてないってだけじゃしな……それにしても……トカゲか……スライムの方が合ってる気がするがのぉ……」



 僕がそう言うと、皆がマジマジと腕を見て……『あ!そう言えば念話!』と口々にいう。



「そう言えば……何か怪しい力を手に入れたのか?」



 ギルマスのテカロンが冷静になって僕へ話を振る……



「さっきの念話の内容だと、ペルペテュエル・カタコンベ<不滅の地下墓所>の玄室への転移能力の様です……」



 僕はそう言いつつも、自分を鑑定して得た物を調べて話した……



「この部屋は、そもそも此処のダンジョン……ペルペテュエル・カタコンベ<不滅の地下墓所>にある『玄室』扱いの様です」



 僕は『ダンジョンの由来は知りませんし、地下墓所に古墳にある玄室がある説明はできない』と言うと、全員が首を傾げる……



「何を言ってるんだ?『古墳』が何を指すのか儂は知らんが……『玄室』があるのは、墓地系ダンジョンには当たり前じゃろう?」



 ガルムがそう言うと、横に居たクレムとアンガも同調を示す……



「そうだぜ?ヒロ……」



「ヒロってさ……たまにおかしい事言うよな?」



 二人がそう言うと、ペムがフォローを入れてくれた。



「まぁ魔術を極めた者は知識が偏りやすいからな……儂は魔術知識こそ多いが、ダンジョン知識はアンガ達には遠く及ばん!」



「そんなもんか?ペム?」



「ああそうだぞ?アンガ……ヒロが知らんのは仕方がない。『古墳』と言うのはお主達には縁がない場所じゃ。何故ならダンジョン化する前の場所じゃからな!あそこはトレジャーハンターしか用がない場所じゃ!」



 そう言ったペムは、僕に分かりやすく説明をしてくれた……

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