第872話「少ない報酬とちょっとしたズル」


 僕は宝箱の数と倒した魔物の数を見比べる……


 倒した魔物はハイドホラー6匹にデスカルゴ2匹、そしてノールが12匹の2グループだ。


 階層主は倒したと言うか勝手に死んだ感じなので、カウントされているのか非常に微妙だが……参加パーティー数は3もしくは僕が単独扱いだとすれば4つになる。


 しかし皆が喜んでいる以上、水を差すのは良く無い……そう思っているとガルムがレックに解錠を指示する。



「レック!ようやっとお前の出番じゃぞ……」



「ガルム……残念だけど無理だ………あの6箱は全部『石化罠』だぜ……それも『ガス系』だ……」



 ガルムとレックのやりとりを聞いていた騎士団は、その言葉に青ざめるも『持ち帰らない』と言う選択肢は持ち得ないのだろう……



 すぐに『それは困る!我々は伯爵様から死んでも持ち帰れと言われておるのだぞ!!』と、文句を言って来た……



「騎士団には悪いが、俺達は『石化』はゴメンだ。素人にはわからないだろうけどな!ガス系は広がるのが早い上に、効果が消えるのが遅いんだよ!………ってオイ……ヒロ何してんだ!?馬鹿野郎!!迂闊に近づくな………」



 僕は近寄ってモノクルで箱を見ながら、レックに質問をする……



「レックさん……何故全部が『石化ガス』の罠だって気がついたんですか?」



「そんなのは簡単だ。俺は『罠看破』のスキルを持ってるんだよ……嘘じゃねぇ!!だから触る……おい!!」




『ガチャン………ギギギギギィィィィ』



「は!?…………はぁぁぁぁぁ!?……何したんだよお前!何したら……ええええええ!?………罠はどうした?え?ガス系だぞ?最難関の罠だって!!……はぁぁぁ?」



 僕はルモーラの魔法の鍵で、箱を開けてはモノクルを使い中を覗き込む。


 理由は、ウッカリ呪われたアイテムを触らない為だ。



 しかし問題が起きた……騎士団が誰よりも早く宝箱へ近寄って来たのだ。


 彼等も石化ガスが脅威なのは十分理解はしている。


 だが『開けてある箱なら安全では?それなら確実に伯爵へ届けられる』と、そう思った……そして中身を一目見るために近寄ろうと試みたのだ。


 どうやら恐怖心より忠誠心が優ってしまったらしい。



 しかし僕は、彼等に魔法の鍵を見られるわけにはいかない……。


 鍵の存在がマガワーマに知れれば、絶対に欲しがる筈だ。



 伯爵は宝箱の鍵を開ける為ではなく、別の事に使うのは目に見えている。



 なので、すぐに静止させるための言葉を使う……その言葉は『生死に関わる問題』だ。



「皆さんはそこで待機で!!かなり危険なのはレックさんの言う通りです。全部『石化ガス』なのは『僕も分かります』ので!開封には時間がかかります。中身は必ず見せますから、全部開け切るまでは絶対に動かずにその場でお待ちを!!」



 僕がそう言うと、テカロンはその言葉に合わせる様に『当たり前だ!!手元が狂って発動したらどうするんだ……馬鹿者ども全員その場を動くな!!』と怒号を発した。



 テカロンのオデコには青筋が立っているので、よほど怒っているのだろう……しかし、冒険者を束ねるギルドマスターなら確かに当然だとも思える言葉だ。



 レイラは『やれやれ』という感じで、仕方無くテカロンと騎士団の間に入る……



 何故なら彼等は今『貴族に仕える騎士団というプライド』が邪魔をして、正しい事でも聞き入れられ無い様だからだ。



 本来、貴族に仕える騎士団を頭ごなしに叱りつける輩はそうは居ない……力関係が上の者が出来る位だろう。



 しかしダンジョンではそれが覆る……例えそれが貴族であってもだ。


 何故なら探索には、特別な条件を伴うからだ。



 彼等騎士団はそれを知っていて尚、プライドと忠誠心が邪魔をしているのだ……



「アンタ達の気持ちも分からなくはないけど、『罠系は解除されるまで、絶対近寄ら無い』それが冒険者の鉄則だよ?それに『アンタ達が死んだら誰が箱を持って帰る』のか……本気で考えたのかい?」



 その言葉を聞いて騎士団は歩みを止めて、任務に囚われた状態の頭を冷やす……



「レイラ殿の言う通りだ。我々が間抜けなせいで申し訳ない……テカロンギルドマスター。『何としても宝箱を持ち帰らねばならない』と……そればかり考えていたのだ……」



 その言葉を聞いたガルムも『やれやれ……馬鹿ばかりだ』とボソッと言うと、話を無理矢理切り替える……


 何故なら今現状においても、安全などどこにもないのだ。



「……ヒロお前!!魔法剣士じゃ無かったのか!?何個スキル持ってるんじゃ?それに……お前……絶対安全なんて言えんじゃろう!」



「……ってガルム!!……それ所じゃねぇよ!!悪ぃが今すぐ俺はこの部屋から出るぞ!ヒロがミスったら石像に変身でまるっと全滅だ!!巻き添いはゴメンだぜ!……おい騎士団……何反省してるかしらねぇが、呑気に箱間近で立ち止まってる場合じゃねぇんだよ!!」



 レックの大慌てに逃げる様子が拍車をかけたのか、全員慌てて入って来た隠し部屋にダッシュをする……


 万が一にも失敗などするつもりはないのだが……


 何故ならば、魔力容器で三重に宝箱と僕を別々に囲っているのだ……外に漏れる事などあり得ない。



 なので僕は……『皆さん!開け終わったら呼ぶので荷物整理と、ドロップアイテムの仕分けをお願いします!』と言っておいた……



 ◆◇



『ふぅ……秘薬は無し……そして御主人の遺品も無しか……。遺品が無いのは良い事だけど、万能薬くらいは欲しかったな。まぁ収穫もあった……<錬金の書(中級・第3巻) >は僕的には外せない逸品だ……』


 僕はそうボソッと独り言を言う。


 そのあとコッソリ錬金の書を抜いて、代わりに『激しく燃える・ショートソード+1』をコッソリ入れる……


 この武器は前に手に入れてからクロークにしまってあった物だ。



 ズルではあるが、読めない本より使える武器の方が彼等は嬉しいはずだ。



「皆さん!平気ですよ!開封完了です……」



 僕がそう言うと、騎士団員は血相を変えて走って来た。



「ヒロ殿!!先程は申し訳ありませんでした!!……約束通り宝箱の一箱は頂けるのでしょうか?」



「オヌシ等安心しろ!そもそも儂等はここの箱が目当てで来たんじゃ無いんだ。ディーナの旦那のドドムの足取りを探しに来たんじゃ。まぁ喧嘩になる前にお前ら騎士団に選ばせてやるから好きなのを一箱持っていけ!」



 ガルムは騎士団にそう言うと、テカロンと話し出す……



「テカロン、箱の中身は小分けに分配すると面倒じゃ。6箱あるから単純に2箱ずつで良いじゃろう。そもそも大半を倒したのは、ヒロとその弟子のアユニじゃ。あの馬鹿みたいな魔法でな!見てただろうが、ほぼ儂等は何もしておらん」



「ダイバーズがそれで良いなら、文句などあるはずもない……。俺はこの場所の確認の為に、お前達に立ち合わせて貰っただけだからな!」



「おい!ガルムにテカロン……騎士団は付き添いって話なんだ。だから約束通り1箱でいいよな?ならさ……ヒロ達のグループが3箱で良いんじゃねぇか?そもそもスカリーの件で、あと一箱必要だったよな?」



 僕はレックが言った言葉に、騎士団が文句を言うと思った。


 だが、騎士団は文句など言っている場合では無い様だ。



 そもそも選んだ箱が大きすぎて、持ってきたマジックバッグの口から入らず6人がかりで悪戦苦闘をしていた。



「うむ……それどころでは無いようだな……まぁ好きにさせておいて、我々も分配を始めよう……」



 ガルムは、冷ややかな口調でそう言った……

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