第871話「水のバリスタ」
アユニが作り出した水のバリスタは、名前からは全く想定できない動きをした……
渦の真ん中に巨大な水の槍が装填されると、勢い良く飛んでいきノールを貫き粉砕する。
それも巨大な水槍は自動装填らしく、どんどん装填されては射出する。
初めこそ打ち出し速度は遅かったが、10本目を超える頃にはその初速はもはや人間の肉眼では追い切れない。
それも自動補正付きで、勝手に索敵して敵を粉砕している……
「ヒロ!!オヌシ……駆け出しになんて危険なモノを教えておるんじゃ!!1つの群れがぐちゃぐちゃじゃ……アレはやりすぎじゃぞ!!うぉ?危ねぇ……くそ……デスカルゴめ……この儂に触覚で攻撃してきおった……」
「ちょ!?……ガルムさん!僕はこんな魔法教えてませんよ?普通の水矢を教えたんです!!」
僕はガルムにそう言った後に『ちょっとアユニさん……アレンジ加えてやり過ぎですよ……水槍は貫通して後ろまで粉砕してますから!もう完全に肉片じゃ無いですか……アレは完全にオーバーキルですって!!』と言った……
デスカルゴと戦闘中ではあったが、流石に危険を感じてアユニへそろそろ魔法をやめる様に促した……
しかし彼女は『わはははははーーー!一番弟子、水のアユニの力!!しかと知れーい!!』と笑い続けている。
それを見たレックは囃し立てる様に、適当なことを言ってしまう……
「スゲェ威力だ!コレは楽だな……このままデスカルゴも倒しちまえよ!駆け出しなのにコイツを倒せたらすげぇぞ!!……なんてな〜……」
「レックさん!デスカルゴなんて、私にかかればチョチョイのチョイと粉砕です!この水の大魔道師アユニちゃんにお任せあれですわー!!わはは……ははは……ぁ……ぁぁぁぁぁ?…………あーーーー!!」
「は……ははは………はは………って笑えねぇよ!!ってか……バリスタがマジでデスカルゴに向き始めたぞ?………オイ!!アユニ?待て待て!!ガルムとアンガ達がまだ戦ってるんだって……おい!?アユニ?」
レックはアユニの魔法を見て、最初は凄いと誉めていた。
しかし水のバリスタが敵を粉砕する度に、彼女の表情が曇っていくのを感じた様だ。
そしてノール全てを粉砕し終えると、水のバリスタは自動的に敵を探す様に『ぐるん』とデスカルゴをロックオンした。
そしてレックは不安を覚えて、最終的に質問をした……
そのレックの不安は的中する……
巨大な水槍を撃ち出す度に、アユニの笑い声は渇いたものになる……
そしてデスカルゴにバリスタが向いた時には、その笑顔はなくなり半ベソだった……
「師匠!!ししょぉぉぉ!!止め方が………止め方が分かりませぇん………バリスタ………止まりませぇん………ひぃぃぃぃぃぃぃ………止まらないですーー!!エム……エム…………えむぴーがぁぁ………枯渇するぅぅぅぅ……」
「な!?なんだって?制御はどうなってるんだ?おいヒロ!!アユニにちゃんと扱い方を教えたのか?」
「なんじゃと……馬鹿を言うな!MPが枯渇云々じゃねぇぞ?待て待て待て!!アユニ!?何で槍を装填………アンガ逃げろ!!今すぐじゃ!!ぜ……全員……全員退避じゃーーーー!!」
ガルムがそういった瞬間、全員が横っ飛びで回避行動に出る……
「き……緊急回避………は……物理攻撃のみだったぁぁぁぁ………!?……槍が……槍が………装填……うぎゃぁぁぁぁ…………し…し……瞬歩!!」
僕も絶叫しながら、瞬歩で回避行動を選択する。
『ズドン!ズドドン………』
巨大な水槍が三本デスカルゴに突き刺さる……
軟体部分に刺さった後に、水槍はそのまま突き抜けて殻の顔部分に突き刺さると『ギィィィィィ!?……ぐげぇ!……ぐひぃ!?』と絶叫を上げたが、続く水槍は撃ち出されない……
「は……ハヒィ……止まった!!……止まりました!!………水槍42本で………あ!……そう言えば私さっきシニサラセって……言いました……関係あるのかな?……はははは……」
僕はそう言ったアユニのステータス確認すると、MPが9しか残っていなかった……
◆◇
「いいか!アユニお前は………『ガミガミ』………そもそも練習もせんで本番で魔法なんぞ!!……『ピーチクパーチク』………」
ガルムさんは大激怒だった……
それを見た皆は敢えて何も言わなかった……流石に冒険者の先輩的指導が必要だと思ったのだろう。
「はぁ……アユニは……まぁ仕方ないねぇ……。お!ドロップ出たよ!『ハイドホラーの表皮』っぽいね……こんなモノ見た事ないから、ネーミング適当で悪いけど!」
そう言われて僕はかなり前に手に入れた手紙のことを思い出した……『パウロの目眩し引っ掛け鞄』に入っていた手紙の事だ……
「7つも出てるねぇ……まぁ倒したのはヒロだから所有権はアンタだけだ!」
そう言われて『ハイドホラーの表皮』を見ると、かなりの大きさがある。
大きさにして畳半畳分くらいの大きさはあるだろう。
「流石にこんな大きい物を独り占めはしませんよ……もしかしたら『何かの素材』になるかも知れないでしょう?」
僕は含みのある言葉を使う……
何が作れるかを言えば、パウロの怨みを抱く相手に誤って伝わる恐れがある。
それを踏まえて言わずにおいたのだ。
「お!ガルム……そろそろ辞めてやれ!ノールのドロップアイテムが出たぜ!」
「ああ、十分反省してるだろう……その面は。それに折角の報酬だ。お叱り受けてて消えちまったら、流石に可哀想だ!」
「ふえぇぇぇん……アンガさんにクレムさん!!感謝です!!」
アユニはそういうと、ガルムの脇をすり抜ける様にドロップアイテムに猛進する……
「ふおぉぉぉぉぉぉ!アサヒちゃんにマナカちゃん!沢山の銀貨が落ちてます。消えちゃう前に一緒に集めて下さい!!それにスタテッドレザーの装備も沢山です!あとはあとは……爪?に皮?……」
「おい……アユニ……『ふおぉぉぉぉぉぉ』じゃねぇぞ……マッタク……」
「まぁまぁ……ガルム良いじゃねぇか。初めての階層主戦闘だぜ?興奮しない方がおかしいだろう?なぁ?クレム」
「そうだな!俺達だってぶっちゃけ宝箱に期待してんだからな?」
ガルムは元よりアンガとクレムは周囲を探索する。
ボス部屋にはドロップアイテム以外にも隠しアイテムがある様だ。
ガルムと一緒にお叱りをしていたギルマスのテカロンは、手持ち無沙汰になった様で今度はギルドの仕事を始めた……
ご丁寧にアユニ達の方まで行くと、爪とノールの表皮を手に取ってそれの用途を説明し始めた……
「因みにアユニ!その爪と表皮はギルドに持っていけば買い取ってくれるし、期間任務の判定材料になるぞ!ちゃんとギルドに納品しろよ?納品してポイント稼がなければ何時迄経っても銅級資格のままだからな?」
「ほぉぉぉ!じゃあコレをこのままギルマスに……」
「お前なぁ……まだ怒られ足らないのか?……そもそも……分配前だろうが!!ヒロの言葉聞いてたか?『独り占めは』って言ってたよな?」
「はうわぁ!そうでしたぁ!!」
騎士団員までもアユニの天然さに大爆笑すると、その笑いを消し去る様な音が部屋の中央から響き渡る……
『ガゴン……ガラン……ゴロン……ガシャン……ドシャ……ゴロゴロ……ガシャン………』
「た……宝だ…………伯爵様が言っておられた宝だ!……こ……この数は!?……な……なんて数だ!!」
「す!凄い!!今まで見た箱よりかなり大きい……コレが……階層主の宝箱!?」
「アサヒちゃん!マナカちゃん!……箱……凄い大きいね!!それもいっぱいだよ!!」
「アユニ……ちょっと!!ストップ!ハウス!!……アンタ……ガルムにまた怒られるよ!!」
騎士団や参加者一行は非常に驚くが、出現数は6箱だ。
宝箱の数は、僕が予想したより少なかった……
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