第819話「間一髪!命を拾った冒険者達」
僕は3人がまだ無事でいた事につい嬉しくなった。
マナカの怪我は酷いが死んではいない……ポーションで治せる範疇だ。
「無事ですか?よく頑張りました……3人とも!!」
そう言った後、初級ポーションの蓋を開けてマナカの口に突っ込んで飲ませる。
急いでそうしたのは、簡易ステータス表示ではHPが4しかなく、その上『出血HP-2』が付いていたからだ。
「「ヒロさん!?」」
「ゲホゲホ……な!?ヒロさん!?……どうやって此処に!?」
「アユニ……それどころじゃ無いわ!ヒロさん、今すぐ傷薬をマナカに!!マナカが……マナカが死んでしまう!!」
ビックリするアユニと、慌てて僕に駆け寄ろうとするアサヒを手で制する。
そしてマナカを指差して、既に回復済みだと知らせる。
「二人はこの魔力回復薬で回復を!そして回復魔法を全員かけて下さい。あと死んでいると思われる人にもかけて下さい。万が一にも失血で気絶している場合はそれで助かりますから!魔力回復薬は他の回復師が居たら分けてあげて下さい。そして今言った同じ指示を頼みます」
僕はそう言ったあと、魔力回復薬が入った麻袋を渡す。
しかしアユニの表情は半ば諦め状態だ……
「でも!ヒロさん……そんな事をしても……。言い難いのですが……あの後ろに絶望的な程巨大な化け物が………」
僕はそう言うアユニに、タリスマンを渡す。
「これの使い方と効果は『アユニさんしか』知りません。効果は誰にも言わないで下さいね?今すぐ全員を引き連れて向こう側へ行ってください。向こうの敵は全滅してますので。……あと……先には女性冒険者の遺体があります。それを回収して待っていて下さい」
「その女性冒険者は知っています。私達を逃す為に囮になるって……私達全員を逃がしてくれました……」
「そうでしたか……では、此処の遺体と一緒に確実に回収して下さい。街まで帰らせてあげましょう……此処には置いてはいけませんからね。既に承知の通り、タリスマンの結界範囲には、中級以下の如何なる魔物も中には入れません。だから暫くは安全でしょう。あとあそこの魔物は僕が何とかします」
「そ……そんな事ヒロさんでも無理です!!この魔物の群れを見てくださ………『ウォーターバレット!』………………」
『ズドドドドドド………バン……ババン……』
僕がそう言うと、アユニは猛反対する。
だが僕は有無を言わせない為に、目の前にいた十匹の魔物を瞬殺する。
「平気です!この魔物位なら物の数のは入りません。幾らでも倒せますから……寧ろ此処にいる全員が足手纏いで、僕の攻撃の邪魔になります。だから速やかに移動して下さい。今からは本気で戦うんで!」
そう言ってからマナカを先頭に移動を促す。
「全員、アユニとマナカに従って移動して下さい。指揮役をしていたマナカさんは、このまま引き続き指示をお願いします。その方が命令系統が分裂しないで済みますから。では戦闘の邪魔になるので速やかに移動して下さい!」
そう説明している最中にも、タリスマンの効果で魔物が逃げる様に後ずさって行く。
どうやら魔物が苦手なものが、既にこの一帯に展開されている様だ。
「ヒロさん!!流石に無謀です!!無謀過ぎます……一人で戦うなんて………せめて私達戦士やタンクだけでも……」
僕はマナカの言葉を無視して、武器を片手に敵に群れに飛び込む。
『瞬歩』
「ぎひゃぁぁぁ!?」
「ぐえぇぇぇ!?」
「ヒィィィ!!バケモンだ………………グゲェ………」
僕は魔物に接敵すると、回転する様に二匹の首を切り裂く。
そして体勢を整えてから、目の前の魔物を袈裟斬りにする。
『ウォーターバレット!』
『ウォーターバレット!!』
『ウォータージャベリン!!』
目に前の敵があっという間に斬り殺され、戸惑うイーブルブラウニーの群れはその足を止めた。
僕は動かなくなった左右の的に向けて、次々に水魔法を撃ち込みその数を更に減らす。
チラリと後ろを見ると、僕の戦い方に興味があるのか全員が武器を下げて凝視していた。
僕は早くこの場から引いて欲しいと思い、強めに言葉を発する。
「全員惚けてないで、すぐに移動して!!邪魔です。僕は冒険者ですから。パーティーメンバーでも無い貴方達に自分の手の内を見せたく無いんですよ!!さっさと行って!!」
その僕の台詞に全員が『ハッ!!』とする。
冒険者が戦闘方法を覗き見する場合は多々あるが、戦場で邪魔になる行為は間違いなく対象者には嫌われる。
更に今の様な現状では、相手によっては助かる可能性が皆無になる場合もあるのだ。
「い……行こう!!今すぐ移動しよう!!マナカとアユニは先導を頼む!!」
「ああ!此処はあの人に任せて行こう!俺達は絶対に邪魔になる……って言うか、絶対に俺は邪魔にしかならない自信さえある!」
一斉に口々に言葉を発した冒険者は、マナカを先頭にしてその場を後にする。
ようやく僕は『精霊達』にお願いできそうだ………
遠慮なく魔法も武器も、そしてマジッククロークも使えそうだ。
◆◇
特殊空間の部屋に、魔物達の断末魔が絶え間無く響き渡る……
『風っ子!あのデカブツを風魔法で部屋の奥へ吹っ飛ばして!万が一にも中級以上だと、結界に入られて皆を人質に取られるかもしれないから!此処だと皆に近すぎる!』
『漸く貴方らしくなったわね?ちょっと心配しちゃったじゃない!!良いわやってあげるけど貸しよ?貸しばっかり作ってないで、たまには返してよね!!』
風っ子は憎まれ口を叩くが、何処か嬉しそうだ。
『マカニマルテッロ!!』
『ゴォォォォォォォォ!!ズドドドドド……ズドン!!……………』
巨躯を持つ魔物は、風っ子の風精霊魔法を受けて一瞬怯んだ……
だが魔物は低く腰を落とし、その突風を防ごうとしたがそれは完全に悪手だった。
風魔法では無く『風の精霊魔法』だった為、来るのは風だけでは無いからだ。
その後に続くのは、連続する協力無比な衝撃波だった。
魔物は風を防ごうと腕をクロスさせていたので、その腕は強力な衝撃波を受けて『ベキョ……メキメキ……ゴギィ』と音を立てて骨が砕ける。
そして痛みで怯んだ魔物は、風に負けて背後に転びそのまま吹き飛ばされた。
脅威が一時的に居なくなったので、僕は周囲の魔物を駆逐する。
『ウォーターバレット』
『瞬歩』
『ウォータージャベリン!!』
近くにいた魔物を水の弾丸で撃ち抜いた後に、一気に距離を縮めて破裂する水槍を群れに向けて放り込む。
暫く敵を掻き回しつつ、敵を纏めるように瞬歩で動く。
恐怖の異常状態で逃げ回るイーブルブラウニーを見ると、僕は一方的に悪いことをしている気分になる。
だが、この魔物は既に人間に殺意を持ち、人という種族を殺すことに躊躇いはないのだ。
死んだ女性冒険者もそうだが、マナカ達がいた場所も相当酷い状況だった。
言葉にこそ出さなかったが、簡易ステータスには既に『死亡』の文字が出ていた冒険者が3名も居た。
彼等はこの戦闘で、仲間を守る為にこのエリアで散った冒険者達だ。
その死を僕達は、決して無駄にしてはならない。
◆◇
僕は特殊空間の主の方へ歩みを進める。
感知に表示される魔物はまだまだ多いが、階層主の様な存在を倒さない事にはこの空間は無くならない。
彼等がこの魔物を倒せる可能性が少ない以上、優先すべき魔物から先に倒すのが僕の役目だ。
この空間のヌシは、イーブルブラウニーを巨大化させた様な体躯を持っている。
しかし何か違和感がある……
頭がイーブルブラウニーに比べて非常に大きく、両腕も凄く太い。
イーブルブラウニーは全般的に細身で、ゴブリンを毛むくじゃらにしたイメージだ。
あからさまに違いがある……此処のヌシだからと言われれば『そうか……』としか言えないが……
様子を伺っていると、ヌシが突然言葉を発する……
「グルルル……人間風情が……我が飯共をことごとく殺しやがって……その上久々に来た肉共まで持ち去りやがって……」
その言葉を聞いて僕は『………此処の魔物は雑魚でさえ、なかなか知識レベルが高い……ボスは今までとは桁が違うはずだ!』そう思い、何時でも攻撃を避けられる様に油断なく武器を構え鑑定した……
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