第816話「三階層で起きた異変……消えた仲間」


 僕達のいる3階層の大部屋には冒険者達の悲痛な叫び声と、パニックになってしまった冒険者の声が響き渡る……



「こ……コイツ……ヤバイぞ!!……ゴブリンとはパワーが桁違いだ!!……タンクを壁に引く………ぐわぁ!」



「なんだコイツは?今まで此処で湧いた事などない魔物だぞ!!全員下がれ……今すぐだ」



 ガルムもアンガも武器を取り、立ち上がる。



「レイラ……あそこに何がいるかわかるか?」



「アンガ……ありゃなんだい?アタシ今までこの場所どころか、ダンジョンの中で見た事ないぜ?あんな毛むくじゃらの化け物は……」



 アンガの言葉で、レイラはすぐにその姿を確認しに向かった。


 だが、その魔物の名前さえわからないと言う。



「お前ら戦闘準備だ!!……ヒロ!3人を上の階層に引き上げさせろ!もしかしたら此処にも湧く…………」



 アンガのセリフは、僕達への説明の途中で止まる。



 それも当然だろう……アユニとアサヒそしてマナカの真下に、突然魔法陣が浮き出ていたのだから……



「ヤベェ……此処もか!?……ヒロは3人を避難させろ。俺たちはお前達が逃げる時間を稼ぐ!!上の階に急げ!!」



 アンガの言葉も虚しく、状況は最悪な展開を迎える……



 魔法陣の上にいた筈の3人の姿は既にそこになく、魔物と入れ替わる様にその姿を消していたのだ……



「!?………ど……何処へ行った?……3人は何処じゃ!?……まさか何処かへ消えたじゃと?」



「アンタ達、アタシがあの化け物を確認しに行ってる間、あの3人を見てたんだろ?……レック。アンタには逐一あのヒヨッコの確認しとけって言ったよね?……アユニとアサヒそれにマナカはどうして居なくなったんだい!?何があった?」



「し……しらねぇよ!向こうで声が上がって、一瞬気を取られたのは確かだが、あの娘達に何があったかまでは、詳しくはわからねぇ!!魔法陣が光って魔物が出たと思ったら、その中に吸い込まれちまった様に見えたけどよぉ……。今までそんな事は見た事も聞いた事もねぇだろう?……」



「レックにレイラ気持ちはわかるが、今はそれより武器を構えるんじゃ!来るぞ!!………」



 ガラムが発した言葉に反応して、僕はすぐにその魔物をよく見る。


 そして手に持つ武器が何かを確認する。



 レイラが大きな声を発したせいで、注意はそっちに引かれた。


 そのお陰で、僕には『観察と鑑定』の余裕が出来た。



 魔物はゴブリンに比べると非常に毛深く、そして髪や髭が長い。


 その手には人が使うナイフや木槌、そして中には小さいノコギリなどを持っていた。



 容姿と武器を確認してから僕は、すぐに魔法陣の上にいる魔物を鑑定する。



『《試練の魔物》イーブル・ブラウニー(邪悪なブラウニー) 3階層限定特殊個体 LV7 ・HP89・MP120……ブラウニーは人族の家に纏わる妖精だが、イーブルブラウニーは人間の悪意に強く影響された個体。悪意の影響により、人に対して酷く恨みを抱いている。人を見かけると必ず襲いかかってくる。強さはゴブリンと殆ど変わらない。(ゴブリンとの相違点)人族限定だが、影響力の強い呪いをかける事ができる』



 僕は鑑定結果を見て、身震いがした……


 理由は、トレンチのダンジョン以来見かける事がなかった、階層別の特殊表記があったからだ。



『3階層限定特殊個体!?………どう言う事だ?……トレンチに居たあの特殊ガーディアン以外にも、危険な階層があるダンジョンや魔物が存在する?』



 僕は、これ以上ここの状況が悪化する前に、大至急3人を助けなければならないと焦りを覚えた。


 しかし残念な事に、3人が何処に行ったかも分からず、この魔物が現れた理由もわからない。



 僕は特殊個体の部分のみピックアップして、その詳細を調べようとした……


 だが周囲の状況が、それを許してくれなかった。



 ゴブリンと大差変わらないが、彼らが持つ『呪い』効果は、人族には効果的面だったのだ。



「くそ……何がどうなってるんじゃ!?魔物が現れた後、今度は冒険者の同士討ちじゃと!?……くそ………何なんじゃ!!幻覚作用がある特殊能力か?それとも幻覚系魔法を使う個体なのか?……くそ!何も分からん………」



「ガルムさん、コイツらはイーブル・ブラウニーです!同士討ちは『呪い効果』によるモノですが、ガルムさんは呪いを打ち消す方法は知りませんか?」



 僕がそのことを伝えると、ウィザードのペムがすぐに対処法を教えてくれた。



「簡単な呪いや即時効果の異常であれば『祝福』で打ち消せるが、時間をかけてゆっくり異常が進むモノは祈祷しか効果がない。だが悩んでる場合ではないぞ?……」



「なら祝福スキルを持っている冒険者に対処をさせてみて下さい。何もしないよりはマシです。それ以外の冒険者はガルムさんが率いて下さい。相手は見た事がない魔物でも『此処は3階層』です。多少強くなっても魔物の基本レベルは階層に比例します」



 ペムの言葉に僕はそう答えると、ガルムは顎髭をさすり……



「そうか……そうじゃったな……此処は三階じゃ!魔物のレベルは所詮階層の倍程度か、そこから上下に2レベル範疇じゃろう!!見た事もない状況と敵を前に、雰囲気に飲まれて冷静さを欠いておったわ!」



 ガルムは豪快に笑うと、周囲の冒険者に向かって大きな声で叫んだ。



「冒険者共聞け!良いか……これはこの魔物による呪いの効果じゃ。祝福持ちは直ちに回復措置を実行!それ以外の者は儂に続け!!魔物共を駆逐する!所詮ゴブリンの居るフロアじゃ!ゴブリンの亜種とでも思えば敵では無いぞ!!」



 僕は祝福のスキルを持つ冒険者に、呪いの影響下にある者達の救済を任せる……


 そして僕は、アユニ達3人が居た場所に現れた敵に向かって走ると、奴等はガルム達から僕にターゲットに切り替えた。



 僕は1対3の不利な状況だが、構わず剣を構える。



「グエェェェ!人間だ……殺せぇ!!」



「同族を平気で裏切る、卑しき者どもめ!死ねぇ!!」



「穢れを吐き出し、我らに闇を植え付けた種族め……許すまじ!」



 イーブル・ブラウニーは口々に恨みの言葉を吐き出すと、武器を振り上げて襲い掛かってきた。



 以前ベンに教えて貰った通り、僕はその動きをよく見る。



 一匹目は右肩口から袈裟斬りに切り裂き、返す刀でもう二匹目の首を跳ね飛ばす。


 そして三匹目は前蹴りで蹴り飛ばし転がしてから、上から足で踏み付けにして押さえてつけて、すぐに特殊項目を再鑑定をする。



『《試練の魔物》……階層別の限定特殊個体。これらの魔物のダンジョン内における棲息範囲は、魔法陣内部の特殊空間に限られる。移送魔法陣はダンジョン侵入者の足元に展開され、特殊空間内の魔物と魔法陣上の侵入者が入れ替わる。特殊空間に移動した侵入者が元の場所へ帰る場合は、入れ替わった魔物を倒しゲートとなる魔法陣を奪う必要がある。特殊空間には空間ごとに主が存在する。主が討伐された場合、その空間は6H後に自然消滅する』



 鑑定の結果は想像していた事より、かなり面倒な事だった。



 移送系魔法陣は別空間と接続されていて、その部屋にはイーブル・ブラウニーの巣がある。


 そしてこの魔物達の親玉もその部屋に居るのだ。



 更に特殊空間から出るには、飛ぶ前の部屋で入れ替わった魔物を駆除しなければ、引き摺り込まれた冒険者は出られない鬼畜仕様だ。


 魔法陣の大きさから言うと、3名もしくは4名は引き込まれる大きさだなのだ。


 入れ替わった仲間を助ける為には、6人パーティーだった場合、残された2名で敵に応戦して勝たなければゲートを奪えない事になる。



 そして階層別と言うことは、他にも似たような階層があると言うことだろう。



 しかしガルムの様子を見る限り、この魔法陣は周知されていない。


 ギルドさえ知らない可能性の方が大きいのだ……

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