第814話「策士クィース・その2」


 クィースは意味深な言葉を言った……


 彼女は事務職であるが故に色々な冒険者を見てきたのだ。


 だから、こうなる事を予想していた可能性さえある。



 そして知らぬフリをして、僕を泳がせていたのかも知れない。



 何故なら僕がアユニの付き添いで早急にレベルを上げを終わらせれば、ギルド側とすればレベル10冒険者を1人得られるのだ。



 そして前から頼まれていたであろう、ディーナの夫を探すことも出来るのだ。


 それも費用は発生せず、僕の独断で行った救済行為となればギルドは報奨金を払う必要は無い。


 更にディーナも依頼料を払わずに済む。



 昨日ギルドで、僕とメルルそしてディーナの接点ができた時から黙って様子を見ていたのだとすれば、クィースはとんでも無い策士だ。



 しかし今は、クィースの言葉に乗るしか無い。



 無事に身分証を手に入れ、帝国エンブレム入りの冒険者証まで手に入れたのに冒険者になれなかった場合、両方が身分証として利用できなくなる。


 僕は帝国に所在地を持たない。


 そもそもこの世界の産まれではない僕は、街や村の名称を知らず両親も居ない。


 出身地も書けないのだから、今利用出来るものを最大限利用するほかはない。



 なので僕はギルドへ意趣返しを含めて、3人で行動できる様に言うしか無いのだ。



「そうですね!今現状問題なのは僕では無く、アサヒさんです。僕は一応アユニさんとペアを組んだんですから!だから特例措置では無いですけど、ここは3人で組める様に………」



 そう言いかけると、事務員だと思った女の子がぴょっこり顔を出す……



「あ……あの………私も実はマッチングした相手に置き去りに……。クィースさんに宛があるからついて来てと言われて………えっと……ヒロさんって方ですよね?お手数をおかけしますが、マナカ・グリーと言います。よろしくお願いします!」



 女の子がそう言った後に、クィースが……



「という訳です……ではヒロさんこれで問題なく4人になりましたね?えっと……それでは……マナカさんのランの横にヒロさんが名前を……あれ?ヒロさん?どうなされました?」



 僕はクィースという女狐にしてやられた……まさかの2マッチングで4人パーティになってしまった……


 しかしクィースは、クスリと笑うとサクサク事務処理を進めていく……



「ヒロさん、マナカさんは戦闘経験があり既に魔物との戦いは平気な様です。ちなみに今回のマッチング相手は、女性への悪戯目当てだった様です。マナカさんの方が腕が立ったので、犯行に失敗して逃げ出した様です。対象者は既に衛兵に引き渡してしまったので、マナカさんはフリーになってしまいました」



 僕はクィースの話を聞いて『置いて行かれたのと、ボコった末相手が逃げ出したのでは、大きく意味合いが異なる……』と思ったが、悪質冒険者の犯罪を庇い立てするわけでは無いので、その言葉は飲み込んだ。



 そして今のハーレム状態の僕は、昨日のメルル事件を引き摺っている感じさえする。


 メルルとディーナの事もあり、後々変な問題に発展しなければ良いな……と感じつつも仕方なく、マナカとのペアマッチングを承諾する。



「じゃあ、クィースさん。マナカさんは戦闘は既にある程度できると?装備は見た感じ初心者装備で使い込んだ感もありますから……。まぁ確かに戦闘は出来そうですけど……」



「そうですね!マナカさんが『初心者装備』を着込んでいるのを『ヒロさん自身が見分けが付く』のであれば、彼女をお任せできそうです!うん……良かった良かった……これで3人……レベル10冒険者を近日中に確保出来そうです。ヒロさん、助かりますよ!じゃぁ!要件は済んだので私はギルドに戻ります」



 そう言ってギルマスを放置してクィースは帰っていった。


 やはりクィースの目は鋭く、耳は言葉を色々と聞き分ける様だ。



 クィースは僕の何かを勘繰り、表には出さずに利用していく腹積りだろう……



 しかし僕の様に問題を抱えていないガルムは、呑気に別の事を言う。



「相変わらず凄いねぇちゃんじゃのう……事務職させておくには勿体無いぞ?テカロン……。帰り際にワームを蹴り飛ばして始末する事務員なんぞはなぁ!」



 ガルムの言う通りクィースは、進路方向に居たテンタクル・ワームを『気色悪い!邪魔よ!!』と言って、壁に蹴り飛ばして始末していた。


 相当な勢いで蹴り飛ばしてダメージを与えないと蹴り一撃では倒せないので、彼女はアスマの様な『体技』を持っていると思われる。


 しかし僕にとって今の問題は、クィースの力量の方では無い……



「まぁこうなったら致し方無いですね……。じゃあ……4人で組んで冒険者になりましょう。ですが残念な事にこの階層ではもう戦えません。僕達がギルド職員と話している間に、今までの絶好の狩場が他パーティに占拠されてますからね!」



 僕がそう言うと、全員が後ろを見る。


 既に多くの冒険者が部屋に入り、部屋は敵より冒険者の方が多く感じるくらいにまでなっていた。


 しかし部屋の冒険者より、更に深刻な問題が僕達にはある……



「……それに4人で組んで戦えば、今まで入手していた経験値が更に一人分減ります……此処も冒険者が多く手狭ですし……」



 すると自分が問題だと理解したマナカは、ペコペコとアユニとアサヒに頭を下げる。



 僕がそう言うと、ガルムは意味を察した様だ。



「って事は……お主……階層を降りるんじゃな?まぁお主が居れば安心じゃろうが……まったく……初日で階層降りなんぞ馬鹿がやる事って言われちょるんじゃぞ?……それで?何を狩るつもりだ?」



「ガルムさん、今いる大部屋みたいな場所でがいいのですが……2階層もしくは3階層で同じ環境部屋はありますか?あと、このダンジョンは2階と3階で、どの位魔物の脅威度が変わりますか?」



 僕がそう聞くと、ギルマスは……『あいつ馬鹿なのか?……あれを言っちまったら自分で冒険者と言った様なもんだ。……初心者の言葉じゃねぇよな?……まぁ……もういいけどよう……』といいながら頭をかく。


 僕はまだギルマスが居たんだった!とハッとするが、ガルムにはもう遅いぞお主……と言われてしまった。



 ◆◇



「スイッチが遅い!マナカさん……もっと早く!斜めに敵を落とす!」



「ぜぇぜぇ………は………はぁい!!………地獄だ………クィースさんの口車に乗った罰だわ………ぜぇぜぇ………」



「マナカさん、頑張って。私達よりレベルが高いんだから!!それに後で絶対に報われるから……。ぜぇぜぇ……アユニちゃん前方敵2!どっちかの脚を!!………ゼェゼェ……」



「了解!アサヒちゃん!ウォーターアロー!………あれっ?……ウォーター・アロー!!……く!?魔力切れ!?……グビグビ………ぷっはー!!……ウォーター……あれ!?敵は?」



 連携は形になったものの、今はそれぞれに課題が出てきたと感じる。


 現在は地下3階中央エリアという場所で僕達は乱獲をしている。


 駆除中の魔物は、緑色の小鬼『ゴブリン』だ。



「アサヒさん!ヒロさんが斬り伏せてくれました!!」


「ああ……またやっちゃった……数を数え間違えた………ごめんアサヒちゃんにマナカちゃん!!」



 そう謝りつつも、アユニは他の魔物を狩りその数を減らす。



「おい!?ヒロ……お主が考えていることが全く読めんぞ?お主はパーティーから外れて3人でなんぞ……正気の沙汰とは思えん!」


「俺もそう思うぞ?万が一四方同時にゴブリンが湧いたら彼女達はすぐさま窮地じゃ無いか!!」



 その言葉に僕は……『でも既に形ができてますよね?アサヒさんが指示を出し、手傷を負わせる役目がアユニさんそして敵の攻撃をメインで受け止めるのが戦士のマナカさん……できてるじゃ無いですか?』と言う。



 盾捌きが心なしか上手くなったマナカを僕はもう一度再鑑定した。

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