第809話「精神崩壊!?天井から降り注ぐ雨の矢」


 僕は足早にガルムのところへ向かう。


 ガルムは僕が到着するやいなや……



「お主……あれはやり過ぎだ!!魔物がまるで虫の様じゃ無いか!!……」



 どっかで聞いた様なセリフだが、確かにあの魔物は虫系種だ。


 なのでギャグかと思い笑いを交えて話す。



「はははは!上手い!!……確かにそうですね?テンタクルワームなので、まんま虫ですね?ギャグですか?」



「違うわ!!」



 ガルムは頭を押さえながら……『あの娘……もはや動く殺虫剤だぞ?この短期間で何がどうなったら、初心者が魔法で乱獲し始めるんじゃ?』と言う……


 なので僕は……



「スパルタの賜物?……そんな感じです!ちなみにスパルタって言うのはですね語源がちゃんとありまして………」



「いやいや……そのスパルタって言葉を教えて欲しいとは、儂は一言も言っちょらん!!……まぁ良いわい……それで?祝福して貰う報酬位は払わんとならんぞ?」



「じゃあ、開けてくれたレックさんとえっと誰さんかわかりませんが、祝福さんには『各箱から何か一つを持って行って良い』ではどうでしょう?」



 その言葉にざわめきが起きる……



「お主……好きな物って言ったがそれはダメだぞ?金貨袋だってあるんだ!少しは物を考えて言うんじゃ……仕方ない……レイラ、ペムお前達も手伝って仕分けをしてやれ!そして手頃なアイテムを報酬として分けてやるんじゃ!……」



 ガルムは『なんで儂が仕切らにゃならんのじゃ……』と言いつつ、自分も参加して仕分けをする。



「ヒロさん、じゃあ任されて良いかしら?仕事は、あのガルムよりちゃんとやるから安心して……」



「レイラさんよろしくお願いします!今日中にアユニにレベル10まで上がって貰う予定なので助かります!じゃあ僕は彼女の方へ戻りますね?」



 僕はそう言ってから、その場を離れる。


 すると後ろから……



「あなた馬鹿だからもう何も言わないけど!!ちゃんと休憩挟みなさいよ?貴方の為じゃなく、あのアユニって子の為にね!!」



 レイラは大声でそう僕に言う。



 すると、レイラに心配されていたアユニは大声で……『エリア・レインアロー』と言い始める……



 その瞬間、僕の目の前に何かが降り注ぐ……



 『ズドドドドドドドド』



 上を見上げると天井に水の塊が出来ており、そこから次々と大量の水の矢が降り注ぎテンタクル・ワームが纏めて葬られる……



「うふふっふ……この方が効率がいいわ!……命名するならば……水矢の雨とか……どうですか?ヒロさん!!………グビグビ……ぷはー!!」



「ア………アユニちゃん!!今すぐ休憩にしま………」



「うふっ……うふふふ!コツは分かったわ……もう1発行くわよ?虫めーーーーー!!この一撃で全部纏めて狩り尽くす!!」



『エリア・レインアロー』



 『ズドドドドドドドド』



 部屋にいたテンタクルワームを、寸分ズレる事なく狙い撃つアユニの水矢の精度は半端なかった……



 それも冒険者に当てる事なく、ワームにのみ命中させたのだからとんでも無い技術だ。



「はれ?……頭がくらくらしますぞー?ヒロさん……なんですかー?コレはー?ふえぇぇぇぇ…………」



『ばったーん』



 言うのを忘れた……


 完全に魔力ゼロにはしない様にと……



 あのエリア・レインアローの魔法は彼女オリジナルなのだろう。



 予測の範疇だが、纏めて狩らないと何時迄も終わらないと思ったせいで、エリア判定をしてしまったのではないだろうか?


 そして雨の様に降り注ぐ矢で殲滅し、早く楽になりたかったのだろう……



 しかしこれは魔法力を全部使い切り、敵を仕留める必殺技だ。



 1回目は、試しで撃った為に中途半端にMPが残ってしまい、運良く倒れずに済んだ。


 2回目は、魔力回復薬でマックスまで回復した後、経験から基づいた最大量で放った結果、今度は魔力枯渇で倒れた……と言う事だろう。



 それを見たガルムは……



「だから言わんこっちゃない!!全く……なんて危険な物を覚えさせたんじゃ!!お主の秘術か何かか?まったく……冒険者にかすらせず魔物だけ殲滅なんぞ……それも初心者講習で?……そんなのは前代未聞じゃ!!おいクレム!助けてやれ……」



 クレムがすっ飛んできてアユニを抱き上げると、部屋の端へ連れて行く。



「ヒロさん休憩が必要ですよ。流石に……倒れ彼女を起こすのは危険ですから……」



 クレムがそう言うが、突然ぱっちり目を覚ますアユニ………



「はっ!!ね……寝てる場合じゃない……。く!!クラクラする…………」



 アユニは頭を左右に振りながら気合を入れ直し、僕を見ると口をパクパクする……何か言いたいのだろうがなんて言えば良いかわからないという感じだ。



「な何が起きたかわからないんですけど……ハッキリと見えました!!……魔物が真上から………それも全部完全に判別できたんです!!何ですか……さっきのは……ヒロさん!その現象について何か知りませんか?」



 僕は慌ててアユニを鑑定をしてみると、彼女のスキルに『モクモクレン』と出る……


 それを見て僕は『妖怪じゃねぇか!スキルじゃねぇよ!』と突っ込みたくなるが、既に薔薇村にカッパがいたことを思い出した。



『そう言えば薔薇村にも河童が居たな……あの時は確か……アーチとミクが交換用のきゅうりの様な野菜に、エルフ味噌を付けて勝手に食べちゃったんだよな。魚と野菜を交換しに来たカッパともめにもめて喧嘩になってたなぁ。あれ?アーチとミクって……河童だったっけ?きゅうりが好きだから河童かな?まぁ……薔薇村に行けばわかるから良いか。今のところ河童で……』



「何か思い当たる節でもあるのか?ヒロ?黙りおってからに……」



 僕はガルムにそう言われて、改めて一つの推測をする……



『妖怪とこの世界の繋がりが何かあるのかも知れないけど……まさかスキル名にまで現れるとは……天井を碁盤の目にでも例えてみたのかな?モクモクレンって事は……』


 そう思って僕は推測から話をする。



「多分ですが、多方を確認するスキル的なものに目覚めたんだと思います。そうじゃないと、冒険者に当たらずに魔物だけ当てると言う部分の解釈が難しいですからね!水矢なのは当然今使えるのが水魔法だからで、魔法はオリジナル系の魔法だと思います。以前知り合いが『迷宮魔法』なるものを作ったと言ってたので……あくまでも推測ですよ?」



 そう言ってから『街で鑑定スクロール買って、詳しく調べたほうが良いですよ!』と付け加えておく。


 そうすれば彼女は、それをキッカケに調べるはずだろう。



「成程のう……確かに判別系のスキルは山とある。そして上方からの確認スキルは『鷹の目』や『サイト』そして『狩人の目』など沢山あるからのぉ……それ等がひと纏まりになったスキルもあるかもしれんのぉ!!特殊系と言う凄くレアなスキルだった筈じゃ」



 そう言ったガルムも『街に戻り次第、鑑定スクロールを使うべきだ。』とアユニへ助言していた……



 ◆◇


「お嬢さん、ひとまず休みなさい。冒険者は休める時には休む。コレが出来ないと務まる仕事じゃないぞ?」



 アユニは、目の前にいる冒険者が『ダイバーズ』のタンクだと気が付き、すぐにその場に座る。



「アユニちゃん、皮袋のココアを飲んで一度落ち着いて。まぁ……ああなったのが僕のせいなのは百も承知なんだけどね?」



 アユニはその言葉に『ハッ!』としてクピクピと飲み始める……その様はまるで幼い子だ。


 どうやら必死に戦いすぎて、飲み物の存在を忘れていた様だ。



「おうヒロ!終わったぜ。内容は聞けば驚く物ばかりだぜ?Sランクの箱が何と2箱でAが1箱そしてCの箱が3箱Dの箱が1箱だ!この報酬は流石にヒロオメェ運が良過ぎだぜ!」



 レックがそう言うと、遠慮がちだったアユニも流石にソワソワし始める。

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