第785話「最下層の財宝」


 シワシワに枯れて、ボロボロになるグレーターミミックだったが、その下に見える溶岩の海を見てマモンが呟く……



「確かに溶岩地帯だな……偶然この足場があって良かったぜ……」



「いやいや……マモン。流石に足場は確認して此処に立ってたからね?僕は……」



 僕は足場を確認した際どの程度の幅かあるか、切り裂いて確認をした。


 一応足場が入り口まで続けばいいな……という打算もあったが、最低限の居場所は確保済みなのだ。



 問題は魔法を使わなくても、マモンが一人でどうにかできたという事だ。



 二人が思っていた通り『雑魚オブ雑魚』で間違い無い敵だったようだ。



 ◆◇



「おい……ヒロ……アタイに感動の別れはどうしてくれるんだい?こんな階段の拡張工事して!!此処は崩れるんだこんな豪勢な階段いらねぇだろう!」


「そうじゃぞ!!儂はいったい何本の魔力回復薬を飲まされたと思っとるんじゃ!!20本じゃぞ?20本……老体に鞭を打って飲んだのに!!無意味ってどういう事じゃ!!」



 エクシアとフレディ爺さんの猛攻撃に僕は精神が折れそうだ。



 マモンが魔石を引き抜いたあと僕達は出来立てホヤホヤの階段で4層へ戻った。


 皆すごく歓迎したが、マモンとヘカテイアが呆れ顔で全てをゲロしてしまい大猛省に変わってしまった……と言うわけだ。



 だが此処が崩壊し易い事実は変わらない……


「もういいじゃ無いか!無事済んだのだしな……ウィンディアは勿論、我とソーラーも階層主討伐終了確認をせねば国王陛下に報告ができん。すぐに確認に向かおうでは無いか……崩れて帰れなくなる前にな!アスマお前は護衛でついて来い。もし危険だったら儂を担いで上に逃げるんだ!いいな?」



「はい、マックヴェル侯爵様!」



「じゃあ、儂たちも行くかな……リーチウム!お主も同行せよ!お祖父様のスキルを手に入れたお主は、今後我が家を支える大事な役目がある。子孫へ語り継ぐのはお主になろうからな……。全て見て記憶して伝えよ!」



「ハッ!!お父様このリーチウム見聞きした事全て後世に伝えまする!」



 マックスヴェルとソーラーがそう言うと、チャックが割り込んでくる……



「それで?俺っちは何方の指示で一緒に行けばいいんですかい?それともエクシア姉さんの指示で同行ですかい?宝箱と何やらすげぇ武器があるんですよね?俺っちは祝福は出来ねぇので、シャインさん同行させた方がいいっすよ?」



 抜けた言葉でチャックはそう言うが、自分を『俺っち』と言う時は大概機嫌がいい……火焔窟のミッションが無事完了して、いつもの数倍は嬉しいのだろう



「じゃあ確認とお宝回収に行こうかね……因みにグレーターミミックの魔石はヒロの持ち物でいいよね?コイツこのダンジョンで魔石消費が激しいんだ……」


 エクシアはそう言って、イフリーテスとフロスティの方を指さす。


 ホムンクルスの身体を生成するのに魔石を使ったので、大きい魔石が欲しいとボヤいていたのを覚えていてくれた様だ。



 少し前に僕がマモンから貰ったのだが、悪辣貴族から不満の声が起きたのを侯爵二人が怒鳴って鎮めたのだ。



 それに問題が起きない様に、エクシアの心配りの様だ。



 新調した階段を降りながら僕は、気になっていた事をエクシアに話す。



「そう言えば……上の穢れノームの迷宮では『堀川』が連続して現れましたが……此処は居ませんでしたね?」



「……お前嫌なこと言うな?そう言う場合大概向かうと居たりするんだよ?辞めてくれないかい……マジで……」



「そうっすよ?ヒロ兄貴……このダンジョンの寿命はもう僅かなんですから……坑道にしては不安定だからいつ落盤してもおかしくねぇんですよ?そこに堀川とか居たら絶対ヤベェじゃねぇですか!」



 僕はノーミーとノームの注意を思い出した。


 下層へ降りる時、火焔窟まで同行しているノームもノーミーが、早く外へ出た方がいいと口々に言っていたのだ。



「でもロズさん、伯爵たちの確認だけですから……それに溶岩地帯の足場もあまり広く無いですし。長居はしませんよ……万が一居たら部屋に行くのは辞めればいいんですよ。感知で………あ!アイツ感知に引っかからないんだった……」



 僕はロズとの会話でそれを思い出した……


 堀川は感知に反応しない『場合がある』のだ……スキルか魔法かマジックアイテムか……理由は様々だが……。



「皆さん方着きやしたぜ?………中に人の気配はありませんが……うーん……すげぇ足場で戦ってたんですねぇ……此処にグレーターミミックが床に化けていたと?……全員乗った時点で床に化けるの辞めたら大惨事でしたね?」



 チャックが言う事は正しい。


 僕達も上の階でそれを考えていた……何故化けるのをやめて溶岩へ突き落とさなかったのか?と……



 フレディ爺さん曰く、『魔物としての食欲が勝った』のでは無いか?と言う事だった。



 階層的に他に魔物は居ない……


 そして火焔窟の存在を知らないため、階層には100%冒険者が来ない……というか、そもそも来れない……



 どの位、捕食して居なかったかは分からないが相当『腹が減って』いたのだろう……



 確実に串刺しにして、動けなくなった所を捕食したかった……それが有力な解答だった。



「足場は何とか平気ですね……道幅的に大人で二人……って所ですかね?宝箱ごとは危険ですが、解錠後祝福をして中身をマジックバッグに詰め込めば問題ないでしょう……」


 チャックがそういうと悪辣貴族たちから歓声が上がる。



 ソーラーとマックスヴェルが皆を諌めたのだが、彼等は最下層を一目観たいとせがんだのだ。



 階段はかなり魔法強化したので崩れる心配が無い。


 そこで、通路から中を見るのであれば……と言う事になった。



 ソーラーは大反対したが悪辣貴族の圧力は凄まじく、エクシアも仕方なく折れる程だったのだ。



「いいかい?此処から先は、念の為に入れる奴を制限する。いいね?文句は言わせないよ!討滅確認の為に侯爵様二人と子飼いのギールにリーチウム。あと総指揮官のウィンディア伯爵様。宝箱の罠確認と解錠でヒロとチャック、そして祝福担当でシャイン。万が一の時ぼ為に、迷宮魔法の使い手のフレディ爺さん。それと総判断をする私だ」



 エクシアの話を聞いたあと悪辣貴族の全員は、入れ替わり立ち替わり場所を移動して最下層を覗き込む。


 先程は並べるのは三人がやっとだったが、拡張工事の結果、五人は並んで立つことが出来る様になったからだ。



 見てすぐに溶岩が足元に見える為、余程危険な場所だと理解したせいか貴族達は大人しく従っている。



「不味いっすね………この通路………亀裂が入ってますぜ?コレは………罠ですね……通ったら最後、崩れて戻れない奴ですね。多分床の紋様からして、旧王家にあった隠し宝物殿でしょうね……前に見つけた壁に囲まれた物の片割れでしょう……」



 討滅確認をしていたマックスヴェルは、チャックのその報告を受けてすごく悲しそうな顔をする……



「どうにかならんのか?此処がもはやダンジョンでない以上、あの武器が溶岩に沈めば間違いなく失われるのだぞ?国宝間違い無しの武器なんだ……チャック……儂ができる栄誉は其方に与える約束をしよう!何か方法を探してくれないか?」



 食い下がるマックスヴェルだったが、ソーラーはその肩を叩いて首を横に振る。



「マックスヴェル……残念だが無理だ。手に入れるには誰かが向こう側にわたり、マジックバッグに詰めて地上へ帰る護符を使い必要がある。その護符は儂が1枚持っているが、チャックに何かがあれば宝の損失などの問題ではなくなる。意味はわかるな?」



「く!!諦めるしか無いのか………く…………」



 マックスヴェルは、遠回しに『迷惑をかけるな』と言われた事を即座に理解する。



 此処は地上の出口が近い場所では無い……僅かな選択ミスですぐに死ぬ。


 ここは救助隊などは決して来ることの出来ない深層域なのだ……

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