第786話「豹変!?ギールの企み」


 マックスヴェルとソーラーの言葉を聞いたチャックは、諦めがつく様に駄目押しの言葉をいう。



「侯爵様方、更に残念な報告で申し訳ねぇんですが……残念ながら宝箱を開けるスペースも向こうにはにはねぇんですよ。あの積まれた宝箱は大凡、全て罠込みですね……それもあの一帯に効果が及ぶ物……と考えて間違いは無いでしょう……。ダンジョンの最後の悪巧みって奴でしょうな……」



 僕はチャックの言葉を聞いて、グローブがあれば全部回収できた……と若干悔しくなる。


 しかしエクシアは『命が一番の宝だろう?ダンジョンは他にもあるんだ……死んで貰えなくなるより、生きて得た方がいいんじゃ無いかい?』というと、侯爵二人は苦虫を噛み潰したような顔で笑って居た。



 ◆◇



「口惜しいが宝は諦めるしか無いか……皆の者、上の階へ急ぎ向かい帰還の準備をするぞ!」



 マックスヴェルがそう言い放つと、渋々ながらそれに従う悪辣貴族の面々……



 しかし突然ギールが、チャックの首に剣の切先を向けながら大声をあげる……



「ふざけるな!俺は……何としてでも宝を得て帰るぞ!!この宝の山があれば家の再興は間違いない!アホな王都貴族に一泡吹かせられるんだ!俺の父親と母親を馬鹿にしてきた……あのクソ共にな!」



 そう言って彼は空いた方の手で、自分のマジックバッグを見せると、また興奮気味に大きな声でいう……



「侯爵様、私にはアレを持ち帰る手段があります!コレを見てください、大金貨50枚で買った特大マジックバッグです。コレならば間違いなく『宝箱ごと』入れられます!!向こうにわたり宝を持ち帰りましょう!」



「ギール!?突然どうしたのだ?何を言っておる……アホな王都貴族?いつも冷静なお前が、突然何を言っているんだ?……それに渡ったとして、箱にある罠はどうする?積み上げられた宝箱は退かすこともできんのだぞ?作業のスペースも無い以上、罠を外すのは無理だろう?」



「聴いてください、侯爵様……罠だったら平気です!あのヒロ男爵が持っていた不思議な鍵があるでは無いですか?アレは罠ごと破壊していたでは無いですか。アレこそ侯爵様が持っているべきマジックアイテムです。それを侯爵の命でお取り上げください!そうすれば私とチャックが向こうへ渡ります」


 そう言ってギールは剣の先をチャックに強く押し当てる……



「とっとっと………待ってくだせぇ……渡りますよ!良いですとも……ですがこの剣はしまってくれませんかね?ウッカリ刺さったら俺は死んじまいますから!!」



 その言葉を聞いてマックスヴェルは『お前は、さっきの話を聞いていたのか?優秀なシーフを失えるか!馬鹿もんが!』と怒りを交えて問いを投げる。



「ええ、聴いてましたとも!!、だからこそです。チャックの様なシーフであれば、探せばこの王都にも沢山いますよ!何せチャックは『闇ギルドに拐われた』って話なんですから!それは本人から話を聞きましたしね!!だから侯爵様、貴方の命で一斉摘発するんです!そうして『チャックの代わり』を探せば、彼の技術的問題は即座に解決します!」



 その言葉に今度はエクシアが『仲間を失ったあとアタイたちが侯爵を許すとでも?』とドスの聞いた声で脅しをかけると、部屋の外にいたエルフ達まで部屋に乱入して来た……



 耳がいい彼等は、多少距離が離れても周囲の音を聞き分けられる。


 最下層に向かった彼等に何があってもいい様、念の為に離れた位置でついて行き今まで様子を見ていたのだ。



「私達エルフとの国交は貴方の手で我が共チャックに危害を及ぼした時点で消滅しますよ?ご承知の通り、私は月エルフ王女です。我が友人に手をかければ、幾ら同族争いでも貴方たち貴族は私の敵と見做します!!」



 完全に独断と偏見で、一国の王女であるモアは人間と対立するとまで言い始める。


 しかしそのモアより先に、ギールの言葉にエルオリアスが反応して怒りを露わにしていた。



 エルオリアスはチャックと仲が良く、割と行動を共にしていた。


 チャックはエルオリアスに『いつか我が祖国をお前に見せたい』と言うほどにまで、互いの友情を育んでいたのだ。



 そして、その怒りの感情はフロスティに伝わった様で、フロスティは戦闘形態である氷の毛皮と鋭い爪を作り出していた。


 エルオリアスの感情が流れ込みやすいフロスティには、既にギールは敵として映っている様だ。



 しかしこの状況でもギールは問題発言をやめようとしない……今度はモアの様に権力をチラつかせながら話し出した。



「チャックは所詮ファイアフォックスのメンバーです。外に出たら侯爵様の力でそんなギルドどうでもなるでしょう?プラチナギルドなどの等級は意味をもう成しません。あそこの伝説の武器に並ぶだろう、ヒロ男爵が持ち帰った精霊の武器があるのです!精霊使いの量産など、もはや容易いではありませんか!」



 そう言ってギールは『フランム』の時の説明をする。


 精霊力さえ手に入れれば、精霊契約が可能になる事実があると……


 しかし契約には相性が伴うのだが、ギールがいう話の中ではそれは考慮されていなかった。



「ギールひとまず、その剣を降ろすのだ。チャックに何かがあった後では、この遠征の収穫はゼロになるんだぞ?」



 ソーラーが剣を降ろす様に言ったあと、珍しくマックスヴェル寄りの話をする。



「いいか?ギール……チャックはエクシアのファイアフォックスギルドメンバーであると言ったな?そのファイアフォックスは国王陛下自らが与えた、栄誉ある称号『プラチナギルド』なのだ。何処の誰でも貰える称号では無い!お前はそれを承知で言っているのか?」



「そうだぞ?ソーラーの言う通りだ。その上、国王陛下の決定事項に弓を引く事になるのだぞ?その上この遠征を台無しにした場合、国王陛下への献上品はどうする?お前は権力による接収を視野に入れているかもしれんが、力尽くになった場合ウィンディア伯爵は勿論、ザムド侯爵とも争うことになるぞ?そうなれば領土間の戦争になるでは無いか!」




 ソーラーもマックスヴェルも、貴族と冒険者の間に溝ができない様に細心の注意を払いながら、言葉を選んで話す。


 しかしギールはその言葉を聞いた瞬間、更に憤慨し始めた……



「それだ……それなんだよ!!俺たち家族は今まで国王陛下に忠誠を誓って来た。父は戦争で足と腕を失い満足に活躍ができなくなった……王はそんな父を捨てた!そして秘薬を持ってきたその男……ヒロという冒険者を選んだ!!お祖父様の代から忠誠を誓ってきた我がウーラ家を蔑ろにしてだ!何故その男なのだ!?だから私は反王政派である貴方達に与したのだ!なのに……何故貴方達までまたコイツなんだ!?」



 彼は憤慨しながら、ウーラ家に起きた事を話し始めた……



 ◆◇


 彼は自分の身に起きた事を矢継ぎ早に話した……内容は至って簡単だ。


 家族は王国の為に戦い戦争で痛手を負った……王国はそんな彼等家族を見放した。


 彼はその王国に……それも特に家族を見限った国王と国王派貴族に怨みを抱く者だったのだ。



「お前が居なければ……。何もかも………滅茶苦茶にしやがって!俺の家族を見限った王を俺は見限ってやったんだ!そして王を蹴落とすためにドクリンゴ様に将来を託したのに……お前はそれをぶち壊して……。今度はマックスヴェル公爵家に関わりを持ちやがって!!俺のいく先々で目障りなんだよ!!」



 そう言って彼は特大マジックバッグの袋から、小さい袋を取り出す。


 その袋にはドワーフ王国の、王家のエンブレムが書かれていた。

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