第774話「黙示録と奈落の王」


 ヘカテイアは皮肉と憎しみを込めて言葉を発した……それを聞いたアバドンは笑いながら答える……


『黙示録のアナグラか……せめて深淵と言ってくれると名前的にも嬉しいんだがな?これでも人族の世界にある最古のダンジョンの主であり、世界を破滅に導く者の名を冠しているんだ……。まぁ人間にして見れば敵以外の何者でも無いか……くっくっく………』



「だから……そう言ってんだろう?アタシが……。アンタがひょっこり穴から出てきてみな………私の計画が台無しになるじゃ無いか!」



 念話ではなく声を使う時点で、ヘカテイアはアバドンが自分の計画の邪魔をする奴と判断したようだ。


 見るからに相当怒っている……



『まぁ冷静になれ………ヘカテイア。お前ももう分かっているだろう?この方法でこっちの世界に来ても力の殆どは使えない……それどころか貧弱すぎていつ死ぬかも分からない。俺も無駄に死んで時間を費やしたく無いんだよ。遊びに来る程度には適しているが、戦闘はとてもでは無いが無理だ……』



「だったら……。さっさとその邪魔なポゼストドラコーを処分して消えな!………どいつもこいつも私の計画の邪魔ばかりしやがって……だから向こうの奴は馬鹿ばかりなんだ!!」



『まぁそう怒るな……今日は挨拶さ……。オマケがついて来ちまった事は謝るさ。偶然乗っ取った身体の側に奴がいたんだよ……。今日は帰るさ……だが……今日確信したよ。お前の様な『ホムンクルスの身体』でもあれば大きく話は変わってくるってな……』



「残念だね?この身体は特別誂えさ……。アンタには未来永劫手に入れられないよ?……コレはそこいらのホムンクルスじゃない。魔石や素材全てが規格外で、その上、其れらを使ってこんな物を作れる奴は本来は存在しない……この世界にはね……」



 ヘカテイアが微妙なことを口走ると、マモンは大慌てでヘカテイアの側による……



「ヘカテイア!!馬鹿かテメェは………うまく口車に乗りやがって!!コイツの魂胆は『それを聴き出す事』以外に何がある?アバドンは策士なんだ……会話に交えて聞き出す為に手の内を話したって事くらい気がつけ!!」



 ヘカテイアはマモンの言葉にハッとして僕を見る……



『ほう………ヘカテイアにマモンその少年か……。まさか古き神を降ろす事が出来るとはな……。その器ならばこの俺も化現が可能だな………良い者を紹介してくれたな?ヘカテイア……』



 アバドンはポゼストドラコーに身体から這い出ると、あっという間にヘカテイアとマモンの前から姿を消す。


 当然ヘカテイアとマモンもそれを予測していたので行動に移そうとするが、脚に何かが絡まって動けなかった……



「くそ!やられた………。アバドンの奴……ポゼストの変質を使いやがった………」



「エクシア!!今すぐヒロをこの部屋から放り出して!!アイツは奈落の王・アバドンよ!私達と同じ眷属………つ!?……」



 ヘカテイアの説明は一足遅かった……


 アバドンは僕の側に来ると、マジッククロークに手を突っ込んで何かを取り出す………



「くっくっく……良い物を見つけたぜ?こんなお誂え向きな物を持っている時点で最早俺とコイツの出会いは運命だろう?……だよな?ヘカテイア……お前の心臓は用意してやがるんだよな?だったら俺はコッチだ!!」



 そう言ってアバドンの姿は土塊になって消えてしまう。


 どうやら僕はアバドンにクロークに中のナニカを持ち去られた様だ……


 持ち去られたのは、自分から使う事は間違いなく無い特殊なアレだろう……



 ◆◇



「何があった?その顔はどうした?………表情からして普通じゃ無いぞ?おい!エクシアにヒロ男爵……説明をしろ!!」



「ちょっと待ちな……マックスヴェル………。問題が多すぎて何から片付けて良いもんか……考えられないんだよ!!」



 僕達は魔物二匹を退治して部屋から出てきた。


 魔物が居なくなったせいで部屋にあった視認不可の効果が消えて、部屋の外にいたシャインの声でエクシアとヘカテイアがそれに気がついたからだ。



 アバドンは帰り際に置き土産がわりに、乗ってきたポゼストドラコーの身体を派手に破裂させて帰った……


 僕達が倒した訳ではないが、マモンの説明では一気に自分の力をポゼストドラコーに流し込んだ結果、内側から破裂したそうだ。



 マモンとヘカテイアは、自分達が本来持つ力をランクの低いこの世界の生き物に移す事で、どう言う結果になるかが分かった事が収穫だと言っていた。


 アバドンが破裂させて帰ったお陰で、僕達は奇しくも階層主であるガーディアンを倒した事になった……



「なんと……こんな魔物が……。コレは混沌の龍ではないのか?………それも粉々の個体を見た限り、この部屋には二匹も居た事になるのではないか?ゼフィランサス様やエーデルワイス様の様な皇龍をいとも簡単に倒すとは……」



 そう言ったのは口を開けたまま動けないマックスヴェル侯爵が連れてきたギール男爵だった。



「ギールよ。だから言ったのだ!この遠征は嘗てないとんでも無い状況になると!!この邪竜を倒したのは歴代の英雄でも数人しかおらんのだ!!ハッ!!そ……素材は取りに行って構わんのだろうか?エクシアどうなんだ?」



 守銭奴のマックスヴェルらしい反応だったが、もはや当分の間魔物が出ない部屋になったのでエクシアはそれを許可する。



「ソーラー悪いが奥に転移陣がある。上階層から皆を呼んできてもらえないかい?転移陣を挟んでボス部屋があるけど当分は湧かないだろうからね……そもそも死骸さえ消えず、宝箱も出てないしね……迎え入れるなら今のうちさ!」



 エクシアは機転を利かせてそう説明をする……



「どうなんだい?ヘカテイア……精霊の片割れの方は……」



「アタシとマモンの二人でなんとか変質は除去したけど………完全回復には程多いわね……。少なくともヒロの精霊力が無ければ魔物になっていたか……それか精霊核の暴走で消滅していたわ……」



 その言葉に僕は驚き顔でヘカテイア見る……




「僕も精霊核の暴走待った無しなんですけど?……消滅するんですか?僕は?………えぇぇぇぇぇぇ…………」



「貴方は暴走しても粉々になるくらいよ?あのポゼストドラコーと同じ感じ?」



「ちょっと……ヘカテイアさんそれはすげぇ嫌です……なんか方法ないんですかね?」



 ヘカテイアは制作中の魔神の心臓を僕へ見せる。


 今のところは精霊達に頼んで決壊で処置しかないわ……でもコレができあがれば一応自分でも制御は出来るはずよ?



 若干嘘っぽいのでマモンを見ると、マモンも……


「まぁ自分でやるにはそれしかねぇな……それか龍化すれば良いんじゃねぇか?ゼフィランサスとかエーデルワイスに聞けば早えしな?……両方あれば確実に抑え込めるぜ?でも結果的に言えば人じゃなくなるけどな?」



 人間をやめて暴走を止める……それでは本末転倒だ……。



 だが今はそれは問題ではない、僕達は炎の双姫の片方を救う必要があるからだ。



「水っ子に風っ子何かいい方法は?」



『無い訳じゃないけど……あまりお勧めは出来ないわよ?ねぇ水っ子?……』


『うん……確かに……でもまぁ……間違い無く救うことは出来るわね……』



 二人とも歯切れが悪いが何かの案はある様だ。



『確かにワタチ達も助かるわ……でしょう?土娘?』


『土娘って何よ?雪ん子!……ノーミーっていう種族名がちゃんとあるんだから!なんとか言ってよドライアド種の森ちゃん!!』



 若干言い合いをするノーミーとフロスティ……


 お互い決まった形を持つ種族同士、種族名を大切にするノーミーと余り気にしないフロスティの温度差が若干あるようだが、森っ子は精霊種と同じ呼び方の方がいいようだ。


 結局解決方が見えないまま僕の周りにはサラマンダーを含めて全てが集まっている。

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