第772話「精霊・ジンニーヤ」


 ポゼストドラコーはヘカテイアに罵声を吐いた……


「何を言っているか!人形如きが………」



「だ!か!ら!人形って事は認めるわよ……。仕方ないじゃない本体なんか出せるわけ無いでしょう?本当に馬鹿なのね……まだ火龍ゼフィランサスや緑龍エーデルワイスの方がお利口よ?」



「何だと!?………あの桁違いの化け物の火龍と緑龍を知っているだと?オマエ………その羊角に黒髪………紋章入りの黒衣…………ま…………まさか………ヘカテー本体………か?どうやって此処に?何故この世界に既に化現してる!?」



 ヘカテイアはポゼストドラコーに向かってスタスタと歩きながら……『アタリよ?お馬鹿さん………』と言った瞬間姿を消す……



「ぬぁ!?ど……どこに………プゲェ!!………ガボ……ガボ……ガガ………ガガガ………」



「何処って……。本当に貴方……ノロマすぎるわよ?貴方に頭の上に決まってるじゃない。此処に精霊が埋まってるんだから……当然でしょう?今のが見えなかったらお遊びにもならないわ……。良かったわね?マモンの相手なんかしなくて……。貴方程度だったら満足にお話もできずに死ぬわよ?」



 ヘカテイアはそう言うが、それに対してポゼストドラコーが返事する事は無かった。


 それも当然で、綺麗に口から一文字に切り離されていた……



「あら……うっかりしてたわ……。双姫の片割れを貴方の頭から引き抜いたから……意識が飛んでるのね?マッタク……。これだから邪竜種は打たれ弱いって言われるのよ……。少しはタフになりなさいよ?むさ苦しい程に貴方達は増える癖に、全く使えないんだから……そう思わない?精霊ちゃん?」



 ◆◇



 戦いを圧倒的強さで終えたヘカテイアは、そそくさと僕の方へ歩み寄ると僕諸共部屋の隅へ連れて行く……


 ヘカテイアの腕の中には『ゼェゼェ』と肩で息をする炎の女性型の精霊、ジンニーヤが居た……



「ヘ……ヘカテイアさん!まだ戦闘中………後一匹居るし、エクシアさんとマモンが戦ってるんですよ?」



「大丈夫よ……その頼りになるエクシアが居るじゃない……。彼女ならマモンにジンニーヤを回収させない様に立ち回るはずよ?それより今は多分こっちが問題でしょう?貴方的には……」



 そう言ってジンニーヤを僕に見せる。


 ジンニーヤは憔悴しきっている様で、声を出す力も瞼を開ける力も無いようだ。



「まぁまぁ……こんなに穢れてしまって……。今すぐ楽にしてあげるわね?」



「くっ……誰が……悪魔の力など………借りるか………。アンタ達、混沌の眷属種の糧になるくらいだったら……潔く精霊核を破壊して散るだけよ!!」



 炎の双姫と呼ばれたジンニーヤは、よほど強い意識を持っていたのか……ヘカテイアに助けられたものの、意識を失わず最後の足掻きをしようと試みていた。



「あら……辞めてよ!ワタシは本当に貴女を救いに来たのよ?ワタシの契約者はトラロックを化現させているこの坊やよ?面白い子でワタシ達魔神やマモンの様な悪魔、そして精霊や古き神々を同格として扱うのよ……。嘗て同じ眷属だった私達を知っているかの様によ?」



「だからなんだと言うの?……お前たち穢れし者は世界を混沌に陥れる、穢れを広める眷属であることに変わりはないわ……。理由や契約者はどうあれ、どうせ下心含んだ行動でしょう?……私は自分の穢れで、貴女達……穢れの眷属を強化させるわけにはいかないわ……。だから……この穢れは奪わせないわよ……」



「まぁ下心がある事も自身の強化目的も認めるわよ……。でも私は……この世界にも貴女のいる精霊界も興味がないの……。ごめんなさいね?」



「はん?……それを私達炎の上級精霊に信じろと?………馬鹿を言わないでちょうだい!」



「信じてなんて言ってないでしょう?説明をしているだけよ……契約者に前だから!私は救わなきゃならない『人』が居る……。『そう言えば』貴女でももはや意味がわかるわよね?……それをする為の力が一時的に必要なの。後は自分の縄張りを守る位かしら……一応これでも死の女王だからね……」



 そうヘカテイアが言うと、ジンニーヤは目を剥いて驚く……



「死と誕生を司る古き女神………ヘカテイア……死の世界を統治する為に天界を去ったと聞いたわ……。まさか……ポゼストドラコーが言っていたことは本当だったのね……。何故なの?貴女だったら……あのままでも事は成し得たはずよ?」



「簡単な話よ……でも……それを貴女には話せない……。我々古き神々の約束事を知らない貴女達精霊にはね……。御免なさいね?………どうしても知りたいなら神格化すると良いわ。嫌でも知る事になるから……」



 ジンニーヤとヘカテイアの話はひどく意味深だったが、二人に聞いても絶対に答えてくれないだろう……


 お互い含みがある話し方で、精霊種として……古き神々として……お互いの語れない理由込みで話をしているからだ。



「ジンニーヤ悪いけど……穢れは回収するわ。それがヒロとこの世界存続の為だって言うのだからね?……この契約者を手伝う契約だもの仕方ないわ!」



 勝手な事を言い出すヘカテイア……ジンニーヤはビックリして僕を見る。


 目に前に古き神々の一柱であるトラロックが化現しているのだから当然だろう。



 僕とヘカテイアに契約は人族に危害を加えない契約だった筈だ。


 しかしヘカテイアは、それの延長に穢れの回収があると自分勝手な解釈をねじ込んだ形になる。



「そんな事幾らトラロック様でも……ぐぅ!?…………ああぁぁ………ぬ……抜き取られる………穢れが………変質した……力が…………」



 ヘカテイアは僕の返事など待たずに、ジンニーヤの中にある変質した力の回収を始める。



『ト……トラロックこれは不味いことなの?ジンニーヤはグッタリしてるんだけど?』



『不味いも何も……この精霊を助けるにはこうするしか無いな……。精霊核を崩壊させれば、間違いなくその精霊は消えて居なくなる。力ある精霊が消えれば精霊界を維持する事は叶わなくなり、全てが消滅する。人間の世界と精霊の世界……双方がな……』



『じゃあトラロック……貴方達神々としては………』



 僕が確認するより早く、トラロックは話に割って入る……



『見なかったことにする………。我の契約者はお前だ……命令がなかったから……私は知らん………』



 自分勝手なのはヘカテイアとマモンだけでは無かった……


 どうやらトラロックや勝手に化現するチャンティコも、自分勝手組に含まれる様だ。


 そもそも神々の一柱が見なかったことなど許されるのだろうか?……と思っていると、ヘカテイアが意味深な話を始める……



「どうやらこの炎の双姫の片割れは、相当な精霊力をあの邪竜の封じ込めに割いたみたいね……。ヒロとトラロックは、この精霊に精霊力を注ぎ込む事に集中した方が良いわ……」


 どう見てもヘカテイアのそれは、調子良くついた嘘でしか無い……


 しかし、穢れを抜かれ一時的に増していた力を失い、気を失って倒れたジンニーヤを戦闘中の部屋に放って置ける訳もない。



「この部屋は雑魚が湧く部屋じゃ無いのが救いね……でも外に居る彼奴ら入れない様にね?じゃないとエクシアとマモンの魔法で皆巻き添えを喰らって死ぬわよ?」



 そう言い残してヘカテイアは、マモンとエクシアのタッグマッチに加わってしまう……



「また……勝手な事を………。魔物が居ないのが救い?既に色々と滅茶苦茶だよ………」



 僕は独り言に様に文句を言うが、憐れみなのかトラロックが念話で返して来た……

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