第759話「イフリーテスの願いと、振り回されるエルフレア」


「もし今度僕がエルフ国に行けたならその時に返却をして下さい。もし行けなかった場合は別のものでも良いです。僕の管理する村を街にする計画を手伝ってくれてもいいですし、代金的なもので言えば返却方法は沢山ありますよ?」



「は………ハハハハッハ!!エルフ国の姫様達これはヒロ男爵に一本取られましたな?これでは秘薬を使わないと無駄になる上、何方にしても使うものであれば今でも後でも変わらないですからな!それに……彼が言う通り、ヒロ男爵領と月エルフ領の商材協定も可能ではないですか?」



 金目の事に敏感なマックスヴェルが気を利かせている様だ。



「そうね……今はそれが一番得策だわ!エルフレア、ヒロに御礼を言って頂戴なさい。太陽エルフ国はヒロ男爵様の行為の恩を受け、秘薬の提供を受けさせて頂きます。太陽エルフは鎖国中でありますが、今後は私の名を持ってヒロ男爵様が治める自領とは進んで商材売買を致しましょう」


 スゥがそう言うと、モアも同じように続き秘薬を受け取りエルオリアスに渡す。



「貴方達は今後もヒロ男爵様をお手伝いしなさい。まだ炎精霊様の救出が残っています!!」



 スゥがそう言うと、エルフレアが冷や汗を拭いながらしどろもどろになって話を始める……



「それが……その………もう一つ問題が………。実は炎帝イフリーテス様がヒロ様に相談があると………まだ此処におられるのです……」



 そう言ってエルフレアは、自分の身体に刻まれた炎帝の印を指さす。



「は!?はい?………エルフレア!!何故その事は早く言わないのですか!!」



「出来れば内密に話を進めたいと……。ですがどう見てもその会話が出来そうになく……致し方なく今話した次第です……。イフリーテス様にももう残された化現の力が無いそうで……今話すしかないと……」



 エルフレアはそう説明すると『カクン』と気を失い、代わりにイフリーテスと思われる人格が登場した……



『申し訳ありません……私に残された化現の力が尽きるのが迫っているので……手短に説明をさせて頂きます。炎の眷属の力と引き換えに、その悪魔達に作った仮初の身体を私にも作っては頂けないでしょうか?』



 その言葉に愕然とする一同……どうやら念話は全員にダダ漏れで話しているようだ。


 全員に見る視線が痛い……



 断れる雰囲気ではない上に、そうなる様に炎帝イフリーテスに仕組まれた感もあるが……



「ほ……炎の眷属の力と申しますと?実際には何を?」



 何故かエクシアが一同の代表として質問を始める。


 エクシアはチャンティコが居るので、もう充分ではないかと思うのだが……


「まずエルフレアには私をいつでも呼べる様に契約を施しました。これはヒロ様との間を取り持って頂く御礼です。ヒロ様には我が眷属、火の中級精霊契約を約束致します。希望者が居れば神格炎魔法の伝授も施しましょう……如何でしょうか?エクシア・フレンジャー」



 その話に大喜びのエクシアは『炎の神格魔法』が欲しいと顔に出ている……


 そしてエルフレアにしがみつく様にスゥが質問を被せる……



「炎帝様!火精霊との契約は私でも出来ますでしょうか?」


「そ………そうですね……相性もありますので探してみましょう……。ヒロ様がお願いを聞いていただけるのであれば……ですが……」



 精霊が何故ホムンクスルの身体を欲するのか理由を効かねばならないが、明確な取引内容に僕は若干引いてしまう。



 しかしスゥの『炎精霊との契約が……欲しい……欲しい……欲しい……欲しい……欲しい……欲しい……欲しい……欲しい』と言う目の訴えは無視出来ない程だ。



「作りますよ……スゥさん……そんな目で見ないでください。因みに……何故その身体を欲するのか教えて貰っても?」



「目の前に理由がありますが?悪魔種が2匹も化現しているのです……炎精霊の女帝として……炎帝と呼ばれる者として……悪魔種を放って置けるはずがありません!」



 力強くそう言うイフリーテスだったが、原因はどうやら僕の様だ……


 文句などは言えそうもない……


 そして断れるとも思えない……



 そう思っていると、唐突に話に割って入る声がした……



『なぁ?アンタの話早く終わらせてくれよ……アンタも急いでるだろうけど、俺も身体欲しいんだよ!マモンってのが言ったんだよ!俺がこのエルフの男と契約して解放すれば身体が貰えるだろう……ってな?本当なのか?』



 声の方を見ると、僕に目を合わさない様にしているマモンとエルオリアスがいる。


 そしてエルオリアスの肩には小さな氷の雪だるまが居て太々しく話している。



「ジャ!ジャックフロスト!?」



『お!?お前俺の眷属知ってるのか?あの雪だるま野郎と一緒にされるのは嫌だが……まぁこの身体だ仕方ねぇか……この炎帝の側にいると魔法の氷にしておかねぇと溶けちまうんだよ!ってか……身体くれるなら俺もお前に氷精霊紹介してやんよ!なぁいいだろう?俺にも身体くれよ!!』



 そう言った雪だるまはフロスティだった。


 ちゃっかりエルオリアスも契約を終えている様で、万が一氷の脚が折れたりしても精霊力で氷の身体に作り替えられるらしい。


 『秘薬必要なの?』とも思ったが、氷の身体は不自由だと『フロスティ』が教えてくれた。



 衝撃に弱く、熱に弱いため化現には場所を選ぶそうだ。


 そのため火焔窟とフロスティの相性は最悪らしく、かなり急いでいるのは確かな様だ。



「おいヒロ、アンタ準備してな。火焔窟の話し合いはコッチでやっとくから……見せられない事やるんだろう?」


 エクシアは僕の耳元でそう言うので、一度だけ頷き返す。



「おい!お前らアタイ達はこっちで火焔窟攻略の緊急会議だ!時間が無いんだよ、向こうはヒロに任せときな。火の精霊が居なくなったらアタイ達の生活から『火』が失われるよ!わかってんのかい?」



 調子よくそう言った後、エクシアは全員を部屋にある階段付近に集めると『おいヒロ!魔法の地図を貸してくれ!』と言ってスゥに取りに行かせる。



 スゥが魔法の地図を受け取ると、彼女の周りを小さな炎が幾つか舞い始める……



「どうやら彼等は貴方と契約をしてもいい様ですよ?あとはヒロ様が仮初の身体を作って頂いてからになりますが………」



 スゥは魔法の地図を握りしめたまま、有無を言わさない眼力で僕に言葉を言わせる……



「大丈夫ですから!今から作るんですよ……見られたら困るんで、エクシアさんに協力してて下さい………はぁ………」



 スゥは地図を持ってエクシアの元へすっ飛んでいく。



 ◆◇



「………これで説明は終わりです……一応核は魔物の魔石で、体の素材は魔獣をベースに、魔の森の魔力木材を加工していています。基本的にマモンとヘカテイア2人と作りは同じです」



 そう説明してから、僕はこっちをじっと見ているヘカテイアとマモンを指さす。



「問題は『ホムンクスル』なので僕の命令に縛られる形にはなりますので、人族へ危害は与えないでくださいね?命令しないといけなくなるんで……その部分も彼等と同じです」



「おうよ!分かったぜ…………!?なんだこれ?口から……なんだこれ?……念話が出来ねぇ……ってか完全の出来ないわけじゃねぇな……やり辛い………口から何か音がでやがる!」


「分かりました………!!………これが『声』!!私が声を発してます!!」



 2人は初めて声を出すのか、かなり驚いている。



 フロスティは自分の声に違和感があるのか、会議中のエルオリアスを呼びつけてひたすら話し続けていたかと思うと『じゃあ約束通り氷精霊契約するか?』と言う。


 するとモアが会議から抜けてすっ飛んで来た……

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