第740話「地下12階層とエクシアの後悔」
「漸く階層主の部屋か……確かに魔物は居ないね。ヘカテイアとマモン様様だよ、無駄な戦闘なんかしないに限る。あと2階層も降りないとならないんだからね!」
そう言ってエクシアは階層主の部屋を超えて、下層階段がある部屋に向かう……
階層主の部屋の奥に転送陣があると思ったが、実際はもっと山を下った場所にあるらしく地図にはその在処が出ている。
「ヒロ。それでこの階層には転送陣は?見た感じこっちにはなさそうだけど?」
「諦めた方がいいですね……此処からは行けません。この階層は運が悪いと、下層への行きと転送陣へ向かうときもギガント・ミノタウロスと戦闘になる構造です。なんせ階層主部屋を通らないと往来ができないので。それに何と言っても遠いので、かなり時間がかかります」
エクシアは『そうか……仕方ない此処は降りてすぐに安全部屋を探すしか無いな……』と言うと、ロズに指示をして慎重に降りていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
地下12層は降りてから第一声が『何だ此処は……』に尽きる階層だった。
階段を降りて扉を出ると、天井は非常に高くそして『何も無い』空間だった。
「エクシア……コレは何だ?何も無いぞ?まさに言葉の通り『何もない』部屋も壁も……唯一あるのは岩で出来た地面と天井だけだ……そして見渡す限りの暗闇だぞ?松明があってもコレでは広すぎる……」
「ソーラー説明しなくても分かってるよ………不味い気がするね……。おいヒロ……これってアレだよな?」
ソーラー侯爵がエクシアに向けて質問を投げかけるが、エクシアの顔には全く余裕がない。
それもその筈で、僕たちは一度似た構造を見ている。
『水精霊の洞窟』と呼ばれたダンジョンでだ。
そしてエクシアも僕も最下層が『13階』と言う言葉に振り回されていた……悔やんでも悔やみきれない。
最下層は13階かもしれないが、コアの場所がその階層だったとすればダンジョンの主がいる場所は、同じ階層か一つ上の階層の可能性もある。
『最下層がダンジョンの主がいる場所』では無いからだ……今まで最下層がそうであった為にそうとられているが、ダンジョンの主はあくまでダンジョンが用意した『突破が困難な壁』でしかない。
「いいかい、アンタ達……此処からは誰が死んでも気に留めるな!少しでも集中を切らしたら死ぬよ!!」
エクシアがそう言ったのには大きな理由がある……階層に侵入した事で魔物が押し寄せて来たからだ。
暗闇の奥を只ひたすら凝視していたエクシアだけがその異常さに気がついた……暗闇の一部が動いている様に見えたのだ。
エクシアが言った今すでに僕の感知にも反応はあるが、もはや目で見た方が早い……
魔物を遮るものがこの階層には一切ないからだ。
「全員!陣形を取れ!」
意外にもマックスヴェル侯爵がソーラー侯爵より先に指示を出す。
「く!まさかこの儂より指示が早いとはな?マックスヴェル……お前はとんだ食わせ者だ!!」
「くはははは!!これで生き残ったら酒を奢れよ?ソーラー!!」
マックスヴェルが皮肉を混ぜて不敵に笑うと、このダンジョンで初めて剣を抜く。
「マックスヴェル騎士団、構え盾!!陣形保て、敵の突撃を受け止めよ!!」
「「「「おおおおお!!」」」」
マックスヴェルは自分の騎士団に命じて、後続の冒険者が陣形を作るまでの時間稼ぎを買って出る……
「マックスヴェル侯爵に負けるでないぞ!ソーラー騎士団前へ!!構え盾!………相手を受け止めて、悪しき魔物を斬り払え!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
「リーチウム!お前が我が雇った冒険者達の新たな主だ。自由に使い敵を殲滅せよ!我は敵の突撃を防ぎに行く!!」
マックスヴェルは自分の連れてきた冒険者グループを息子のリーチウムに託して、騎士団と共に前衛に出る……
「ち……父上!!」
「我が家系は民のためにある!国王の為ではない!!心しておけリーチウム!!」
魔物が僕の索敵範囲から更に近づき鑑定の範囲に入ったので、魔物の詳細を即座に調べる……
『アーマー・ロックビートル………全長3.5メートルの群れをつくる肉食甲虫で、非常に硬い甲殻を持つ。常に共食いをして強い個体のみが生き残る。固有個体が多く存在し、岩場には岩を模した擬態種になり、森林部には樹木や倒木に擬態した擬態種になる』
「アーマー・ロックビートルです!!」
僕がそう言うと、それを聞いたエクシアは『ソーラーにマックスヴェル……肉食の昆虫だ!噛まれんなよ?食い千切られるぞ』と言う……
「ロズにソウマ手伝え!オレ達は騎士団に混ざり盾スキルを使う!!」
「「おう!!」
テイラーがそう言うと、すぐにロズとソウマが返事をして共にマックスヴェル騎士団とソーラー騎士団の間に入る………
「俺が範囲スキルを使ったら、お前達は『キャッスルガード』を使え!!準備は良いか?盾の範囲スキルを使う!『剛壁』………』
「ソウマ行くぞ!!キャッスルガード!!」
「はい!ロズさん、キャッスルガード!!」
「ミミ!!頼みがある。アシュラムをすぐに此処に!!」
僕は大量に押し寄せるアーマー・ロックビートルに危機感を覚えて、ミミへ援軍要請を出した……
「ほへーーー!?ふ………ふわぁい!ガッテン承知ー!!今すぐーーー!おいでませ!アシュラムさーん!!お仕事でーす!!」
なんて呼び方なんだ……とミクとアーチから突っ込みが入る……
しかし僕はそれどころではない……
アーマー・ロックビートルの数は増える一方で、未だにテイラー達の盾でスキルを使用してどうにか弾き返している状態だ。
エルフの遠距離攻撃では、硬い甲殻と岩の鎧の隙間を通すには数が多すぎる。
狙った個体の上を、新しい個体が這い進んでくるからだ。
僕は咄嗟に次の指示を出す……
「マモンにヘカテイアは遊撃で数を減らして!!」
「な!?マジかよ?聞いてねぇよ!!虫相手なんかできっか馬鹿馬鹿しい……」
「貴方の持っているチョコレートかクッキーって言うのをよこしなさい!そうしたら殺ってあげるわ!」
僕はクロークに中に入ってたチョコレートの袋をヘカテイアに、ココアクッキーの袋をマモンに放り投げる。
「文句言ってないで、さっさと始末してきて!!……うぉぉぉ……ウォーター・スフィア!!」
僕はマモンの愚痴に付き合っている余裕がなかった、既に目の前に気色の悪い大顎が迫っていたからだ。
大顎自体はアリン子で慣れてはいるが、それが僕へ向けられているなら話は別だ。
必死の思いでその大顎ごと、水魔法で頭部を丸々爆散させる。
するとその遺骸の側にいた群がるアーマー・ロックビートルは、方向転換をして動かなくなった仲間をその場で捕食し始める。
「大丈夫かヒロ?」
「はい!ロズさん……流石に余裕がなかったので目に前で爆散させたけど、そのおかげで敵の注意がそれました!」
僕とロズがそう話していると、目の端にヘカテイアがマモンが貰った物を強かに狙っている様子が見て取れた……
「くそ!仕方ねぇな………何で食いものなんかに釣られなきゃならねぇんだ……」
「マモン?馬鹿ねアナタ……考えようよ?命令されたんだから『大暴れして良い』って事でしょう?それも、異世界の食糧よ?此処では手に入らない!!うふふふふ。貴方のそれよこしなさいよ。私が殺るからあなったは座ってると良いわ……」
「ふ………ふざけんな!!これは俺のだ!変質済みの異世界産の食い物は俺の変異の手助けになるからな……お前だけにはやらねぇよ!!」
「あら残念……私自身の変質狙いだったのに……貴方もこの『変質作用』に気がついていたのね?」
戦闘中だったがとんでもないセリフが出てきた……『マモンとヘカテイアの変異を助ける素材が異世界製品』だと言われたのだからびっくりするのも当然だった。
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