第729話「エルフレアの怖いもの」
「相当精神的に参ってるね……あの様子だとアンデッドの取り巻きは、多分太陽のエルフ族って事だろうな……」
「そうでしょうね……あんなエルフレアさんは初めて見ました。付き合いは長くはないですけど……いつも毅然として居るのでちょっと心配になりますね……」
「まぁこの階層を降りて11階で戦っていれば、少しは気が紛れて元に戻るんじゃないかね?それに気持ちも少しはわかるよ……。居なくなったはずのエルフの同胞が、まさか地底にいたと知ったら驚くのも無理はないってもんさ……」
僕とエクシアが話していると、エルオリアスがこの話をすると決まって『いつか連れて行かれるかもしれ無い』と彼女が怯えていた………と教えてくれた。
太陽のエルフの間では、デスクイーン・エルカーヤの伝説は相当根深い様だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて………此処が噂の門だね?確かに壁に門が張り付いてる他何も無いし、向こう側には此処を通ら無いと行けないね……それにしてもこの半分はオークの住処だっただろうに……ケイブ・スクリーマーとケイブが大繁殖だね……」
境界の様に用意された門のあたりは結構な広さがあり、9階層の空洞部と同じ様に餌の搬入場所になっている様だ。
遠征組が全員入ってもまだまだ余裕があるくらい、かなり広い。
しかし足元はベットリと血に塗れていた。
どうやらケイブ達は、この場所を餌に搬入に使い『巨大な食堂』として使っている様だ。
その証拠に宝箱やらドロップアイテムが幾らか転がっている。
箱の汚れ具合から見ても、宝が出てからさほど時間は経ってない。
貴族達はそれを見て喜びの顔になるが、同時に周囲の蹲る人影を見て声を上げるのをやめる……
「ギギギギッギ!!ガガガ……グガ!」
『カチカチカチカチ………カチカチ』
蹲る者達は階層の様子を見て回るエルオリアス達が、先程討伐したケイブの遺体に多く群がっていた。
しかし新しく餌が現れた為、それに気が付き食事から狩りへ変更した様だ。
ケイブ・スクリーマーの遠吠えで、新たに集まるケイブとケイブ・スクリーマーの群れ。
カチカチと歯を鳴らしながら、今にも噛みつこうとする素振りを見せている。
しかし冒険者を束ねる指示役のエクシアは、貴族達が連れて来た冒険者の戦闘訓練を兼ねてソーラー侯爵へ全てを任せた。
ダンジョン深部へ向かう慣れの為には、そろそろ役割分担が必要だと判断した為だ。
現在戦闘の指示は、張り切ってソーラー侯爵の息子リーチウム伯爵が陣頭指揮をとっている。
「者ども怯むな、剣を構え前に出ろ。我々は負けん!死に場所はこんな臭く汚い場所では無い!今まで潜って来た死戦を忘れるな」
「タンクは全員、盾を構え!!押し返すぞ!!王国の冒険者の底力を見せてやれ!」
「戦士は隙を見逃すな!相手はゴブリン以下だと思え。殲滅開始!!」
更にソーラー侯爵が激励し指揮を上げて、パーティーリーダーがタンクに指示を出す。
戦士はお互い鼓舞し合い恐怖を打ち消す。
「ギギギギッギ!!ガァァァァ」
叫び声をあげながら襲いかかるケイブ達。
タンクが巧みな盾捌きで攻撃を受け止め、局面を使い上手く後ろの戦士達に数匹を回す。
タンクの盾に阻まれ、足払いを受けて体勢を崩すケイブの急所に戦士達は二人がかりでダガーを突き刺す。
二人がかりなのは、確実に息の根を止める為だ。
剣を上手く振るえない場所で、お互いの利点を上手く使った戦法だ。
回復師は防御力を上げる加護を、魔導師は隙を見て攻撃魔法を撃ち込み、薬師はどんな状態でも薬を届けられる様に用意しつつ、射撃武器で敵に確実にダメージを与える。
戦い方は一見地味だが、確実に敵の数を減らしていった。
「引くな!王国の明日はお前達にかかっているのだ。士気を保て!そして目の前の敵に刃を突き立てろ!!」
ソーラーやリーチウムの指揮に感化されたのか、マックスヴェル侯爵も真似をして兵士を鼓舞する。
戦闘を始めて半刻もの間戦っていた。
エクシアはそれを見て頃合いだろう……と感じたのか全員に指示を出す。
「アンタ達良くやったね!それだけ動ければもう慣れただろう?」
「エクシアだ!紅蓮のエクシアさんが来たぞ!!皆気合を入れろ!!」
「おお!!俺たちはまだやれる!!かかってこい、地底人」
エクシアの登場で空気が一変する……疲労の色が出ていた冒険者の剣の振り方一つにも力強さが戻っている……
当のエクシアは怪我をしている冒険者に傷薬をぶっかけて、同時にファイアフォックスメンバーに指示を飛ばす。
「ロズにソウマは前衛交代!タンクの戦闘指示にまわりな!ベロニカにエルデリア、エイミィにローリィは射撃部隊を指揮して奴等に矢を撃ち込みな!!」
「行くぜソウマお前の司令官ぶり見てもらわんとな!」
「ですね!ロズさん。タンクは盾を構えろ全員一歩も引くな。盾を上手く使えば楽勝だ!!」
エクシアの指示でロズとソウマが戦列に加わる
「ユイとモアは機動力がある奴を引き連れて遊撃!エルオリアスとエルフレアは近接戦士たちを指揮して殲滅戦を!絶対に1匹も残すんじゃ無いよ!」
「「「「うぉぉぉぉ!!!」」」」
エクシアの明確な指揮で、若干疲弊気味だった戦士達が雄叫びをあげる。
そしてエクシアはさらにダメ押しをする。
「おいで、現し身の焔蛇!……『炎の女神、山神たる力を!』私達の障害となる洞窟の悪鬼共を共に焼き尽くすよ!来れ『チャンティコ』」
エクシアは一通り指示を出し終えると、自分の身体にチャンティコを化現させる。
突然現れた、焔を纏ったラミアのその熱を感知したケイブとケイブ・スクリーマーは、即座に反転して我先に逃げようとする。
ケイブ達の耳は自分が発する声の周波数と反響音を聞き分けて、周囲を把握していた……言うなればコウモリの様にだ。
そして洞窟の生活に対応出来る様に進化した目玉は、熱感知には非常に優れていた。
それがエクシアの心部の熱源を感知したのだ。
突如現れた超高熱の存在。
彼等はそれを感知で感じ取り『此処にいたらヤバイ』と本能で察知した。
「襲いかかって来といてそれはあんまりじゃ無いかい?って事で………逃すかよ!」
「エクシアさんの焔精霊化現だ!!」
チャンティコの詳細を知らない冒険者達は精霊化現と称しているが、火を司る神の化現だと知ったならばその場にひれ伏していただろう……どんなに地面が血塗れで悍ましい状況であったとしても……
運が良かった冒険者はそのことを知らずに、エクシアの一方的な戦闘を見ていた。
エクシアの予想では、盾に襲いかかって来るケイブ達は任せて後続を叩き潰す計画だった。
しかし、サーモグラフ効果が望める進化した目は、間近に突如発生した高熱源を見てその異常性を即座に理解した。
戦闘どころでは無く、もはや逃げるしか無い熱量なのだ。
そのせいで冒険者達の戦闘は中断され、エクシアの一方的な蹂躙劇となった訳だった。
「なんだい!?全部逃げやがった……。蜘蛛の子散らすとは言ったもんだが……見事に散っていきやがったねぇ……。全く拍子抜けも良いところだ。消化不良だよアタイは!!」
「エク姉さん……言ったじゃ無いですか?サーモグラフ効果がある目玉になっていたら『熱感知』ができるって……その燃え上がる体躯に驚いて逃げたんじゃ無いですか?」
ソウマがそう言う。
「アンタさっきからサーモンクラブって言うけど何なのさ?それ?」
何故かエクシアは鮭と蟹を合体させた化け物を作り始めたが、サーモグラフィーの事を知らないので仕方ない。
グラフィーは測定法、グラムは測定結果、グラフは測定装置と説明をするがサーマルカメラもないので理解は難しいだろう。
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