第656話「トラボルタの誤解とヘカテイアの無慈悲の一撃」



「おい!エクシアお前もぶっ壊すの手伝えよ!諦めたらそこでお終いだろうが!」



 唐突にウルフハウンドが文句をエクシアに言う。


 口調からして相当慌てている様だ。



「ウルフ、俺達で何としてもこれを破壊する糸口を見つけるんだ!これが世界と繋がったらあのヘカテイアの様な魔物が来るとわかった以上、世界は間違いなく滅ぶ!!侵蝕を止めるんだ!!」



 ヘカテイアとマモンの一言を全く違う風に取った様だ。


 トラボルタとウルフハウンドは必殺技らしきものを何度も繰り出している。



「トラボルタにウルフハウンド!!剣技を俺の斬撃に合わせろ!三位一体の秘剣で破壊する!」



 ホプキンスを先頭に一列に並んだ格好をすると、狭い部屋で走り出す……


 ホプキンスが飛ぶ斬撃を放ち、ウルフハウンドはホプキンスに背中を使い飛び上がり真上から斬撃を繰り出す。


 ウルフハウンドが真上から斬りかかると、ホプキンスは横に転がりトラボルタに攻撃位置を譲る……



 ……まさか!!『ジェット・ス○リームアタック!?』と思ったが、ヘカテイアはいつに間にか短距離転移でコアの前にいた。



 右手のデコピンでウルフハウンド剣を弾き、左手の人差し指の指先でチョンと触り、トラボルタの最高の剣技を止める。



「無駄だから辞めなさい?武器が無駄に摩耗するわよ?『これは壊せないし、移動も出来ない』物よ?普通のダンジョンコアじゃないのよ。わかる?無駄だし埃が舞うわ!」



 そう言ったヘカテイアのデコピンでウルフハウンドの飛ばされた新しい剣は、天井に深々と刺さっている。


 ウルフハウンドは慌ててジャンプして剣を掴み抜こうとするが、天井からぶら下がる形になる……


 戯れのデコピンで、抜けない位まで刺さった様だ。



 トラボルタはヘカテイアを睨みつけて苦言を言う。



「我々が居なくなったら此処から魔物を出す気だろう!分かっている!このダンジョンを侵蝕して、世界を破壊するつもりだろうがそうはいかない!!」



「はぃ!?ちょっとトラボルタとか言ったわね?この世界程度の破壊なら、此処のゲート使わなくても一人でどうにでもなるわよ!貴方達が使う時間単位で言えば、半刻?それだけあれば人間なんか此処から動かなくても死滅させられるわ!『死の女王』なのよ?これでもワタシは。そもそも貴方の剣を折らない為にワタシは指で止めたんでしょう?契約者の仲間だって言うから特別に!まったく……感謝してよね!」



 ヘカテイアの突然のカミングアウトに心が折れたのか、ガクブルし始めるトラボルタとホプキンス。


 半刻で人類仲良く全員死亡と言われれば当然だろう。



「今言ったけど、今の力で打ち込んでいたら魔剣でも折れてるわよ?貴方マモンと同じ位馬鹿よ?このゲート……いえ『ダンジョンコア』は『不壊』の特性持ちになったの!!だから……『壊せない』の!その上移動も出来ないなんて縛りまで付けちゃって!!誰かさんがね!」



 エクシアとロズがガックリした感じで僕をみる……



 それは僕のせいではない!!と言いたいが、ヘカテイアは僕が知らない何かを知っている様だ。


 後でコッソリ教えて貰おう……人間のご飯が好きそうだから、ラビッツの接待で情報を抜き取ろう!うん……そうしよう!



 そう言ったヘカテイアは渾身の一撃をアーティファクトに向けて放つ。


 当然素手だが、インパクトの衝撃音で耳が『キーン』とする。



「&£€〆々&€&#¥%@#¥」



 ヘカテイアは何かを言っているが聞こえない……耳鳴りのせいだ。


 僕はヘカテイアに耳が聞こえないとジェスチャーをすると、『ハ!』っとした顔になる。



『あら!御免なさい耳鳴りね?念話で話すわね?……で……分かったでしょう?トラボルタくん?ワタシの一撃でも破壊出来ないの!貴方だったらアレ食らったら、肉片がさっきの串肉みたいになってるわよね?』



 ヘカテイアは実際に『壊せない』と証明する為にやった様だ……


 だが、それのおかげで耳が当分使えない……



 状態異常として『耳鳴り・5分間』と出ている……幻聴や鼓膜破損ではない様だ。


 僕はシャインに治せないかジェスチャーをするが、首を横に降る。



 バットステータスの回復に強い回復師だが、治せない異常状態もある様だ。



 仕方ないので、5分の間部屋のチェックをしつつアーティファクトに確認をする。


 耳を使っても声が聴こえないので、これを機に此処での目的を終わらせてしまうのだ。



 それは当然『ダンジョンコア・アーティファクト』の調査と機能の回復だ。



『こんばんわ、マイマスター!『マスターベース』情報不足により機能の制限がされています。現状で出来る手段は『手動』にて出来るコア操作の項目に限られます。『1、対象者へのスキル付与』『2、部屋の使用項目変更』『3、アーカイブ情報の閲覧』そのうち遠隔コア操作が可能なのは1番と3番です。2番はコアからの作業のみ有効です。尚ゲートの使用はコア操作とは別になり、コア室のみの操作になるようです。現在情報収集中の為、詳細不明。以上報告終了』



 よく考えてみたら、危険な状態にあったトロル達はヘカテイア達が毒気を抜き、もうすでに地上へマモンが送った。


 そして新たに増えた問題『ヘカテイア』と『マモン』の地獄帰郷については問題なく済んだ。


 問題なくという意味は『帰る』事だけで、新たな問題の引き金にはなったが、これは今解決するには情報がなさすぎる。


 そして、ダークフェアリーが此処に運びこんだ『アーティファクト』についてだが、『埋没したアーティファクト』の場所に行き調べるしかない状態になった。



 そして此処からが大きな問題だが……ダンジョンコア……要はアーティファクトの大きさが、前に見たものより大きくなった。



 『準備が整った』せいなのかもしれない……長谷川くんが埋め込まれていた時より二回りは大きい。



『アーティファクトに質問。何故コア本体はデカくなった?』



『マイ・マスターへ返信。質問の意味が分かりません。元からコアには『サイズの大小はありません』黒い球体部分はマスターが中に入り情報を統制やダンジョン管理をする場所で、身長に準じて変更されています。尚『黒い球体部分は本体ではありません』……以上報告終了』



 耳を疑った……『本体』と思っていた物は『本体ではない』と言われたのだ。


 耳鳴りで耳がおかしくなったのか?と思ったが、そもそも会話が念話だから耳は関係がない。



『アーティファクト!質問だ!『コア』は何処にあるんだ?』



『マイ・マスターへ返信。ダンジョン・コアすなわち魔物が湧くコアについていては、結晶化した穢れがダンジョン最新部にあります。場所の特定はダンジョン毎に異なり定位置にあるものではありません』


 僕はコアの場所を聞いたら、アーティファクトはその情報を的確に報告してくれた……


 しかしコア違いの情報だった……


 僕は『しまった……聴き方が難しいな……』とおもったが、報告は終わっていなかった様で更に情報を付け加えてきた。


 流石、僕と違って優秀だ……と思うしかない……



『アーティファクトのコアについては、ダークフェアリーが『ダンジョン』へ持ち込み後『ダンジョンのコアと融合』した為、アーティファクトのコアも変質し原型を維持できなくなりました。既に双方が等しく融合してしまい、どちらかのコアだけの分離・廃棄・撤去は出来なくなりました』




『ダークフェアリーが設置した情報はすでに聞いたけど……その時点で既にヘカテイアの言う『不壊』になったってことかな?』



 僕が報告の最中に口を挟んでしまったせいで、アーティファクトは一旦話を中断する。


 多分コア情報との関係性を調べて纏めているのだろう。


 優秀なアーティファクトは、すぐに僕が欲しい情報を整理して、不壊になった経緯を教えてくれた……

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