第651話「危機一髪!?トロルの変異」


「おいヒロアンタが手に入れたにはなんだい?あたしゃ大炎獄だってよ。地獄の再現らしいわ……なんでこんな物騒なの手に入ったんだか……まぁ炎だから相性がいいけどね!」



「僕は『拡張』ですね。既存のものを文字通り『拡張』してくれるそうです。詳しい用途は実際使わないとわかりませんけど……」




「って事はあの水溜り……まさか……『ウォーターの生活魔法を拡張』したのか?」



「…………そうですね……部屋半分が水浸しなのでウォーターは拡張したらヤバそうですね……此処がダンジョンで良かったです。今遠隔コアでお願いして、別階層に雨として降らせて貰う所です」



 その言葉を聞いて皆が呆れる……



「雨?他の階層に?……もはや何でもありなのね?あの水を全部処理出来るなんて………あ……本当に無くなっていく………」



 ミクが呆れてそう言いながら、床から消えていく不思議な水溜りを指さす。


 しかし皆スキルを手に入れた事で大はしゃぎだ……その事などお構いなしなので助かった。



 冒険者ならば鑑定スクロールは最低限アイテム鑑定用に持ち歩いているが、皆羊皮紙のスキルスクロールを使った後、自分に鑑定を使って確認していた。



 しかし時間が押している……当初は此処まで時間がかかるとは思ってもいなかった。



 スマホを見ると、既に時間は「16:20」を指していた。


 エクシアがそれを見て『もう夕方じゃねーか!』と言う……いつの間に24時間制を覚えたのだろう……



 確かにエクシアにはスマホをよく見せていたが……


 エクシアはこうしちゃ居られないと思ったのか、全員に騒ぐのを辞めさせる。



「さっさと準備して降りるよ!今からトロルを迎えに行くんだから!チンタラ宝の選り分けやらスキル自慢をしてんじゃないよ。やるなら各貴族の屋敷で後でやってくれるかい?」



「エクシアさん!それ秘密なやつ!」



「え!?…………そうだっけ?でも元々はアンタが言った事だし、もうそれ以上の化け物仲間にしたんだから……隠す意味がないだろう?なぁ?ヘカテイアにマモン……」



 ヘカテイアとマモンは、『トロル救出』の話を聞いて呆れ果てていた。



 ロズとベンは、僕とエクシアのやり取りを聞いたソーラー侯爵に言う……



「もう遅いっす……抜けられないですよ?」


「ロズの言う通りな……さぁ……貴族の皆さんもさっさと宝をしまって下さいや!おいヒロ、お前の宝しまえ。一番おせぇぞ!」



 僕は宝箱に向かうと、シャインは既に祝福を済ませていてくれた様だ。


 周辺では特殊武器の山からの選択に呻き声が上がっている……何を選んでも結局どれも欲しくて悩ましいのだろう。


 僕は特殊武器しか入っていない宝箱を見ると……シャインが……



「当たりとは言い難い内容です……何故かロングソード4本に……どう見ても『秘薬』と思わしき物に……綺麗な腕輪位ですね……無難なのは金貨袋でしょうか……呪いは無いですけど……」


 そう言われて中を見ると……


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


金貨袋(200枚)


秘薬


風精霊のロングソード(鞘付き) ※祭壇効果あり


水精霊のロングソード(鞘付き) ※祭壇効果あり


火精霊のロングソード(鞘付き) ※祭壇効果あり


土精霊のロングソード(鞘付き) ※祭壇効果あり


精霊の腕輪(上級祭壇)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 嫌がらせか?と思える内容だった……


 精霊装備それも剣限定……全部困った事にロングソード(鞘付き)だった。



 モノクルで見なくても分かりるが念の為見るフリをする。



「確かにもうエルフのロングソード持ってるしね……使い勝手が困った感じだね……」



 そう言ってよく見ると、剣は全て『精霊祭壇(上級)』の効果がある……ますます精霊使い用の装備でしか無い。


 全て呼ぶには腕が4本無いと使えない代物だ……まぁ剣を鞘から抜く必要は無いが……



 そもそも精霊を呼ぶなら剣を使わなくても、祭壇効果がある腕輪などで十分だ。



 僕はマジックグローブにそれをしまい、腕輪だけ身に付ける。


 腕輪は『精霊の種族を問わず』呼べる物だったので、唯一この中で僕的に一番良い物だった。



「なぁヒロ……ヒロの前半戦の取り分これで良いか?と言うか満場一致でコレしかなかったんだ。他のメンバーだと困るんだよな……」


 そう言って階層主箱の取り分として渡してきたのは『秘薬』だった……



「ソウマさん……実は今箱から秘薬が……」



「うん……知ってる。聴いてたから……だからなんか言い辛くて。でもコレ俺らが持っていると、それはそれで危険だから……なんかごめん……」



 僕は廃棄処理場じゃ無いが、言いたい意味はわかる。



 マジックグローブにしまってしまえば、誰も取り出せないのだから、僕はしまうしか無い……



 非常に価値があり良い物だが、正直使いどころに困る物だ。


 持っていると特定の貴族に知られれば命も危険だ。


 それに、危険に身を置く確率が一番高いと思われて居るのだろう……だが、それも間違いでは無い。



 運良く使うチャンスがあれば、迷う事なく使って無くしてしまおう……それが僕の為だ。



「準備は良いかい?アンタ達……これから9階層に向かう私等の目的は『トロル王国』との交戦状態を回避する為だ。良いか?貴族達はこの件にはノータッチで頼むよ?じゃ無いと街で会ったら首刎ねるからね?」



 エクシアのセリフは冗談だったが、あの戦闘を見た後なのだ……貴族は本気と捉え文句など言う筈もなかった。



 エクシアとトラボルタを先頭に一路9階層へ向かう一行……


 転移魔法陣を起動して移動すると、そこに居たのは半分ダークトロルになりかけたウボォだった……



「ヒロ……か?……ハラヘッタ……皆……ダークトロル二ナル。ゴブリンとホブゴブリン増えナイ……空腹……欲望ツヨクナル……闇オチル……魔素コイカラ……」



 周りを見るとダークトロルになって尚、意識を保っているトロル達がいた……



「エクシアさんヤバイ!これは予想外だ……あの名前付きを追い払ったら生態系が変わったんだ!!前みたいに繁殖しない!ユイナさんすぐに食事の準備を!肉は運良く龍っ子が捕まえた蛇肉がある……」



「えーーーー!!パパーーーー?ママも食べてないのにお肉を全部トロルにあげちゃうの!?」



「今それどころじゃないんだ!ごめんね」



 僕が龍っ子に謝ると、ミクが代わりに話してくれた。



「龍っ子ちゃんは狩の練習へ毎日行くんじゃないの?」



「え?もちろん行くよ?」



「肉は一杯あってもいつかは腐っちゃうよ?無駄にしたいの嫌でしょう、勿体無いものね?無駄にしたらパパ嫌がるよ?それに今あげたらトロル達はいつかお礼に良いものくれるかもよ?パパは前に助けた事で、魔法の地図貰ったんだよ?それに知り合いになったらトロルの国のお城に遊びに行けるかもよ?」



 疑問を沢山投げかけて、龍っ子をうまく誘導する……


 ミクは龍っ子と仲が良いので、あっと言う間に彼女に懐柔される。



「本当?ミクおねぇちゃん?……じゃあ……あげてもいい!!今度トロルの国にパパと行ったらお腹いっぱいご馳走して貰う……トロルって何食べるんだろう?楽しみー!」



 龍っ子をミクが宥めたが、正直全長20メートルある蛇肉を全部など幾らトロルでも消費出来るわけがない。


 それも身体の太さは尋常では無いのだ、幼体の龍だが火龍だ。


 そんな相手とバトルするのだから当然デカイ。



 僕はすぐに部位を取り出し、手頃に切り分け加工する。



「おお……情けナイ所ヲ見せタ。オレ達の事忘レテ無かっタのだナ?助かっタ……仲間ハ何人カ、ダークトロルになってしまっタ。」



「グルグアさん大丈夫です。ご飯食べたら元に戻しますから、それなりに準備は出来てます。だから安心して、ひとまず食事を先に……」



 ダークトロルになって尚、自我を保ち僕達を襲わない様にしているトロルの意地を見た……


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